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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode3 蒼の月光
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12話 これで全部チャラ

『本日のニュースです。きのう夜8時頃、アイドル歌手の新宿香李さんを誘拐しようとした男ら3人が逮捕されました。またこの事件の中で1人の男が一般人に向けて発砲、重傷を負わせた模様です。』

 事件の翌朝、レイジは目を覚ましテレビを点けた。どのチャンネルでも昨日のことを取り上げている。

「そっか……コスモは無事か……良かった。」

 レイジは他にケガをした人がいないのを聞いて安心した。

 もう事件は解決した。後は早く復帰して、閉ざしてしまったミライの心を開かせないと、そのためにもう1度コスモに会いにいかないといけない。

 まずはヒカリに次集まる日を聞き、それまでにコスモに会う。お見舞いに来てくれれば一番手っ取り早いのだが、仕事がないとも限らない。むしろずっとこの病室にいると他の奴らが見舞いに来て、自由なタイミングで外出ができなくなってしまう。

「とりあえず、10時まで寝るか……」

 今日は平日、皆学校で授業を受けている。この病院の場所を調べて、コスモの高校が昼休みの時間に着くようにここを出ればいいだろう。そう考え、昨日連絡先を交換した人に高校の昼休みの時間を聞き、この病院から高校まで行くのにかかる時間を調べた。

 そして再び眠りについた。


 時刻は午前11時。目を覚ましたレイジは出発の準備を終えていた。受付の人にはすぐ戻ると言ってある。病院から高校までは片道30分程度なので、早ければ午後1時半には戻ってこれる。今日の集まりの時間である7時にヒカリの家に行く。病室に戻ったらその時間までたっぷりと考えておけばいい。

 我ながら完璧なスケジュールだ。レイジは病院を出て、コスモの高校に向かって歩いていった。

 レイジは校門の前に着いた。

「そういえば昨日もここに来たな、そしてこの帰りに俺は事件に巻き込まれた。」

 そんなことを呟きながら、レイジは敷地内に入った。


 レイジが一歩足を踏み入れた瞬間、けたたましい警報が鳴り響いた。この学校は部外者が立ち入ると警報が鳴るように警備してあるようだ。レイジはすぐさま出ようとするが、やって来た警備員の集団に見つかってしまった。

 警備員や警察官など、島の犯罪に対抗する職に就く人は皆、レア以上のクラスに属する。以前いた街の連中とは比べ物にならない強さに圧倒され、レイジはあっという間に捕まってしまった。

 この学校に来るとろくなことにならない。レイジは抵抗を諦めたそのときだった。


「待って! その人は私が呼んだの!」

 遠くから聞こえたのはコスモの声。コスモと直接対面した記憶はないが、彼が眠っている間にヘキサフリートの6人と一緒に様子を見にきてそのとき顔を覚えられたようだ。

 別にコスモに呼ばれたわけではないが、自分を助けようとしているのは確かで、通報から免れたレイジは一安心した。

「そうなんだよ。始めて入ったからこんなことになるなんて知らなかったんだ。」

 レイジは話を合わせ、警備員から解放された。学校にいるコスモを狙う者は多い。だから学校に厳重な警備を施し、事前に連絡のない部外者を徹底排除するようになっていた。


 レイジはコスモに案内され、校舎の屋上に着いた。

「ちょっとここで待ってて。授業終わったらまた来るから。ご飯も買ってくるねっ。」

 そう言ってコスモは授業に戻っていった。すぐに病院に戻ってご飯を食べようと思っていたが、せっかくなのでお言葉に甘えるとしよう。


 4時間目の授業の終了を告げるチャイムが鳴る。今頃コスモは購買に行っている頃だろう。だが、また厄介なことになった。気配に気づいたレイジは梯子を見つけ、入り口の上に登った。

 扉を開けて入ってきたのはミライだった。レイジの侵入を知らせる警報が鳴ったとき、彼が来たことを彼女に見つかってしまっていた。

 ミライはそのまま扉の裏側に隠れた。コスモが戻ってくるのを待つために。

「お待たせ! あれ、いない。」

 コスモが屋上に戻ってきた。ミライはレイジがコスモの元に来たらそこに割り込んでいこうと考えている。今もなお、レイジはコスモの味方、蒼の月光の敵だと疑っている。少なくとも今、コスモに気づかれてはいけない。


