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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode6 2人目のネオ・ヘキサフリート
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29話 傷つく覚悟をもって薔薇に触れる

「2人とも、もう上がっていいぞ。お疲れ様。」

「お疲れ様でしたー。」

「お疲れ様でした。」

 ある日の休日。レイジはヘキサフリートの1人、ラクアに頼まれ、とある喫茶店の臨時アルバイトをしていた。前日に急に入れなくなったというアルバイトの穴を埋めてほしいと言われたラクアは、人の心が読めるレイジを雇うことにした。

 その仕事はというと、基本的にテーブルの片づけたり出来上がった注文の商品を運んだりしつつ、客の心を読み注文する前にキッチンにいる料理人に品名と数量を伝える。

 すると注文してから作ることが少なくなり、注文待ちの客の待ち時間が減ると同時に滞在時間も減るため案内待ちの客の待ち時間も減り、回転率が良くなる。

 ベルを鳴らして店員が注文を受けにいったときに突然オーダーが変わることもあるが、それは客の気まぐれでありレイジの事前予測が大量に間違うことはない。せいぜい1品程度の間違いだ。

 また、他の店員がやらなければならないのに手が放せなくて困っていること、例えば注文ミスを料理人に伝える、優先して片づけるテーブルに向かえないなどの悩みを読み取り、できる範囲で自主的に取り組むこともできる。


 前日の夜に頼んだことを承諾し、注文を取るための機械の扱い方や料理の作り方、レジの取り扱いも、何も知らない人のできる仕事としては十分すぎるもので、多少のオーダーミスや不器用な動きには目を瞑ってくれた。

 バイト代を受け取った後にはぜひ正規のアルバイトとして入ってほしいとまで言われたが、家からも高校からも遠いこともあり、断った。


「いやー、それにしても本当助かったぜ。サンキューな。レイジ。」

 更衣室でバイト着を脱ぎ学校の制服に着替えるラクアは、一緒に着替えているレイジに感謝を伝えた。

 自分の仕事の負担が減ったのもあるが、有能なヘルパーを連れてきたことで店長からの信頼が上がったことが彼にとっては1番嬉しいことだった。


 レイジはアルバイトをしたことがなかったが、今日の活動を経て案外悪くないものだと感じていた。とはいえ、何の研修もなしに最初から3時間ぶっ続けで、それも部活を終えてしばらく家で休んだ後に電車で2時間かけてやってきたのだから一刻も早く眠りにつきたかった。

「お前、本当にこんなたくさん働いているんだな。尊敬するぜ。まじで。」


 ラクアが数多くのアルバイトをしているのは知っていたが、一つやっただけでこれほどまで疲れる仕事を毎日、しかもこれ以上の時間取り組んでいることを考えると、楽しく部活だけやって放課後や休日を過ごしている自分は恵まれていると実感した。

 決してラクアは貧乏なのではない。けれども昔から人一倍努力家だった彼は仲間のために誰よりも仕事をし、妥協を許さなかった。今こうして働いているのは、お金を貯めておくためだ。そのお金は自分や家族のためではなく、ワタルやマサタ、トシヤなどの仲間とのために使う。将来のために貯めてある分もあるが、多くは旅行や食事などに割り当てている。

 ゆえに彼の自由な時間はほとんどない。自分一人のためだけに予定を空けることはないが、仲間と過ごすために予定を空け、代わりに他の日の勤務時間を増やすという、まさに仲間思いの働き方だった。


「働いた分だけ、後々楽しめる。そのために俺は頑張れる。お前もいつか分かるさ。」

 手早く着替えを済ませたラクアに置いていかれないよう、レイジも急いで着替えを終えた。


「レイジはここから2時間かけて帰るのか。気をつけろよ。明日休みだけど。」

 世間は休日。部活も午後からで、午前中はゆっくりできる。そうは言ってもラクアは朝6時からコンビニのアルバイトが入っている。そして一日中バイト三昧だ。そんな彼のほうが、レイジは心配だった。

「お前こそ、体壊すなよ。」

 ラクアは心配ないと言い店のドアを開けた。外は真っ暗で、風が冷たい。そんな中で、店の前に1人の女の子が立っていた。

 女の子の名前は九重(ここのえ)藍子(あいこ)。レイジたちと同じ高校1年生、そしてラクアと同じヘキサフリートのメンバー、クオンと同じ高校の生徒だ。


「こんな時間に何やっているんだ? 風邪引くぞ。」

 ラクアは心配して言ったのだが、アイコはそっくりそのまま言い返してしまった。

「それはこっちのセリフよ! またこんな時間まで働いて、体壊すのはあなたでしょ!?」

 アイコはラクアに予定が空いていないか聞いたところ、毎日埋まっていると返された。ちょうど先週も埋まっていると返され、その理由がこの店のアルバイトであったため、今日もそうではないかと考え来てみたところ、働いている彼を見つけた。だから話をするために店の前で待っていたという。


