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第二章・二十七 「道標」



 石像は街道脇に立っていた。


 いや。


 立っていたというより。


 樹海に飲み込まれながら残っていた。


 肩には苔。


 足元には蔦。


 背後からは木の根が絡み付いている。


 長い年月を感じさせる姿だった。


「人だよな?」


 ケイが近付く。


 慎重に。


 周囲を警戒しながら。


「多分」


 ユウマも石像を見る。


 身長は二メートルほど。


 人族に近い。


 だが少し違う。


 耳が長い。


「長耳族?」


 ミナが呟く。


 アイリスも石像を見上げる。


「そう見える」


 長耳族本人が言うのだから間違いないだろう。


 ただ。


 服装が見慣れない。


 今の長耳族とは違う。


 もっと古い。


 もっと装飾的だった。


「昔の人か」


 ケイが腕を組む。


「かなり昔ね」


 アイリスも頷いた。


 そして。


 石像の足元へしゃがむ。


 何かを見つけたらしい。


「文字?」


 ユウマも近付く。


 確かに刻まれていた。


 しかし。


 読めない。


 崩れている。


 風化している。


 所々欠けている。


 何語なのかすら分からない。


「読めるか?」


 護衛長が聞く。


 アイリスは首を横に振った。


「無理」


「長耳族の文字でもない」


 それは少し意外だった。


 ユウマは石像を見上げる。


 古代街道。


 消えた街道。


 そして正体不明の石像。


 ここへ来て急に世界が広がった気がした。


 ラグナフェルへ向かう旅だったはずだ。


 それなのに。


 まだ知らないものばかり出てくる。


 その時だった。


「ん?」


 ケイが声を上げる。


 全員が振り向く。


 戦斧の柄で石像の台座を指していた。


「これなんだ?」


 そこには傷があった。


 新しい。


 比較的新しい。


 風化していない。


「爪痕?」


 ミナが首を傾げる。


 しかし違った。


 アイリスが近付く。


 指でなぞる。


 そして顔をしかめた。


「剣」


「え?」


「これは剣で付けられた傷」


 空気が変わる。


 護衛長も近付く。


「人間か?」


「多分」


 アイリスは答える。


 剣。


 つまり。


 誰かがここへ来た。


 しかもそれほど昔ではない。


「冒険者か」


「旅人かもな」


 護衛達も話し始める。


 だが。


 ユウマだけは別の事が気になっていた。


 傷は一つではない。


 二つ。


 三つ。


 何本もある。


 まるで。


 誰かが苛立ったように斬り付けたような。


 そんな跡だった。


 その時。


 生存者の女性がぽつりと呟く。


「やっぱり」


 全員が振り向く。


「知ってるのか?」


 護衛長が聞く。


 女性はゆっくり頷いた。


「三年前にもあった」


「この傷?」


「うん」


 空気が張り詰める。


「その時はもっと少なかったけど」


「同じ場所にあった」


 ユウマは思わず石像を見る。


 三年前。


 つまり。


 少なくともそれ以前から存在していた。


「誰が付けたんだ?」


 ケイが聞く。


 女性は首を横に振った。


「分からない」


「でも」


 一拍置く。


「その時も誰かが先にここへ来ていた」


 風が吹いた。


 石像の周囲の木々が揺れる。


 ユウマは石像を見る。


 そして。


 古代街道を見る。


 何となく思った。


 この道は死んでいない。


 今も誰かが使っている。


 そんな気がした。


 その時だった。


 前方を見張っていた護衛が声を上げる。


「おい!」


 全員が振り向く。


「どうした!?」


 護衛長が駆け寄る。


 護衛は前方を指差していた。


 その顔は困惑している。


 そして。


 少しだけ怯えていた。


「道が……」


 声が震えている。


「道が二つに分かれてる」


 全員が前を見る。


 そして言葉を失った。


 古代街道。


 今まで一本道だった石畳が。


 樹海の奥で左右へ分岐していた。


 左。


 崩れた街道。


 草木に飲まれかけている。


 右。


 比較的綺麗な石畳。


 まるで最近まで使われていたような状態。


 そして。


 その右側の道には。


 人の足跡が残っていた。

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