表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/93

第一章・九 「イベント前夜」



 露店通りは、

 夜になってからの方が賑やかだった。


 港沿いへ並ぶ屋台。


 石畳へ反射する魔導灯。


 潮風。


 香辛料の匂い。


 海鮮を焼く煙。


 酒場から漏れる演奏。


 人々の笑い声。


 レグナスの夜は、

 どこか祭りに似ている。


「絶対こっち!」


 ガイが真っ先に露店席へ突撃した。


「だからお前は早いんだよ」


 カナタが呆れる。


「席取られるだろ」


「まあそれはそう」


 ミコトも苦笑した。


 海沿いの露店席は人気が高い。


 特に夜。


 レグナスの夜景を眺めながら食事が出来る席は、

 観光勢にも大人気だった。


 四人が座った席からは、

 港全体がよく見える。


 巨大な港湾橋。


 海上輸送船。


 空を横切る光翼艇。


 水面へ揺れる無数の灯り。


 そして。


 遠くの海へ浮かぶ巨大灯台。


 灯台の青白い光が、

 ゆっくり海面を掃いていた。


「やっぱレグナス好きだわ……」


 ミコトが呟く。


「分かる」


 ユウマも頷いた。


 Astral Ringには、

 人気都市がいくつもある。


 王都アストリア。


 空中都市ルミナス。


 砂漠交易都市バルハザード。


 雪原国家ノルディア。


 深層鉱山都市グラムベル。


 その中でも、

 レグナスは特別人気が高い。


 理由は単純だった。


 居心地がいい。


 それに尽きる。


 水路。


 海風。


 夜景。


 音楽。


 食文化。


 港特有の雑多さ。


 戦闘目的じゃなく、

 ただ街を歩くだけのプレイヤーも多い。


「お待たせー!」


 店員の少女が料理を運んできた。


 笑顔。


 自然な声色。


 慣れた動き。


 Astral Ringの住民達は、

 昔と比べて本当に自然になった。


 サービス開始初期は、

 もっとゲーム的だった。


 決まった台詞。


 固定反応。


 テンプレート会話。


 だが今は違う。


 雑談内容も変わる。


 機嫌も変わる。


 人間関係まで変化する。


 長く遊んでいるプレイヤーほど、

 彼らを“NPC”とは呼ばなくなっていた。


「今日おすすめ何?」


 ミコトが聞く。


「海竜串と、

 香味貝焼き!」


「じゃそれ!」


「食うなぁ」


 カナタが笑った。


「今日はガイのおごりで」


「はぁ!?」


「変異種素材売れただろ」


「お前ら容赦ねぇな!?」


 周囲のプレイヤー達まで笑う。


 こういう空気が、

 ユウマは嫌いじゃなかった。


 Astral Ringは、

 戦闘だけのゲームじゃない。


 雑談。


 景色。


 食事。


 街歩き。


 生産。


 交流。


 そういう“生活感”が、

 妙に心地良いのだ。


「しかし今回のイベント、

 マジで情報出ないな」


 カナタが空中UIを開く。


【海域連動イベント

 Lost Horizon】


 青白いイベント画面が浮かび上がった。


 未公開海域。


 特殊称号。


 限定装備。


 未知エリア解放。


 そして。


【イベント限定報酬

 ランダムBOX(E〜S)】


 その文字。


「うわ、

 S箱マジじゃん」


 ミコトが身を乗り出した。


「久々だなこれ」


 ガイも目を輝かせる。


 ランダムBOX。


 Astral Ring高難度イベント限定報酬。


 中からは:


