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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode3 蒼の月光
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14話 合言葉は「スケテタ」

 レイジは自分の部屋に戻り、宿題を始めた。イブキから休んでしまった分のノートを借りたいところだったが、クラスが違うのでそうもいかない。レイジは同じクラスの部活仲間にノートの写メを送ってもらい、写していた。

 すると突然、通知の嵐がやってくる。ヘキサフリートの連中だ。どうも今は揃ってレイジの病室にいるらしい。そういえば退院したことは彼らには言っていなかった。

 断続的に連絡がくる。無駄に心配性で気味が悪いが、全員さっきまでレイジがいた病室にいるにも拘らずバラバラにメッセージを送ったり電話をかけてくるので最早狂気を感じる。

 6人のチャットルームに交ぜてくれれば返信が楽なのだが、入団せずに新しいグループを作ると言った以上このグループには入れない。

 とりあえず誰かと電話を繋げてビデオ通話しよう。レイジはカリンからかかってきた電話に出た。


『はい。どうした、カリン。』

 突然繋がって驚いたのか、カリンは『きゃっ!』と声を上げた。

『今からビデオ通話に変えるからこっちは一旦切るぞ。』

『と、突然何よ! あっ、あのっ、こ、心の準備がぁ……』

 向こうからかけてきておいて何を緊張してるんだろうか。レイジは電話を切り、ワタルにビデオ通話をかけた。すぐに繋がり、スマホの液晶にカリン以外の5人が映る。

『おい、レイジか。今どこにいる? また事件に巻き込まれたのか!?』

『別に、なんともない。もう退院して家に帰ったよ。休んだ分の宿題やってんだから邪魔すんな。用があるならまとめて言ってくれ。カリンはいないのか? 今あいつから電話かかってきたんだが。』

『カリンはまだ貴様と電話してるよ。とっくに切れてるのに、しかも何喋ってるか全然わからねえ。ったくこのヘタレが。おいカリン! レイジはこっちだ! 用があるなら早くしろ!』

 カリンはワタルの声で我に返り、スマホをしまってワタルのスマホの画面に近づいていった。

『ああもうじれったい! ほら!』

 画面が急に動き、カリンの顔が映る。ワタルが自分のスマホを持ち、画面をカリンに向けたようだ。

『うぇ!? あっ、ちょっと、見ないで!』

 カリンは顔を背ける。緊急の用があるわけではなさそうだ。ただ見舞いに来たら病院にいなかったので、心配になって急いで連絡してきただけだった。レイジは先に話し始めた。

『今回はいろいろと心配かけちまったな。でももう大丈夫だ。それと、誘拐犯との戦い、いい連携だったみたいじゃねえか。俺も生で見たかったぜ。俺もいつか、あんな正義の味方みたいな活躍、してみたいぜ。』

『あっ、そ、そうよ! ようやく私のことを認めてくれたようね。私があんな無様に負けるのは、あんた相手のときくらいなんだから!』

 カリンがやっていたのは炎の渦を作り、燃やすのではなく巻き上げること。話を聞く限り、炎使いではなく風使いを名乗った方が正しい気がしてならなかったが、カリンが満足しているならそれでいいのだろう。

『でも俺からすれば、あれくらい全然大したことないな。お前にはもっと凄いものがあるだろ?』

 レイジは意味ありげに問いかける。カリン以外の5人は何のことだかわからず互いに聞きあっていた。

『いいわよ。そこまで言うなら見せてあげるわ。明日の放課後、長袖高校に来なさい。そこで見せてあげるわ。』

 期待していた反応と違った。レイジはカリンの胸を見て言ったのだが、カリンは視線を感じなかったようだ。

 レイジは相手の心が読める。それは直接見える相手や近くにいる相手限定で、数キロ離れたところでビデオ通話しているカリンの心を読むことはできないのだ。


『よくわからないけど、俺は明日部活があるから、夜9時くらいに着くぞ。そんなに遅くて大丈夫か。』

『ふん、全然平気よ! ただし、そこまで言っておいて明日来なかったら許さないから!』

『ああ、約束だ。』

 カリンの用件は済んだようだ。レイジは電話を切ろうとしたそのとき、リビングからイブキが呼んできた。

「レイジー。ご飯出来たわよー。宿題は後で見てあげるから、一旦降りてきなさーい。」

 これはまずい。レイジは速攻で電話を切った。今の声が向こうにも聞こえていて、イブキの声だと気づかれたら、確実に面倒なことになる。このことがイブキに知られたらなんて言われるか、考えるのも恐ろしい。

 外を見ると、レイジのいた病院の辺りから炎が上がっている。おそらくあそこにカリンがいるのだろう。となると、早ければ30分でここに着いてしまうと予想できる。

 考えられる最悪の事態は、彼らがこの家に乗り込んでくること。そうなってしまったら正直どうやってもごまかすことはできない。レイジは1つの賭けに出た。


 時刻は午後9時。ワタルとの電話を切ってから2時間が経過した。

「大変ねー。電車止まったみたいよ。」

 イブキの同業者の女が、男から連絡を受けたそうだった。賭けに出た甲斐があった。電車が止まれば奴らは来ることはできても帰ることはできない。電話越しで、それも部屋の外から聞こえた声をイブキのものだと断定するとは思えない。もし違ったら、今日は帰ることができなくなる。そんなリスクを背負ってやってくるはずがない。今日さえ凌げば、ごまかす方法を思いつくかもしれない。