 だめだ、見つかってしまう。その証拠に、ミライはレイジのいるドアの上を見上げている。見えてはいないが、場所がバレているのだ。

 ミライは、生き物の鼓動を遠くから聞くことができる。そしてその鼓動がどこから聞こえているのかがわかる。つまり、レイジの居場所は既に知られている。せめてバレているという事実は知りたくなかった。知ってしまったがために余計に気が重くなる。

 けれどもミライはここで、レイジがいることをバラそうとは思っていないようだ。この場に隠れてレイジとコスモが何をするのか聞くつもりだ。

 コスモは上にいるレイジにまったく気づかない。けれども直感的にレイジが近くにいることがわかっていて、何らかの理由で顔を見せたくないのだと思っているコスモは、大きく声を出した。

「ねえ、レイジくん。昨日はありがとう。私が狙われてるってわかって、すぐに助けようとしてくれて。レイジくんがいなかったら私、きっともう2度と歌えなかった。」

 俺が撃たれ倒れている間にそんなことになっていたのか。レイジは心の中で呟いた。ニュースで事件については少し知っていたが、現場にいた人の記憶を読み取ると、その状況がより明確にイメージできる。

「私ね、最近うまくいってないんだ。その理由、たぶんわかってる。1人だから、ユニットじゃないから。」

 レイジがそこにいるかもわかってないのに、コスモは話を続ける。

「ところでね、私の知り合いに3人組のボーカルユニットがあるんだけどね、凄い速さで成長していると思うんだ。きっとこのままじゃ、私はいつか追い抜かれてしまう。それはそれでいい刺激になるんだけど、その中の1人が、最近自信をもててないみたいで、それがユニットに悪影響を与えているの。他の2人はその子の心配ばかりして、自分たちを見れていない。悪い癖や弱いところが全然直せていないから、全然進歩してないし。それだけメンバーに恵まれているのに、どうしてそんなことで実力を伸ばせなくなってしまうのかなって、凄くもどかしかった。」

 自分に足りないものを、ミライたちはもっている。それが何かを知り、どう補うかを考えたかったが、つまらない理由で挫折してしまっているから自分の成長に繋げられない。だから彼女に強く当たってしまった。ようやくレイジは真相を知ることができた。

「けど私、足りないものが何か、わかった。」

 コスモはレイジに気づいていない。どうもこれはコスモの癖のようだ。誰もいない昼休みの屋上。悩みを打ち明けられない彼女は、こんな感じで大声の独り言を話すようだ。四天格、特にトシヤは命の恩人であり最も信頼している人のようだが、強さを評価され集められた仲間に弱音を吐くのは彼女のプライドが許さない。だから誰にも聞かれないこの場所で、本音を出しきるのだ。


「それは周りにいる、私の味方。味方がいないと、私は私でなくなる。レイジくんがいなかったら、声の無い私になってしまっていた。だから私、仲間の、味方の力を借りて、これからやっていこうと思うの。歌1つ完成させるにしても、私1人で考えるより、いろんな人の意見を聞いて考える方がいいって思えた。もし良かったら、いつか私の悩みを聞いて、力になってほしいんだ。」

 そこでコスモ自身についての話は終わった。

「でも、レイジくんはあの3人に必要なんだと思う。昨日この学校に来ていたんでしょ? 今日のミライ、とても暗い様子だったから、昨日の放課後何かあったんじゃない? そのことについて何か心当たりがあれば、私にも話してほしいな。きっとレイジくんも、私と同じようにミライを傷つけたんだと思うから。」

