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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode4 零の約束
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16話 和解の日

「ただいまー。」

 レイジは家に帰ってきたとき、イブキは入浴中だった。顔を合わせると今朝寝坊したことを怒られるに決まってる。とりあえず風呂から上がってくる前に自室に籠って寝てしまい、イブキがトレーニングに出かけたらシャワーを浴びにいくことにしよう。そう考え、レイジは部屋に向かった。


(ねえレイジ、何か言うことがあるんじゃない? 私の考えてること、わかるでしょ?)

 これはイブキが風呂から上がった後、レイジに言おうとしていることだ。凄まじい殺気を放ってレイジの部屋に向かっていることに気づいたレイジはベッドから飛び起き、ベランダへのスライドドアを開けて押入れに潜り込んだ。外に逃げるのが得策だが、部屋の中で何をされるか読めたものじゃない。ドアはカモフラージュだ。もし部屋の中で変なことしたらすぐに押さえられるよう、レイジは部屋の中が見渡せるよう隠れた。逆にイブキが自分の部屋でしたことをイブキの部屋でこっそりやってやろうとも考えていた。

 案の定イブキはノックもせずに入ってきた。レイジがいないのを確認すると、引き出しの中を漁りだした。何か弱みを握ろうとしているのだろうが、見られて困る物は何もない。

 何もないはずだったが、イブキはレイジの机の中からある布を取り出した。そしてイブキの怒りは頂天に達した。

「待て! 俺はそんな物知らない! 違うんだ!」

 レイジはつい押入れから飛び出してしまった。イブキの手には水色の女物の下着。そう、レイジの机の引き出しの中に、イブキの下着が入っていたのだ。そんなことなど知らなかったレイジは、焦って出てしまったのだ。

 イブキがレイジを(おび)き出すために下着を持って入り、あたかも引き出しの中にあったかのように見せかけていたのなら、イブキの心を読んで罠だと気づくし、第一イブキも知らなかったということは心を読んでわかっていた。

 レイジの部屋にこんな物を隠した犯人がいるはずだが、今はそんなこと考えている場合ではない。レイジは腕を引っ張られてイブキの部屋に入れられ、正座させられた。

 自分から先に謝りにいけばイブキがレイジの部屋に入ることはなく、レイジが引き出しの下着に気づいたらこっそり戻しにいけば済む話だったのだ。レイジは逃げようとしたことを後悔した。


「昨日のことは何度でも謝る! だけど俺はそんな物は知らない! 頼む、信じてくれ!」

「あんたねえ……昨日の今日で信じるとでも思ってるの!? そんなに海に帰されたいのなら望み通りにしてあげるけど!?」

 駄目だ、信じてもらえない。今のイブキの言葉は本気だった。レイジは反射的に土下座して謝罪した。昨日小一時間ほど説教を受けていたので、幸い今日の説教は40分程度で済んだ。元々今日は説教する気はなかったのだが、今朝の寝坊とさっきの下着がイブキの怒りをぶり返させてしまったのだった。確かに寝坊はレイジが悪いとわかっている。夜中にうるさいと度々叱られ、女子たちの睡眠妨害をした挙句男子たちは揃って寝坊。怒るのも当然だ。そして下着の疑いは一向に晴れなかった。


 翌朝を迎えた。

「お、おはよう、ヒカリ。」

 レイジは教室に着くとすでに着席しているヒカリに挨拶をした。しかし彼女はレイジに目を向けない。コクリと頷くだけだ。ヒカリの考えていることはわかっている。だから常に彼女の望む言葉を言えばいいだけだ。

「その、昨日は悪かったな、先に帰っちまって。昨日はその、いろいろあってだな……」

 ヒカリは何も言ってこない。わかっている。ヒカリはレイジでなく自分自身を責めていることを。レイジのことが好きだという気持ちを一方的に押しつけてしまっていた自分を責めていることを。

「その……変な話だよな、自信をつけさせるために付き合おうとするなんてさ。自信がついたらその後はどうでもよくなっちまったんだし、思いつきみたいなもんだったから付き合い始めた後のことなんか考えてなかったわけだし。下手したら俺は逆にカナデを傷つけることになっていたんだろうな。」


 ヒカリは少し口を開いた。言おうと決意したがいざ口に出そうとするとなかなか勇気が出せないようだ。

「じ、じゃあレイジ。もし私が何かに悩んで立ち直れなくなったとき……私の恋人になってくれるの?」


 ヒカリはBランクで、レイジはSランク。自分とレイジは身分違い。同じSランクのミライだからあそこまでしようとしていたわけで、もし自分が助けを求めても相手にされないのではないか。そう思いつめていて、苦しんでいたのだ。


「俺はもう、二度とそんな理由で誰かの恋人になったりはしねーよ。もちろんお前の恋人にもな。それと昨日はお前のことを弄び過ぎた。6時間目の後、ちゃんとヒカリに謝りにいっていればそこで丸く収まっていたのに、丸一晩悩ませちまって悪かった。」

 レイジはポケットから近くの水族館の割引券を取り出した。駅の券売機横に置いてあったものだ。

「てなわけで、今日の放課後部活ないし、水族館行こうぜ。奢りの約束はお互い様ってことで一品ずつ奢り合う。それならいいだろ?」

「……ふっ、ははは。そうね、そうよ。でも、私からもう1つお願いがあるわ。」

 気持ちは伝わったようだ。ヒカリは割引券を受け取り、少し顔を寄せて言った。

「ちゃんと私が行きたいところに連れてってよね。もう病院なんかごめんだわ。」

「ああ。閉館時間まで目一杯楽しませてやるから、はしゃぎ過ぎて帰り道で寝たりするなよ。おぶってやったりしねーからな。」

 そしてしばらくの間、ヒカリは嬉しそうにくすくすと笑っていた。レイジも一息ついて読書の準備をしようとしたところ、ずっと向けられていた周囲の視線に気づいた。夢中になると周りの心の声が聞こえなくのは困るものだ。少し遅れてヒカリも気がついた。

「ああ……もう授業始めてもいいか?」

「朝から見せつけてくれるなあ。」

「来週にはやることやっちまうんじゃねーの?」

 ヒカリは顔を真っ赤にして俯き、教科書を取りにロッカーに向かった。何はともあれ、ヒカリとのいざこざは解決した。ヒカリの教科書を隠したクラスの連中は後でしめるとしよう。たくさんのクラスメイトが教科書を忘れたと言ったので席が大幅に変わり、レイジはヒカリの右隣に席を移し、机を合わせて一緒に見ることになったのだった。

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