 そう考えていた……


 ピンポーン。


 インターホンが鳴る。まずい。この時間は非常にまずい。イブキは入浴中だ。レイジは同業者に頼み込んだ。

「頼む。今来た奴らに、俺はこの家にいない、そんな男は知らないと言ってくれ! 頼むから!」

 そして走ってレイジは風呂場に向かい、突入した。

「静かにしろ! 声を出すな!」

 レイジはお湯に浸かっているイブキにナイフを向ける。

「きゃああああ! 何!? 見ないで! 出てってえ!」

 湯船に入っていたイブキは肩までお湯に浸からせ、バシャバシャとお湯をかけて追い出そうとする。イブキがここまでパニックになっているのを見るのは初対面以来だ。

「うるさい! いいから大人しくしろ! 脱ぐぞ!」

 レイジが叫ぶとイブキはすぐさま湯船から飛び出し、レイジに飛びかかる。イブキの必殺技"真空掌"が放たれる。それを読んでいたレイジはひらりと躱し、勢いよく飛びかかったイブキは浴室の床で足を滑らし転倒した。

 そのまま2人の攻防戦が始まった。


 一方ワタルたちはイブキの居候先に着き、インターホンを鳴らした。

「はい、どちら様で?」

「こんばんは。名乗るほどの者ではありませんが、こちらにレイジが来ていませんか。」

「レイジ? そんな人は知らないわぁ。」

 レイジが頼んだ通り、知らないふりをしようとする。

「そうですか。失礼しました。でも、電車が止まって家に帰れないので泊まらせてください。確か以前、空いている部屋が1つありました。そこに全員入れてください。」

「そう? 君たちはよくうちの海に来てくれるから、そういう事情なら歓迎するわ。でも、今その部屋はレ……なんでもない。狭い部屋だが我慢してね。今片づけてくる。」

 そして6人は家に乗り込んできたうえに成り行きで1泊していくことになった。


「逃げるんじゃねえ! じっとしていろ!」

 そうとも知らないレイジはイブキを追い回し、狭い浴室で暴れ出す。最初イブキが滑って転んだとき、レイジはすぐさま押さえにいった。イブキは咄嗟に跳躍し、壁を蹴ってバク宙し、反対側の壁を蹴り着地したが、足と床の間にレイジが蹴飛ばした石鹸が滑り込み、また滑って転んだ。


 イブキの能力"覚醒"。

 人はもつ力の100%を発揮することはできない。しかし彼女はそれを可能にする。

 代償はないわけではない。筋肉のリミッターを外し、運動をした後に一気に痛みがくる。過度に使用すれば、何日も体が一切動かせなくなることもある。目にも止まらぬ速さで動くこともできるが、今のような狭い空間では、その真価を発揮できないのだ。

イブキは高速で立体的に回避を続けるが、扉さえ守っていればこんな狭い空間の中捕まえるのは困難ではない。ただでさえ滑りやすい場所なのに、これほど断続的に能力を使っていればすぐに動けなくなる。油断すると真空掌を食らってしまうので、いっときも気が抜けない。


「失礼するわ。奥の方が騒がしいわね。あそこは確か浴室だったかしら。」

 影に潜り込み、一足先に家に入ったクオンは奥から叫び声を聞いた。

「風呂場から誰かの叫び声がするわ。おそらくイブキなのだろうけど、何かあったみたい。」

「まさか、強盗でも入ったんじゃ……」

「とにかく、すぐに風呂場に突入するぞ。皆準備はいいか!」

「あんたたちも入るの!? 女の子が入浴してるのよ!」

「あのイブキが悲鳴を上げてるんだ。相当やばい奴に違いない。女子3人だけで勝てるとは思えない。」

「わかったわ。先に私たち3人が行く。ピンチのときは合言葉を叫ぶから、そしたら男子も突入してきて。」

 そう言って女子3人は動きやすいよう上着を脱ぎ、浴室に向かってきた。


 その気配に気づいたレイジは、最後の手段に出た。

「頼む俺を匿ってくれ!」

 願いは虚しく、土下座した瞬間イブキにシャワーヘッドを振り下ろされた。


「大丈夫!? イブキ!」

 浴室に突入した3人が見たのは、浴槽の隣で頭から血を流し倒れている服を着たレイジと、右手でシャワーを持ち左手で胸を隠した状態で立っている全裸のイブキだった。かろうじて意識の残っているレイジは、諦め放心していた。

 こうなったらあいつらも道づれだ。レイジは起き上がるとイブキからシャワーを奪い取り、蛇口を捻り制服姿のカリンたちに浴びせた。そしてレイジは6人が決めていた合言葉を叫ぶ。聞きつけた男子3人は迷わず浴室に突入した。

