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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode4 零の約束
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18話 言えなかった「ありがとう」

「言っとくが俺とヒカリは付き合ってないからな。いつも一緒に帰ったり昨日水族館に行ったり今度映画見る約束したりしてるけど付き合ってないからな。」

 翌朝学校に着くと、ヒカリとの噂が広まっていた。ヒカリがレイジの上着を着て教室に入ってしまったのも余計に話をややこしくしている。

「映画の話は初耳なんだが……」

「あっ、それさっきヒカリから聞いたわ。デートの感想聞いたら、今度は映画見に行くって。」

 確かに水族館に行った日にそんなことを言った気がする。


「それよりヒカリ、なんで上着返してくれるの明日なんだ? 明日の朝着ていけないんだが。」

レイジは昨日の夜、ヒカリに電話して制服の上着を持ってきてほしいと言った。しかしヒカリは慌てた様子で明日は返せないと言っていた。それなのに今、きっちりと上着を持っている。レイジは電話の相手の心はいくら動揺していようと読むことはできない。だから今直接聞くことで、その真意を明らかにしようとしていた。

「そ、それは……そう、じゃんけん! じゃんけんで私に10連勝したら教えてあげる! 私が先に50連勝したら教えない!」

 ヒカリは心の中で思っていた。もう少しだけ、レイジの上着を着てみたり抱いたりしたいと。しかしそんなことは口が裂けても言えないので、絶対の自信がある勝負で切り抜けようと。


 ヒカリの能力は"ビギニング・オブ・フィナーレ"。一度起こった出来事をその後何度でも起こすことができる。一度じゃんけんに勝てば、能力を使う限り相手が変わろうともう負けることはない。弱点は最初のみ能力が使えないこと。一度も勝つという出来事が起こらなければ、再現のしようがないのだ。つまりこのルールでレイジが勝てる確率は、2分の1の10乗。1/1024だ。

 しかし心の読めるレイジは教えてもらわずともわかっているので今から勝負を受ける必要すらなく、勝負自体も負けるはずがない。ただ理屈的には能力なしで勝てる方法なので、勝負に乗ってついでに打ち負かすことにした。


「ああいいだろう。約束だからな?」

「じゃあいくわよ! じゃんけんぽん!」

 一度のあいこもなく、レイジの10連勝に終わった。

「……やっぱり20連勝!」

 0.1%の確率くらい、突然起きても不思議ではない。ヒカリはレイジの勝利条件を変更してきたが、関係のないことだ。レイジは不適に受け入れた。

「ああいいぜ、好きにしな。ただし何度やっても俺には勝てないがな。」


「やっぱり50連勝!」

 30、40、そして50とレイジの勝利条件を後出し変更していくが、レイジは一度も負けにもあいこにもならず、49連勝していた。これで最後の1回だが、レイジはもともと勝つメリットがないし、ヒカリの能力が本物かどうか試したくなる好奇心が湧いてきた。相手の出す手がわかっているのに一切勝てなくなるのはどういう原理なのか想像がつかないからだ。


「じゃん……けん……ぽん。……か、勝った、勝った!」

50戦目。レイジはヒカリに負け、49連勝でストップした。

「ここから私が49連勝すれば私の勝ちね! いくわよレイジ、じゃんけんぽん!」

 ヒカリはグーを出そうとしていた。それを読んだレイジはパーを出した。しかしヒカリが出したのはチョキだった。本人が考えているものと違う手を出すということか。どんなに心を読んだところで運命は変えられない。レイジはヒカリに勝つ術を失った。


「これで私の50連勝ね! 約束通り制服のことは内緒よ!」

 結局そのまま50連敗してしまったレイジだったが、悔しくはなかった。

「仕方ねえ。ま、仮に上着を着てみたとか、匂いを嗅いでみたいとかいう理由だとしたら知らないほうがマシだしな。」

「な!? そ、そんな変態みたいなことしないわよ!」

「そうよ、レイジじゃあるまいし。だいたいそういう発想自体が変態そのものよ!」

 周りの言葉は面白いほどにヒカリの心に突き刺さっていった。

「俺だったらその程度で済ませないからな。てなわけでヒカリ、その今日の放課後部活で使うウェアを1枚預からせてもらおう。」

「は!? な、何考えているの!? 絶対に嫌よ!」

「1日だけだから、明日の朝制服と交換って形で返すから今晩使わせてくれ。」

「使う!? 使うって何!? もう最低! レイジなんか大嫌い!」

 ヒカリはそのまま走っていってしまった。本気で怒っていたが、後で自分を責めてしまうだろう。自分がされたら本当に嫌がることと似たことを、自分はやっているのだから。そしてそれをレイジに見抜かれているのだから。

