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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode4 零の約束
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17話 温もりを忘れないように

「それじゃあ行こうか、ヒカリ。」

 放課後の部活動はなく、高校からかなり近い場所とはいえ、閉館までいたとしても数時間しか入れない。それでも、この時間が2人の離れた距離を元に戻せるものであるのには違いない。レイジはそう思っていた。

 そして、レイジはわかっていた。ヒカリの口からいつか告げられる思いに答える日が、近いうちに来るだろうということが。それがいかに彼女を傷つけるものであったとしても……

「うん、行こう! レイジ。」

 そして2人は駅へ向かった。

「チケット代は俺が出す。別にお詫びのつもりってわけじゃないからな。映画にしてもテーマパークにしても、男女2人で出かけにきたとき最初に払うお金は男が出すって相場が決まってるんだ。少なくとも俺のいた街ではな。」

「ありがとうレイジ……映画かぁ……」

 ヒカリは次は一緒に映画を見たいと考えていた。そして早速その日のスケジュールを想像している。

「映画だったらもっと時間がある日に行きたいな。ちょっと遠くまで行ってさ。なんなら1泊ぐらいしてもいいんだぜ。」

 ヒカリは日帰りプランしか想像していなかったので、少しからかってみた。

「と、泊まるって……そういうの! 軽々しく女の子に言っちゃいけないんだよ! 何考えてるのレイジ!」

 言われたヒカリは満更でもなかった。一方でヒカリは自分の知らないところで、同じようなことを他の女子に言っているのではないかと思うと不安と嫉妬が一気に込み上げてきた。レイジはイブキと一つ屋根の下暮らしているんだ。異性と共に寝ることには慣れているのだろう。ヒカリはレイジのクラスメイト、部活も同じ。レイジと一番近い存在に違いないと思っていたが、今日のレイジとイブキの話を聞いて自信がなくなったのだった。


「ほら、入るぞヒカリ。」

 ヒカリが悩んでいる間にチケットの購入を済ませたレイジは1枚をヒカリに渡し、入場ゲートに向かった。

「あ、待ってレイジ。」

 走って追いついたヒカリはレイジの制服の袖を掴み、立ち止まった。

「その……ありがとね……」

「……その言葉は帰るときにも言ってほしいな……」

 レイジは少し恥ずかしがりながら目を逸らして言った。ヒカリはふふっと微笑んだ。


「それで、さっきのイブキさんの話なんだけどさ……レイジ、どうやってこの島に来たの?」

 水族館に入ったものの、すぐにフードコートへ向かったヒカリ。どうもレイジの過去には首を突っ込んでくる奴が多過ぎる。すべて話そうとすると、レイジの瞳に力が宿った4年前まで遡ることになるから、レイジは気が進まなかった。

「せっかく水族館まで来たのに、そんな話をしたくはないな。どうしても今聞きたいと言うのなら、俺は帰る。水族館はまた今度で。」

「そ、そうだよね。レイジにとっては嫌な話なのだろうし……うんっ、今のことは忘れてっ。あっ、私あれ食べたい!」

 ヒカリは店のショーケースを見て1つのクレープを指差した。イチゴとアイスクリームが乗った、この店の人気ナンバーワンのクレープだ。

「んじゃ買ってこいよ。鞄と席取られないよう俺は残ってるからな。」

「レイジは何食べたい? 私一緒に買ってくるけど。」

「俺はあのパフェとタピオカ。番号メモして渡すから待ってろ。」

「タピオカ2つも飲むんだ……」

「ちょっと味が気になるからな。とりあえず、お金。」

 レイジはヒカリにお金を渡した。

「全然足りないけど。」

「奢り合いって約束だったろ。それはお前のクレープのお金だ。」

「不平等じゃない!? ていうか奢りは一品ずつって言ってなかった!?」

「そっ、そうだっけ? でも入館料は俺が出したんだから、文句無いだろ!?」

「最初のお金は約束じゃなくてマナーなんでしょ!? 無効よ無効!」

「だったらお前もこのくらい頼めばいいだろぉ!?」

「嫌よ太っちゃうし! 女の子相手に失礼過ぎるわよ!」

「あーあ、これだから女子は嫌なんだ。自分に都合が悪くなるとすぐに相手のせいにするから……」「いいわよ買ってきますぅ! 今度また奢ってもらうからね!」

 そう言ってヒカリはレジに向かった。あれだけ怒っていた割に、ちゃんとレイジの分も買ってきていた。店員からは『仲が良いのね。』なんて言われたようで、ヒカリはまんざらでもなさそうににやけていた。