 レイジのことはすべてコスモにはお見通しだった。そして、図星を突かれ鼓動が速まっているのも、カナデにはお見通しだった。

「じゃあ私、もう戻るね。助けてくれて、ありがとう! レイジくん!」

 そう言ってコスモは教室に戻っていった。


「そろそろ出てきたら。」

「バレていては仕方ない。よっと。」

 レイジは上から降り、ミライの前に立った。

「昨日撃たれていたのはあなただったのね。私の悩みがコスモ絡みだと知って、接触を図ろうとして事件に巻き込まれ入院。だからこんな時間に他の学校に来たわけね。」

「お前が自分のことをコスモの完全劣化だなんて思っているから、俺はお前の恋人になってやろうと思っていた。お前の心を開くために、お前とコスモの間に何があったのか知りたかった。これがすべての真相だ。」

 終わってしまったことだ。今さら隠す必要もなかったので、非難されるのを承知でミライに真相を話した。

「馬鹿馬鹿しい。あなたみたいな恋人なんて、絶対にごめんよ。」

「悪かったな。それはともかく、今のあいつの話聞いてただろ? そんなことで悩む必要なんてないんだ。ライブ前で焦る気持ちはわからなくもないけど、今まで通りやっていけばきっといいライブになると思うぜ。そして、これで全部チャラだ。」

 これでもうレイジは何もすることはない。恋人になろうだとかコスモの心の声を聞き出そうとか、そのために命を賭ける必要もない。

「これでお前との恋人関係もおしまいだけど、何かあったら好きに相談に来てくれて構わないぜ。今日中には退院できそうだしな。」

「誰がいつあなたと……まあ、いいわ。それから、今日ヒカリは学校に来てないって聞いたわ。心当たりがあるんじゃない?」


 心当たりはある。というより、すべての元凶はレイジだ。昨日の夜皆帰った後、ヒカリは日記を書こうとした。しかしそのノートはデザインが同じで何も書かれていない別のノートだった。ヒカリは焦りが止まらない。一昨日の夜はあった。それから昨日の夜までの間にすり替えられていたことになる。

 当然すり替えた犯人は、その間に部屋に入れたただ一人、レイジだ。ヒカリもそれがわかっており、学校で会うのが恥ずかしいという理由で家に引き篭もっているようだ。レイジは今日の夜、ノートを返しにいくことにした。

「それじゃあな。また今度。」

 レイジは屋上から出ていった。入口でミライとすれ違ったとき、彼女は一つのメロンパンを渡してきた。

「ほんの気持ちよ。」


 午後2時。レイジは病室に戻り、鞄からそのノートを取り出した。どうせ今日返すのだし、せっかくなので読めるだけ読んでしまおう。

 レイジはヒカリのノートを開いた。その日記は毎日書かれており、なかなか痛い内容だった。けれども、いや、だからこそとも言うべきか、熱中して読んでしまい周りの気配に気がつかなかった。

「レイジ! ミライから聞いたよ! 大丈夫!?」

 ノックもせずにヒカリが病室に飛び込んできた。そうだ、ミライが言っていた。ヒカリも学校を休んでいるんだ。こんな時間に来ても不思議ではない。ヒカリはノートのことよりレイジが心配になり、迷わず病院にやってきたのだった。

 ベッドの上でくつろぎ、ヒカリの日記を読んでいるレイジ。恥ずかしさを忘れて会いにきた自分が馬鹿らしく思えた。ヒカリはレイジに思いきりビンタを食らわせノートをぶんどった。

「人の日記勝手に見るなんて最低! そのうえ部屋から持ち出すなんて! もう知らない!」

 ヒカリはノートを持って病室から出ようとするが、当初の目的を思い出し部屋に戻った。

「あのね、レイジ。昨日、ミライたちの高校に行ったの? 私がレイジを巻き込まなかったら、こんなことにならずに済んだの?」

 ヒカリは自分に非があると感じていた。

「まあ、確かに俺がケガすることはなかったな。代わりにコスモが2度と歌えなくなったり、ミライの悩みを解決できないままだったりしただろうがな。」

 ヒカリはミライの悩みが解決したことは知らなかったようだ。彼女からの電話も、今日レイジが病院にいるから、復帰してノートのことが学校に広がる前に取り返しにいきなさいという話を聞いたらすぐに電話を切って駆けつけたようだ。

