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第二章・二十五 「古代街道」



 古代街道。


 その言葉は思っていた以上に旅人達の興味を引いた。


 移動を再開した後も、何人かは石畳を見ながら歩いている。


 無理もない。


 こんな樹海の奥に人工物が残っているのだ。


 気にならない方がおかしい。


 ユウマも何度か足元へ視線を落とした。


 石畳はかなり古い。


 だが不思議だった。


 完全には崩れていない。


 長い年月が経っているはずなのに、まだ道としての形を保っている。


 まるで誰かが手入れしているような。


 そんな違和感があった。


「これ本当に昔の道なのか?」


 ケイが石を軽く踏みながら聞く。


「昔の道よ」


 アイリスが答える。


「少なくとも私が生まれる前からある」


「長耳族基準だと信用できねぇな」


 ケイが真顔で言う。


 アイリスの眉がぴくりと動く。


「どういう意味かしら」


「いや別に」


「説明して」


「なんでもないです」


 即座に敬語になった。


 ミナが吹き出す。


 ユウマも思わず笑う。


 緊張が続く樹海の中で、そんなやり取りは少しだけ気持ちを軽くしてくれた。


 その時だった。


 アイリスが小さく鼻を鳴らす。


「ちなみに」


「うん?」


「私は二十三歳よ」


 ケイが固まる。


 ミナが笑う。


 ユウマも笑いそうになる。


 以前の年齢の話を根に持っていたらしい。


「だから言ったじゃねぇか」


「俺より三つ上だって」


 ケイが頭を掻く。


「まだ納得してなかったのか」


「してなかった」


 アイリスは即答した。


「あなたの顔を見てたら」


「絶対納得してないと思った」


「なんで分かるんだよ」


「顔に書いてあるから」


 また笑いが起きる。


 少しだけ空気が和らいだ。


 だが。


 それも長くは続かなかった。


 前方を歩いていた護衛の一人が立ち止まる。


 笑い声が止まる。


 全員の視線が集まる。


「どうした?」


 護衛長が聞く。


 護衛は地面を指差した。


「これ」


 近付く。


 そして全員が言葉を失った。


 石畳の上に巨大な跡が残っていた。


 足跡ではない。


 何かを引きずった跡だった。


 深い。


 石畳が削れている。


 相当な重量だ。


「……魔物か?」


 ケイが呟く。


 アイリスがしゃがむ。


 跡を確認する。


 周囲も見る。


 木々も。


 土も。


 そして。


 珍しく眉をひそめた。


「おかしい」


「何が?」


 ユウマが聞く。


「新しい」


 その一言で空気が変わる。


「昨日?」


 護衛長が聞く。


「もっと新しい」


 アイリスは答える。


「半日以内」


 誰も喋らなくなる。


 つまり。


 近くにいる可能性がある。


 その時。


 ユウマは何となく跡を追った。


 石畳の先。


 樹海の奥。


 引きずった痕跡はそこへ続いている。


 だが。


 途中で消えていた。


「消えた?」


 ユウマが呟く。


 土へ変わった訳でもない。


 岩場でもない。


 本当に途中で消えている。


「なんだこれ……」


 ケイも困惑していた。


 アイリスも答えない。


 分からないらしい。


 その時だった。


 荷馬車に乗る生存者の女性が顔を上げる。


 そして。


 その跡を見た瞬間。


 顔色を変えた。


 青ざめる。


 まるで嫌な記憶を思い出したように。


「……どうした?」


 ユウマが尋ねる。


 女性は少し迷う。


 言うべきか悩んでいるようだった。


 だが。


 やがて静かに口を開いた。


「その跡……」


 周囲が息を呑む。


「私、見た事がある」


 空気が張り詰める。


 ユウマも自然と身を乗り出した。


「どこで?」


 女性は樹海の奥を見る。


 不安そうに。


 そして。


「三年前」


「ヴェルグ樹海の奥で」


 一拍。


 そして続けた。


「消えた街道の近くで」


 風が吹いた。


 木々が揺れる。


 古代街道。


 消えた街道。


 そして謎の痕跡。


 別々だった話が。


 少しずつ繋がり始めていた。

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