「それじゃあいただきます。」

 レイジはちまちまと2つのタピオカを飲んでいて、パフェにほとんど手をつけないままヒカリはクレープを食べ終えた。

「ん〜こっちのほうが好みかなぁ。それじゃ、パフェをいただきますか。」

 レイジはスプーンを手に取った瞬間その手を止めた。ヒカリがパフェをじっと見ている。食べたそうにしているのだが、これは心が読めなくてもすぐに気づけるくらいわかりやすかった。

「ヒカリ、一度にクレープとパフェを食べると太るぞ。我慢するんだな。」

「ねえレイジ、食べきれないんでしょ? ちょっと手伝ってあげようか?」

 ヒカリはあらかじめ考えていた返しをしてきた。ヒカリは全部食べたいわけではなく、ちょっと味見したいだけ。それはレイジにもわかっているが、ここで素直になりたくはなかった。

「時間はかかったけど余裕で食べきれる。気を使わなくていいぞ。」

 ヒカリは沈黙し、それでもなおこっちを見てくる。

「……ほらっ食べるの手伝ってくれ。お願いします。」

レイジはスプーンで(すく)ってヒカリのほうに向ける。

「……ぷっ、て、手震えてる、ふふふ……」

「わ、笑うな、初めてなんだよ悪いか!」

「そっかーレイジの初めて奪っちゃったー。ごめんねレイジ。」

「ほら、スプーン持ってこい。さっさと食べ終えてここから出るぞ。」

 心が読めるのが嫌に思えた。店員や他の客たちの冷やかしの心の声が、鬱陶しいほど聞こえてくる。


 ようやく2人は水族館の本館に向かった。フードコートなんてその辺にいくらでもあるのに、閉館まであまり時間の無い今日長居したのはかなりもったいないことだとわかっているが、フードコートに行こうと言ったのはヒカリだ。回りきれなかったなんて愚痴を零しでもしたら、レイジは全力で言い返してやろうと思っていた。

 本館に来たといっても、ショーはほとんど終わってしまっている。ひたすら眺めているだけなのは時間とお金の無駄だ。来るならもっと長い時間いられ、ショーもすべて見るくらいのことでもしないと割に合わない。というよりショーも見ずにフードコートを利用し、来ればいつでも見れる動物を眺めるためだけに来たのは冷静に考えるとおかしい。2人はパンフレットに沿って各フロアを回り、写真を撮っていた。

「全然エスコートできてないね。ここに来ようって言ったのレイジでしょ?」

「元々休日に行く予定だったんだよ。平日のこんな時間に来て盛り上がらないのは当たり前だ。」

「私すっごく楽しみにしてたのに……レイジのバカ。」

 レイジは人の楽しませかたを知っている。どこに行きたいか、何が食べたいかなどは簡単に読めるので、たとえ初対面の人とも仲良く廻ることができる。ただしそれは、その人が楽しめるものがそこにある場合に限る。どこに行こうと満足できないこの場所では、いくら心を読んでも駄目なのだ。


 しかしレイジはわかっている。ヒカリは今、レイジと2人で過ごすこの時間を楽しんでいるということを。ただそのことを言葉にするとナルシストに思われるし、レイジはそれを本当の声として聞きたかった。

「まあ……なんて言うんだ? 俺はお前といれればそれで満足なんだぜ。普段はワタルやらツトムやら(やかま)しい奴ばかりで、こんなに気持ちを楽にできるときなんて無いからなあ……こういった癒しの時間を、俺は何よりも大事にしたいんだ。」

「ふーん。レイジ、クラスでも大概騒がしいけどね。休み時間とか人狼で盛り上がってるし、なんか毎回聞くんだ。『戦犯はレイジだ』って。だからレイジ、落ち着いた場所よりも目一杯騒げる場所のほうが好きなのかと思ってた。」

 心の読めるレイジは人狼で負けることは滅多に無い。敗因は運負けのみ。ただその原因は、全員の役職と動向がわかる最強のチート能力の使い過ぎによる最警戒人物になってしまうこと。妖狐やサイコキラーなど、自分が警戒されると負けに繋がる役職に就いてしまえば、何もできないまま負けてしまう。だからレイジはほどほどに無双し、極端に道化を演じることにしている。