「別に。いつも通りじゃん? それにまだ11時だし。」

 先週は12時までシフトが入っていたが、今日は早めに上がらせてもらえた。レイジを連れてきたおかげで、効率よく(さば)けたからだそうだ。

「てか終電大丈夫かよ。レイジもそろそろじゃないか?」

 元々レイジは家まで帰れない。それを承知でラクアの頼みを引き受けていた。今日はヒエイの家に泊めてもらう。そうすることで終電が1時間伸びる。

 けれどもアイコはどう準備しているのかは知らない。この店の最寄り駅からのアイコの家への終電は30分以上前に行ってしまったし、誰かの家に泊めてもらう当てもなさげに思えた。そして何より、レイジにも分からない。終電がなくなることを知っていばがらその後どうするかは本当に何も考えず、ラクアを待っていたようだ。


「そうだな。俺はそろそろ行かないと……あ、駅への道はちゃんと覚えているから心配無用だ。」

 レイジは2人の問題に首を突っ込むものではないと思い、一足先にここから去ることにした。

「で、アイコ、お前はどうするんだよ。」

 2人の会話が聞こえてくるが、レイジは気にせず駅に向かって歩く。

「私のことより、あなたのことを聞いているのよ!」

 ラクアの意見に納得がいくまで彼を帰さず、自分も帰らないようだ。彼女は彼の不幸な未来が見えているわけではない。ただ心配性なだけだ。クオンを通して知り合った2人だが、その優しさと強さに惹かれていったアイコは、それ以来特にラクアのこと、主に過労による体調の悪化を心配している。

 ラクアがアルバイトを減らさないと言うなら他のことでの負担を減らすために彼に変わってヘキサフリートの一員になると言ったが彼女では力不足だと判断され断られた。そのため週毎に彼が勤務するアルバイトの種類、量をカレンダーにまとめて彼が限度を越えて働かないよう忠告している。

 そして今日は休むべきだと伝えていたのに当日になって連絡がつかなくなると、忠告を無視してアルバイトをしているのではないかと思いここに来て今に至るというわけだった。

 このままラクアは素直に誤り明日のアルバイトを休むとは思えないし、アイコが納得してすぐに帰るとも思えない。下手をすればここで一晩明かす可能性だってある。


 たとえラクアの迷惑になっても、嫌われたとしても、彼には健康でいてほしい、急に倒れてバイト先の人に怒られてほしくない。それがアイコの願いだった。その願いの強さは、レイジにも伝わってきた。


「ちょっといいかなぁ、兄ちゃんよぉ。」

 2人の前に、高校生3人組がやってきた。いかにも気取った不良の外見、それなりに背丈はあるが猫背で歩き方はだらしなく、気持ち悪い笑い顔をしている。彼らが何をしにやってきたのかくらい心を読まずとも分かる。

 レイジは後ろを振り返り、ゆっくりと引き返して彼らの元へ向かった。


「ダメじゃねえか、喧嘩なんかしちゃっよお。どうだい、彼女、俺たちと一緒に遊んでいこうぜえ。」

 男の1人がアイコに向かって手を伸ばしたが、彼女はおもいっきり振り払った。

「何ですか! 私は大事な話をしているんです。邪魔なので向こう行ってください!」

 アイコは強気で叫び返したが、その言葉は彼らの逆鱗に触れた。

「ンだと!? こうなりゃいっぺん痛い目に遭わせてやってやろうじゃねえか。」

 3人がかりでアイコに襲いかかるが、彼女は一切動揺を見せなかった。ラクアは彼らを強く叩くと、能力を使った。

 ‘オーバーワーク’。触れた者はある行動に対して過剰に体力を消耗する。一回殴りかかっただけで、百回実際に殴ったかのような負担が全身にかけられた彼らは、立っていることもできずその場にへたりこんだ。座っているのもつらくなって倒れ込むと、息切れも激しく声を出せなかった。

 ラクアのことを知らない彼らは、突然の出来事に何が起こったのか分からなかった。


「なんだレイジ。戻ってきたのか?」

 レイジに気づいたラクアは、倒れている3人を見てため息をついた。

「分かっていると思うが、別に俺はたいしたことはしてないぜ。」

 ツラクア能力は、相手を叩く力が強ければ強いほど疲労感が大きくなるため、一瞬で黙らせるために強く叩くしかなかった。

 けれども強く平手を腹に打ち込むだけで、暴力といえるほどのものでもない。それに向こうから仕掛けてきたことなので、店員としての不祥事とはならない。ラクアには何も悪い影響はなかったから、レイジには心配してもらいたくなかった。