 レイジは思った。この問題は一人では解決できないと。レイジは頼りになりそうな二人に連絡し、明日相談に乗ってもらうことにした。


 放課後、レイジはイブキとともに買い物をしていた。たまたま二人の帰宅時間が合い、駅で合流した後一度家に荷物を置きデパートへ向かった。

 しかしそこでタイミング悪く、二人でデパートから出るところでヒヒカリに出会してしまった。

「レイジ? そして……イブキさん?」

 

 レイジはイブキに荷物を預け先に帰らせると、公園に向かいヒカリと話をした。

「じゃあ、レイジは居候することになって、たまたまイブキさんの所に住むことになったのね。」

「ああ。あいつが俺を見つけてくれたからな。黙ってて悪かったな、ヒカリ。」

「ううん。私、レイジのこと知れてよかった。すごく大変な日々だったんだね。」

 レイジはすべてを話したわけではない。前の学校で虐められたから家出した。そう伝えた。

「じゃあ、レイジ……今の生活は、どう思ってるの?」

「そりゃあ、すごく楽しいさ。今までのが嘘みたいにな。」

 ヒカリはほっとした。規模は違えど、この学校での生活に不安があり、通い始めてからは毎日が楽しいと思っているのは同じだと知ったからだ。

「じゃあね。あと、その……制服、明日返すから!」

 ヒカリは走って帰っていった。


翌朝、レイジは学校の最寄り駅で待ち合わせたヒカリから上着を返してもらった。そのときヒカリは一切口を利いてくれなかったが、レイジが歩き出すまで動き出さず、レイジが歩き出すとその横について歩き出した。歩き出してしばらくすると、ヒカリは口を開いた。

「……誰から聞いたの?」

「……あれは俺が女の子の服を一晩預かったとしたらすることを言っただけだ。別に気にすることはないぜ。俺とお前は実は似た者同士だったってことでいいじゃねえか。」

 心を読めるということをバラしてしまうとかなり面倒なことになるので、レイジは強引にごまかすしかなかったのだ。2人への相談は放課後にするしかないので、今日学校にいる間は適当にあしらわなければならない。下手に喋ってしまうと余計に傷つけてしまう可能性が高くなるだけだ。

「私は、違うもん……レイジの、レイジの服だったから……私には、レイジしか……」

 つらい思いをさせているのはわかっている。レイジは気を紛らせようと茶化したが、うまくいかなかった。

「……そりゃあ俺がいなかったらお前ぼっちだったもんな。それに俺みたいな自分に興味があって接してきた男にすぐ惚れてしまう癖があると、いつか取り返しのつかない目に遭うぜ。」

「……だったらそのときは、私を救ってよ……」

 ヒカリは突然立ち止まって言った。レイジはふと疑問に思う。ヒカリはこんなキャラだったのかと。普段は曲について語り合ったり流行のファッションの話を聞いたりする仲に過ぎず、ここまで重い話になることはなかった。原因はレイジだ。過去のことを思い出し、自分に関わるのをやめさせようとしたのがヒカリをおかしくさせている。もうあの街には戻らない、この島で平穏が続く限りは。そう決めたのに、ヒカリを巻き込むわけにはいかない。過去の自分は、ずっと隠しておく必要がある。


「お前にすり寄ってくる男が出たら叩きのめしてやるよ。だから心配するな。その前にまずヒカリは、モテたいならモテたいなりにまともな人間になる必要があるだろ。」

「な、どういう意味よそれ! 私がまともじゃない理由を言ってみなさいよ!」

「なんだ、心当たりでもあるのか? 俺は適当に言っただけなんだがな。」

 適当なのは今のレイジの発言だ。ヒカリはレイジの知る限り相対的に相当まともな人間だ。だからこそ平穏な学園生活をおくりたいわけで、ヒカリとは能力の関係ない普通の時間を過ごしたいと思っている。適当に挑発すればヒカリはそれに乗ってくるので、話題を切り替えたいときはいつもこんな手を使っている。


「俺の周りは変な奴ばかりだからな。それはそれで楽しいけど、やっぱり普通の生活もあってほしいんだ。ヒカリと一緒の時間が無くなったらもう俺は心が歪んでしまうだろうな。俺はお前のことを嫌いだなんて思ってない。だから制服のことは水に流せ。」

「……レイジ。」

 ヒカリの表情に少しだけ明るみが見られた。

「本当は今日の放課後一緒にファーストフードにでも行きたいと思ってたんだが生憎予定が入っちゃってな。また今度ということで。」

「……ふふっ、仕方ないわね。だったら私はミライの家でも行こうかしら。セツナは、急に予定が入ったって、言ってて……」

「おっとそれは違うぞ。別に俺はセツナの家に行こうだなんて……」

 何かを察したヒカリはじっと睨んでくる。レイジは頑張って目を逸らすが疑いが晴れそうにない。確かに昨日セツナに電話して今日相談を聞いてくれるよう頼んだわけだが、こんな形でバレそうになるのは予想外だった。