 おそらくその後にミライは悩みについて話そうとしていたのだろう。けれども切られてしまったから、また改めて話すことにしたのだろう。

「それに大げさだって。今夜にはもう退院して、明日から学校にも行ける。部活は……あと2日くらいしてからかな。」

 ヒカリは言いたいことがあり過ぎて、うまく言葉が出てこないようだ。心配し過ぎだ。とりあえず落ち着かせよう。


「とりあえず、ノート勝手に持って帰って悪かったな。ヒカリがセツナを呼びにいってる間に引き出しを漁って、すり替えておいたのさ。ちょっと前に俺がこれと同じ柄のノート使ってるのを見て、後ろから覗き込んできたことがあったろ? 自分と同じように、日記帳を書いていたりしないかって思って。だから俺はもう1冊同じノートを買っておいたんだ。いつかお前の部屋に行ったとき、すり替えられるように。」

「ノートのことなんてどうでもいい! 私は、レイジが無事なら、そんなことぐらい!」

「心配してくれてありがとな。もうこのことは気にしなくていい。気持ちは充分伝わったからな。」

 やっと落ち着いたのか、ヒカリの涙は治まり、大きく息を吐いた。


「ここ、座ってもいい?」

 ヒカリはベッドの上の、レイジの足先辺りに手を着き言った。そこに椅子があるのに、なんて無粋なことは言わなかった。

「今日、ミライたちの学校に行ってきたんでしょ? そこでの話、聞かせてほしいな。」

 レイジはヒカリにある程度話した。ミライは変に焦っていただけだったこと、コスモはミライたちを認めていたことを、彼女の悩みに意識が向くあまり、お互いに指摘し合うことができていなかったことを。

「そっか……私、昨日のレイジに凄くショック受けたんだ。どうしてあんなこと言うんだろうって。いきなり頼み込んで、レイジなりに考えてくれたのを否定しちゃうなんて、最低だよね、私。そのうえ解決までレイジに任せっきりなんて。」

 嫌われたくない。レイジに、嫌われたくない。ヒカリの頭の中はそんな不安でいっぱいだった。

「とりあえず依頼料だけいただこうかな。退院祝いも兼ねてデザート奢ってくれよ。今度の休日、水族館行きたいんだ。」

 ヒカリの不安を拭いたくて、レイジは病院にあったパンフレットを渡す。家からすぐ近くの水族館のフードコートで、何か奢ってくれと頼んだ。


 コンコンと病室をノックする音がする。ミライとセツナが来たようだ。どうぞと声を掛け2人は入ってくるなり、ヒカリに目がいった。

「だいぶ前に連絡したんだけど、まだいたのね。」

「ヒカリ、そんな男と2人きりなんて危険です! 勝手に女の子の部屋を漁り、挙句日記帳を持って帰る男ですよ!」

「あ、ちょっといろいろ話してて、別に、何もされてないから。」

 ヒカリは少し残念そうに答える。抱きしめるくらいはしてほしかったと、淡い期待を抱いていたためだ。

「おいセツナ。お前今すぐその妄想をやめろ。確かに今ヒカリは椅子を出さず俺のいるベッドに腰掛けているが、全然いかがわしいことはないからな。」

 想像したヒカリは少し頬を赤らめ、ベッドから降りた。

「というか、なに気安く名前で呼ぶんですか! そもそも自己紹介もまだなのに、馴れ馴れしいにも程がありますよ。」

 セツナはからかいがいがある。そんな軽い気持ちで放った一言が地雷を踏むとは、このとき思いもしなかった。


「逆に私はなんで名前で呼んでくれないの? 恋人にしようとしていた癖に。まあ、恋人なんて絶対拒否するけど、名前で呼ぶくらいは構わないわよ。」

 そのことだけはヒカリには伏せていた。今のミライの発言は完全に地雷を踏んだ。ヒカリが一瞬レイジを睨む。

「レイジ、悪いけど水族館に一緒には行けないわ。奢りの約束もなし。これで全部チャラよ。」

 そう言ってヒカリは病室を出ていった。残った2人の視線がレイジに冷たく刺さる。

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