・武器

・防具

・スキル

・魔法

・称号

・素材

・特殊装備


など、

 様々な報酬が出現する。


 そして、

 BOX後ろのアルファベットはレア度を意味していた。


 E。


 D。


 C。


 B。


 A。


 S。


 さらに一部では、

 EX級やMyth級の存在まで噂されている。


「でもS箱だからって、

 S装備確定じゃないんだよな」


 カナタが苦笑する。


「そこがARIS箱の怖いところ」


「去年A箱からD装備引いた奴、

 掲示板で発狂してた」


 ミコトが笑う。


「逆にE箱からAスキル出た都市伝説もあったよな」


「深夜配信のやつ?」


「そうそう」


 Astral RingのランダムBOXは、

 普通のガチャとは少し違う。


 高ランクBOXほど、

 高レア出現率が上がる。


 ただし。


 低ランク品が消える訳ではない。


 逆に。


 低ランクBOXでも、

 極低確率で高レアを引く事がある。


 そのせいで。


 神引き。


 爆死。


 都市伝説。


 配信切り抜き。


 そういう文化が異常に盛り上がっていた。


「しかもARIS補正ある説な」


 ガイが笑う。


「適性見てるって噂」


「戦闘傾向とか、

 探索履歴とか?」


「生産職なのに脳筋武器出る時点で、

 絶対性格悪い」


「それは分かる」


 笑いが起きる。


 料理が運ばれてきた。


 焼けた海竜肉。


 香味貝。


 海藻スープ。


 炙り魚串。


 香辛料の香りが一気に広がる。


「うまそ……」


 ガイが本気で目を輝かせた。


「お前ほんと幸せそうだな」


「飯は正義」


 即答だった。


 ユウマも海竜串を口へ運ぶ。


 熱い。


 香ばしい。


 海塩と肉汁が口へ広がる。


「……うま」


「だろ?」


 カナタが笑う。


「だからAstral Ringやめられないんだよ」


 周囲でも、

 プレイヤー達が盛り上がっていた。


「絶対新海域来る!」


「船カスタム欲しい!」


「S箱狙いてぇ……」


「深層海来たら絶対徹夜」


 大型モニターには、

 イベントPVが流れている。


 暴風海域。


 巨大海獣。


 沈没都市。


 深海光。


 未知の海。


 観客達から歓声が上がった。


「今回かなり金掛かってんな……」


 カナタが呟く。


「最近のAstral Ring、

 ほんと規模おかしい」


「サービス二十年超えて、

 まだ世界広がるの意味分からん」


 ミコトが笑う。


 だが、

 それがAstral Ringだった。


 終わらない世界。


 増え続ける未知。


 未踏領域。


 だからプレイヤー達は、

 この世界を歩き続ける。


 食事を終えた後も、

 四人はしばらく港を歩いた。


 水路沿い。


 橋。


 観光船。


 露店。


 大道芸。


 楽器演奏。


 夜のレグナスは、

 どこを歩いても賑やかだった。


 橋の上では、

 初心者プレイヤー達が記念撮影している。


 その横では、

 高ランク装備を見せ合うプレイヤー達。


 海沿いでは、

 釣り勢が静かに竿を垂らしていた。


「ほんと色んな遊び方あるよなこのゲーム」


 ミコトが呟く。


「だから人減らないんだろ」


 ユウマが答える。


 戦うだけじゃない。


 暮らす事すら出来る。


 それがAstral Ringだった。


 その時。


 街頭上空へ、

 巨大な空中UIが展開された。


【海域連動イベント

 Lost Horizon 開始まで】


 数字が表示される。


【00:58:42】


「うお、

 もう一時間切ってる」


 カナタが笑った。


 周囲のプレイヤー達も、

 一気に騒がしくなる。


「始まるぞー!」


「海域開放くる!」


「今日は寝れねぇ!」


 歓声。


 期待。


 高揚感。


 港街全体が、

 イベント熱へ包まれていた。


「そろそろ準備戻るか?」


 ガイが言う。


「補給だけしときたい」


「ポーション買わないとな」


「船酔い耐性アイテムも欲しいかも」


 ミコトが言う。


「海イベントだし」


 四人は笑いながら、

 宿通りへ向かって歩き出した。


 大型イベント。


 未知海域。


 新しい景色。


 新装備。


 新しい冒険。


 開始まで、

 あと一時間を切っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