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第一章・四十七 「追跡」



 港倉庫区画の魔導灯が、

 次々と消えていく。


 バチッ――!!


 青白い火花。


 そして暗闇。


「きゃあぁっ!!」


「灯りが!!」


「押すな!!」


 避難民達の悲鳴が一気に広がった。


 港区画全体が騒然となる。


 ユウマは咄嗟に周囲を見回した。


 暗い。


 さっきまで見えていた通路が、

 一気に闇へ沈んでいる。


 その中で。


 赤い光だけが、

 複数揺れていた。


 人混みの奥。


 倉庫屋根。


 路地裏。


 まるで、

 こちらを誘導するみたいに。


「チッ……

 完全に狙ってやがる」


 リュードが剣を抜く。


 セレナも即座に杖を構えた。


「巡回兵!!

 避難民を中央へ寄せてください!!」


 冷静な指示。


 だが。


 港区画はもうかなり混乱していた。


 押し合い。


 怒鳴り声。


 泣き声。


 その時だった。


 ユウマの感覚が、

 強い違和感を拾う。


 左。


 倉庫群奥側。


 何かが動く。


「……!」


 ユウマが反射的に走った。


「ユウマ!?」


 ケイの声。


 だが、

 身体が先に動いていた。


【《瞬脚(アクセル)》】


 加速。


 濡れた石畳を蹴る。


 肩が痛む。


 でも。


 今は止まれない。


 倉庫群奥。


 狭い通路。


 積み上がる木箱。


 その隙間を、

 黒外套が走っていた。


 今度はハッキリ見える。


 逃げている。


 ユウマは追う。


 アクセルで距離を詰める。


 黒外套が振り返る。


 フード奥。


 赤いUI光。


 その瞬間。


「っ!!」


 相手が短剣を投げて来た。


 ユウマは反射的に身体を捻る。


 ギィン!!


 短剣が壁へ突き刺さる。


 速い。


 ただの盗賊じゃない。


 その時。


 黒外套が倉庫角を曲がった。


 ユウマも飛び込む。


 だが。


 そこで思わず足を止めた。


「……え?」


 広場だった。


 倉庫群奥。


 普段は荷下ろし場なのだろう。


 開けた空間。


 そこへ。


 大量の食料箱が積まれている。


 そして。


 その周囲に居たのは、

 三人のロストだった。


 黒外套。


 武装。


 そして。


 避難民から奪ったと思われる荷袋。


「……見つかったか」


 中央の男が笑う。


 二十代前半くらい。


 痩せた身体。


 黒髪。


 だが目だけが妙に鋭い。


 ユウマは周囲を見る。


 完全に裏搬入口だ。


 最初から、

 ここへ物資を集めていた。


 つまり。


 混乱は全部、

 このため。


 その時。


 後ろからケイ達も追い付く。


「ユウマ!!

 って……」


 ケイが目を見開く。


「何だよこれ……」


 ロストの男が笑った。


「避難支援だよ」


「ふざけんな」


 ケイが顔をしかめる。


 男は肩を竦めた。


「どうせ街の上層が抱え込む。

 だったら先に取るだけだろ」


 その言葉に、

 セレナの目が冷える。


「だから混乱を起こしたんですか」


「必要だったんだよ」


 男は平然としていた。


「人は恐怖で簡単に崩れるからな」


 その瞬間。


 ユウマは理解する。


 こいつらは、

 ただ壊れてるわけじゃない。


 この世界で生き残るために、

 こうなった。


 そして。


 それを正しいと思っている。


 男がユウマ達を見る。


「お前ら新入りだろ?」


「……」


「なら忠告してやる」


 赤いUI光が揺れる。


「街もギルドも国家も、

 ロストを便利な駒としか見てねぇぞ」


 リュードが低く言う。


「黙れ」


「本当の事だろ?」


 男は笑う。


「死ぬのはいつもロストだ」


 空気が重くなる。


 確かに。


 今日も。


 ユウマ達は最前線へ立たされた。


 だが。


 それでも。


 ユウマの脳裏には、

 港町の人々が浮かんでいた。


 泣いていた子供。


 食べ物をくれた店主。


 負傷者を助けていたミナ。


 あれが全部嘘には思えない。


 その時。


 男が荷箱へ手を置く。


「来いよ」


「……何?」


「ロストだけで生きる方が楽だぜ?」


 誘いだった。


 ケイが嫌そうに顔をしかめる。


「断る」


「即答かよ」


「当たり前だろ」


 ケイは短剣を構えた。


「街混乱させて、

 子供巻き込みかけてんじゃねぇ」


 男は少しだけ笑みを消す。


 その瞬間。


 後方のロスト二人が武器を抜いた。


 短剣。


 片手剣。


 空気が一気に張り詰める。


 ユウマも短剣を握る。


【ユウマ HP:29%】


 まだ低い。


 肩も痛む。


 でも。


 逃げられない。


 その時だった。


 男が小さく笑った。


「……まぁ、

 新入りは大体そう言う」


 次の瞬間。


 後方倉庫の扉が開く。


 ギギギッ――。


 そして。


 ユウマ達は思わず息を呑んだ。


「……は?」


 中に居た。


 大量の避難民。


 縛られている。


 口を塞がれ、

 閉じ込められていた。


 ミナの顔が青くなる。


「うそ……」


 男は平然と笑う。


「騒がれると面倒だからな」


 その瞬間。


 ユウマの中で、

 何かが切り替わった。


 ただの盗難じゃない。


 こいつらは。


 本気で危険だ。

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