「まああれだ、動があっての静というか、都会に行くと田舎が恋しくなるというか、とにかくそんな感じだ。お前が満足に楽しめてないからって、俺が楽しんでないだなんて決めつけられては困るな。」

 自分といてつまらないと思われたくない、それがヒカリの願い。だからレイジは応えた。

「それにさっきのことといい初めて会ったときのことといい、俺があんな風に接するのはヒカリくらいだぜ。まあ、他人を茶化すのは日常茶飯事だが、こう毎日のように会っては茶化すのはお前だけだ。楽しくないはずがない。でもきっと、お前は楽しくなかったんだな。これからは普通のクラスメイトとしてほどほどの距離感を……」「違う! 私、嫌なんかじゃない! 私はレイジの……」

「だから、それが茶化されているって言ってんだ。まったくお前は本当に面白いな。」

「……っ! レイジのバカ! あんまり女の子をからかうと嫌われるよ!」

 へいへいと適当な返事をする。そう言っておきながらヒカリはレイジのことを嫌っていない。むしろ安心したようだ。

(でも、ありがとう……レイジ、私、もっとレイジと一緒にいたい。だから、いつか伝えるね……私の、本当の気持ちを……)


『まもなく、本館は閉館時刻となります。本日もご来館いただき、誠にありがとうございます。』

「そろそろ帰るか。帰りは歩いて駅まで行きたい。一緒にいられるのも、後ちょっとだしな……」

「し、仕方ないわね……付き添ってあげるわ。」

 暗くて寒い夜の道。でも暖かいとも思える。レイジは上着を脱ぎ、ヒカリの肩にかけた。

「えっ、ええっ!?」

 ヒカリは驚いていたが、レイジが無言で歩き出したのを見てフフっと笑った。

「まったく、不器用なんだから。」

 駆け足で追いついた後は足並みを揃えて歩く2人、レイジは何も言わずヒカリの手を握り、ヒカリも何も言わず手を握り返す。

 長い道を歩き終え、駅に着いて電車に乗る。行きは高校からで4駅だったが、帰りはヒカリの家まで行くので5駅。人気のない車両の座席に隣合わせで座る2人。ヒカリはうとうとし、レイジに寄りかかるように眠っていた。


「着いたぞ。起きろ、ヒカリ。」

「あれ……私、いつの間に寝たんだろ……」

 ヒカリは辺りを見渡すと、電車内の電光掲示板に気がついた。ヒカリの家の最寄り駅、そしてレイジの家の最寄り駅の3つ先の駅だった。

「あっ、そうだ。レイジ、上着貸してくれてありがとう。」

「駅からヒカリの家まで距離あるだろ? 家まで送っていくからもう少し着ていけよ。」

 辺りは真っ暗。寒さ以上に、女の子一人歩かせるのがレイジは心配だった。

「そんな、いいわよ。それに定期券外だし。」

 定期券外といっても片道二百円弱だ。たいした問題ではない。何より、送ってもらいたい、もう少し一緒にいたいというのがヒカリの本心だ。

「いいから。行くぞ。」

 レイジはヒカリの手を掴み、改札へ向かって歩き出した。ヒカリは引っ張られていったが、自分の足でしっかりと歩き出した。


「もう着いちゃったね。レイジ、送ってくれてありがとう。」

 ヒカリは嬉しそうに、そして少し残念そうに言った。けれどももう機嫌は直ったようだ。

「ああ、また明日。」

 レイジは笑って手を振った。ヒカリは家の戸を開け中に入ろうとしたが、ふと後ろを振り返った。そこにもうレイジはいなかった。

「泊まっていってもいいのにな……なんて、何言ってるの、私。」

 頬に手を当てたそのとき、ヒカリは自分の袖元を見た。

「上着、返すの忘れてた……」

 ヒカリは再び外に出ようとしたが思い留まった。

「今日だけ……今日だけだから……」

 ヒカリは上着を脱ぐと、背中に隠して靴を脱いだ。親に見つからないよう自室に入ると、ベッドの中に放り込んだ。

「おかえりなさい。お風呂入ってきなさい。」

「は、はーい。今行くからー。」

 親に呼ばれたヒカリは、階段を降りて風呂に向かった。

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