「ま、ミライと付き合おうとしていた人が親友のセツナの家に上がり込むなんて気まず過ぎて出来やしないだろうし、私の早とちりだったみたいね。ごめんなさい、レイジ。」

「……まったくだな。そんなに心配ならセツナの家に行ってみたらどうだ? あいつが家にいるのかは知らんが。」

 謎の間を入れてレイジは応えた。

「ううん、私はレイジを信じるわ。私といるのが嫌になってセツナに手を出そうとしているわけではないってね。」

 なんて人聞きの悪いことを言ってくれるんだ。セツナに会うのはヒカリのためだなんて言うのは無理だろうが、ここまで言われて何も言い返さないわけにもいかない。

「敬語女子っていいなって思ってさ。」

「まあなんて気持ち悪い人。二度と話しかけないでください。」

 ヒカリは満開スマイルできつい言葉を浴びせ、そのまま先に学校に行ってしまった。

「……こうでなくちゃな……」


 学校に着いてからもヒカリの態度は変わらず、レイジに対して常に敬語、そして事ある度に罵倒していた。周りの面白がってる目が不快で仕方がない。ヒカリは今日の放課後セツナの家に行き、レイジの潔白をその目で確かめるまではこの態度をやめないつもりだった。ヒカリとセツナは通う学校は違えど家の最寄り駅は同じなので、いつ見つかってしまってもおかしくない。それ以前にヒカリはレイジをこっそり追うつもりだ。


 ホームルームを終え、帰宅の準備を始めるが1つ前の席はヒカリだ。見つからずに教室から出るなど不可能に近い。すぐに部活が始まってしまうので隠れてセツナたちに連絡をする時間はない。

 約束の時間に間に合わせるには定刻通り部活を終え寄り道せずに行くしかない。運動が得意ではないレイジは人を振り切って駅まで走っていくのは不可能だ。いや、振り切る必要はない。セツナの家に入るところさえ見られなければごまかせる。


「悪いヒカリ、俺は今日用事があって部活終わったら速攻で帰るから。」

「そうですか。では私も走っていきます。乗る電車は同じです。」

「……そうか、じゃあ家まで送っていってやるよ。」

「ありがとうございます。これでレイジの潔白は証明されますね。」

「……夕飯はいただいていかないからな。」

「じゃあやっぱりセツナの家で夕飯を」「それは違う。だいたいあいつの家に行くなんて一言も」「あ、明日また練習するんだろ? そのときセツナに聞きゃいいじゃねーか。」

 レイジは何を言ってもごまかせる自信がなかった。


「わかったよ。俺は一度ヒカリの家に行った。そしてセツナの家に行くのは今日が初めてだ。だから2人の家に行った回数は同じだ。平等だろ?」

「クラスメイトである私の家に行った回数と他校の生徒の家に行った回数が同じなのはおかしいと思います。割合的には5:1くらいで平等と言えます。」

「いい加減元の喋り方に戻ってくれないか? 今のお前全然可愛くないぞ。」

「私よりセツナのほうが好みなら、今後私はこのキャラで通します。」

 ヒカリは今の敬語キャラより会ったときの中二病のときのほうが面白いと思っているのは内緒だ。それに振り回される系の敬語キャラだから萌えるのであって高圧的な敬語キャラは自分には合わない。レイジは今のヒカリはこれっぽっちもセツナに似てないと感じていた。


 レイジはある策を思いついた。レイジは電話をかける。それをヒカリは聞こうとしてくるが、何も問題はない。

『……あ、ヒエイ、今どこにいる? 学校? なあ、今日頼んでた相談なんだが放課後、バイクでうちの学校に来れるか? うん、うん、わかった。サンキュー。』

 部活が終わる頃にはヒエイは家からレイジの学校まで来れる。そこからバイクに乗っていけば、確実にヒカリより先にセツナの家に行ける。完璧な作戦だ。電話の相手は男子だから、いくら話の内容を聞かれても平気だ。

 ヒカリにヒエイのことについて話すと、どうも2人は知り合いのようだった。以前ヒエイはセツナを助けたことがあり、それ以降たまに連絡を取り合う仲らしい。ヒカリがヒエイに会ったのは数えきれる程度で、あまり深い仲というわけではないようだ。

 ともかくこれでもうセツナの家に上がるところをヒカリに見られる心配はなくなった。後は家に来ようとしているヒカリを追い返すことができれば、変にセツナが叫び出したりしない限りレイジがいることはバレずに済む。

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