「まあ、心配で戻ってきたわけじゃないけどな……」

 レイジはふと思いつくと、アイコに話しかけた。

「なあ君……ネオ・ヘキサフリートにならないか。」


 唐突な発言に、ラクアとアイコは顔を見合せた。レイジは続けて言った。

「俺はこの島に来て、ツトムたちと出会った。ヘキサフリートに入らないかと聞かれたが、俺は独自のチームを作りたかった。だから、その最初のメンバーにならないかっていう話だ。」

 アイコはラクアに代わってヘキサフリートに入りたい。けれども力不足で願いは叶わなかった。だから代わりに別のグループに入ることによって、ツトムの負担を減らせばいい。それがレイジの意見だった。

 ラクアはレイジのことをアイコに教えた。春にこの島にやってきて、Sランクと評価された高校生1年生。そしてヘキサフリート全員に勝利した強者。それがこのレイジだと。

「へえー。じゃあこの人が、あのコスモを助けた影のヒーローなんだ。」

 以前コスモを襲った謎の組織。その陰謀にいち早く気づいたレイジは唯一連絡のつく暗殺者であるクオンに電話をかけた。そしてクオンがレイジと話しているのを聞いていたアイコは、そこで初めて彼の名を聞いていたことが分かった。顔は知らなかったため、今になって彼を認識した。


「ネオ・ヘキサフリート……ラクアたちヘキサフリートをバックアップする組織というなら、私は喜んで加入するわ。」

 レイジがそう認めればアイコは快く受け入れただろうが、彼はサポート役という認識を認めたくなかったので否定した。

「バックアップなんかじゃない。やることは本家と同じ……いや、目標はそれ以上だ。」

 本家の負担を減らすという意味ではバックアップに当たるが、本家なしで活動できないような小さく弱い存在でもない。今はまだメンバーがいないが、本家なしでも力を発揮できるほどに大きく強い存在だと認めさせたいのがレイジの望みだ。


 それを聞いたアイコには、加入したいという気持ちがあるのはレイジにも分かっている。けれどもアイコが賛同できないのは、自分に自信がないからだ。一度受け入れを拒否されて、そんな自分をスカウトしてきたグループに入って、それが逆にツトムたちに迷惑をかけることを起こしてしまうことに繋がってしまうのではないか。

 そんな悩みが、アイコの心に引っ掛かっていた。


「……ラクアはどう思うの?」

 自分だけでは決めきれないアイコは、ラクアに意見を聞いた。

「こいつを選ぶとはな……てっきり全員ヘキサフリート以上、それこそS+ランクもスカウトするかと思っていただけにな。まあ、レイジが選んだっていうなら間違いはないと思うけどな。」

 ラクアはレイジが加入条件にヘキサフリート全員に勝つことくらい要求してくると思っていたらしくこの判断は予想外で驚いていたが、レイジは、Sランクに縛られない考えもありだと考えた。適性があれば、1人くらいS+ランクがいてもいい。彼はそう思い直した。


 それでもなおすぐには結論を出さないアイコが焦れったいので、時間がないレイジは急に話を進めた。

「続きは電車の中だ。終電がもうすぐだから急ぐぞ。アイコも泊まる当てがないなら一緒に来い。」

「ああっ、ちょっと……」

 レイジはアイコの手を引いて、駅に向かって走り出した。結局こうでもしないとラクアは家に帰れなかったのだから、やむを得ない手段だった。


 ギリギリ電車に間に合ったレイジとアイコは、乗り換えまでの時間のうちに話をまとめざるを得なかった。アイコが最初に聞いてきたのは、これから行く場所についてだった。

「行くって、あなたの家に!?」

「いや、俺の知り合いのヒエイって奴の家なんだがな。」

 ヒエイと聞くと浜金谷のヒエイが思い浮かんだ辺り、どうやらアイコとヒエイは知り合いのようで好都合だと思った。

「だいたいお前も後のこと考えてなさすぎなんだよ。終電逃してまでラクアを待つとかなあ……」

「仕方ないでしょ!? あそこではっきり伝えないとまた……」

 結局今日話したところでラクアがアルバイトを削るとは思えなかった。むしろこの先アイコの忠告に従うとさえ思えない。

「だから、あいつのことはもういいって。アルバイトを減らすってのはもう諦めて、他のことで負担を減らせば大丈夫だって。」

 そうなると今度は自分の能力がという話になってしまうので、まずはアイコには自信をもってもらわなければならない。彼女の能力を最も活かすためにできること。それに気づかせることができれば、彼女は進んでネオ・ヘキサフリートに加入してくれるだろうと信じ、レイジは話を続けた。

「私の能力は……願いを叶える力よ。そして……」

 アイコは自分の能力を明かした。Sランクと評価された由縁。そして、彼女がヘキサフリートに及ばなかった悩みの種。それは……

「あらゆる物を、破壊する力……」

 悲しげな表情を浮かべて呟くアイコの心の奥には、数えきれぬ傷を負った記憶が潜んでいた。

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