「大丈夫かイブキ! ケガしてないか見せてみろ!」

「……本当に透けてた……」

 ワタルたちの目に映ったのは全裸のイブキと、シャワーでずぶ濡れになり制服から下着がうっすらと透けてみえるカリンたちだった。床に倒れているレイジには見向きもしなかった。またも悲鳴を上げるイブキ。透けた下着を見られた3人は、ワタルたち3人にあらゆる攻撃を仕掛けた。


 全ての元凶であるレイジが意識を取り戻すと、イブキからの長い説教が始まった。居候していることをバラしたこと、そのことを隠していたこと、彼らを来させなくするために電車を止めたこと、口封じのために浴室に突入したこと、そして助けにきたカリンたちにシャワーを浴びせたこと。6人をほったらかしにして、小一時間ほど続いた説教が終わると、彼らからの質問と罵倒の嵐が待っていた。

 レイジは彼らに、この島に来た経緯を一から説明した。なかなか理解しきれていなかったが、彼が外の世界から来た、ヘキサフリートと並ぶ人間だという事実に繋がることを考えるとそれで納得したようだった。

「なるほどな。貴様の謎が少し解けた。まあそのことはもう済んだとして、まさか俺らを追い返したりはしねえよなあ? 電車を止めて、3人をびしょ濡れにしておいてなあ。」

「風邪引くといけないし、女子3人は泊まっていけよ。お前らは帰れ。もう電車は再開してる頃だ。だいたいもう空き部屋ねえんだ。」

「居候が何偉そうに言ってるのよ! もう、いいわよ! みんな泊まっていきなさいよ。男子はレイジの部屋、女子は私の部屋! それでいいでしょ!?」

 イブキだって居候じゃないか。頭にブーメランとはこのことか。家の人にも泊まりの許可をもらっているみたいだし、レイジはこれ以上揚げ足をとるようなことは言わなかった。


「ていうか私たち、制服どうするのよ。明日の朝までに乾くの?」

「任せろ。1晩で乾かしてやる。だからスカートもシャツも下着も全部俺にぐはぁ!」

 言い終えるのを待たず、カリンはレイジの腹を蹴飛ばした。結局クオン提案の下、制服はカリンの炎で乾かすことになった。

 何はともあれ、皆はようやく落ち着きを取り戻した。男女別で入浴し、浴槽が狭いだのお湯がぬるいだのはしゃぎながら過ごした。女子が入っている間に1人ずつ脱衣所に侵入し、1つずつ見つからずに取ってくる勝負もした。入浴を終えた後、夕飯を食べて来なかった6人は鍋パーティーを始めた。相変わらず調理はツトムが1人でやり、他の5人はトランプをしていた。


 夕食を済ませ部屋に戻った8人。女子たち、主にカリンはこの家でのレイジについてイブキに聞き出していた。またも炎が上がっていたが、さっき以上に燃え具合が激しい。

 レイジは男子たちに6人の仲について聞いていた。ヘキサフリートは通う高校や家の場所が離れていながらどうしてここまで仲が良く、チームワークがあるのか。彼はどうやって、ネオヘキサフリートを集めていくべきかを相談していた。聞けたことは、彼らは元々ここまで仲は良くなかったこと、各々の能力から、連携方法を考えていたことだった。

「まあ貴様がもしメンバーを集めるというのなら、同級生のSランクの学生を候補に探すべきだな。といっても、なかなかいないだろうがな。」

 確かに、レイジの知る限りヘキサフリートを除くSランクの同級生は今のところ1人だ。その1人を今すぐに加えるというわけにはいかないだろう。

「俺たちとしては、貴様がこっちに加入してほしいところなんだがな。なあ、カリン。」

「はぁ!? べ、別に私は!」

「うわっ! カリン、いたのか!?」

 たまたま部屋の前を通りかかり、話が聞こえてドアの前で聞き耳を立てていたカリンは慌てて否定するが、本心はワタルが言ってる通りだ。けれども、レイジはそこに入ることはできなかった。この6人だからチームが完成されているのであって、そこにレイジが入ると絶妙なバランスが崩れてしまうと感じられたからだ。もっとも、レイジが現れるまではヘキサフリートに比肩するランクを与えられた者はいなかったわけだが。

「俺たちも、残念ながら貴様と同等クラスの一年生には会ったことがねえ。けど、すぐに現れる。」

 ワタルの言う通り、能力というものは生まれつきではなく突発的に発現する。急にランクが跳ね上がる人も何人かはいる。


 けれども今は、そんな果てのない話よりも初めてのお泊まり会で興奮が治まらない。レイジは春休みの間に買ったこの島限定のゲーム機を取り出した。すると3人も、あらかじめ持ってきていた同じくゲーム機を取り出した。

 お泊まり会特有の謎のハイテンションオールナイトというものか。結局4人は夜明け前までゲームを続け、揃って寝落ちしたまま女子たちに起こしてもらえず学校に遅刻したのは言うまでもない。

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