表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/93

第一章・四十四 「混乱」



 港倉庫区画の空気が一変した。


「どけ!!

 子供が下敷きだ!!」


「木箱を退かせ!!」


 怒鳴り声。


 悲鳴。


 崩れた荷箱の周囲へ、

 一気に人が集まる。


 積み上げられていた大型木箱が、

 三段まとめて崩落していた。


 砕けた木片。


 散乱した荷物。


 その下から、

 小さな泣き声が聞こえる。


「お母さぁん……!」


「子供が居るぞ!!」


 巡回兵達が慌てて駆け寄る。


 だが。


 避難民達まで押し寄せ、

 完全に混乱していた。


 ユウマは咄嗟に動く。


「ケイ!!

 右側の人流止めて!!」


「お、おう!!」


 ケイが反射的に走る。


 ミナも慌てて動いた。


「こっちは怪我人見ます!!」


 セレナとリュードも即座に動き出す。


 完全に実戦慣れしている動きだった。


 ユウマは崩れた荷箱へ駆け寄る。


【ユウマ HP:34%】


 まだ低い。


 無理をすれば傷が開く。


 だが、

 そんな事言ってる状況じゃない。


「そっち持ち上げろ!!」


 巡回兵の声。


 ユウマも木箱へ手を掛ける。


 重い。


 かなり大型だ。


 ゲームみたいに、

 簡単には持ち上がらない。


「ぐっ……!」


 肩が痛む。


 裂傷部分が熱を持った。


 でも。


 少しだけ箱が浮く。


「今だ!!

 引っ張れ!!」


 兵士が子供の腕を掴む。


 次の瞬間。


 小さな少女が引き出された。


「うぅ……っ」


 泣いている。


 だが。


 生きている。


 周囲から安堵の声が漏れた。


「助かった……!」


 その時だった。


 ユウマの感覚が、

 再び妙な違和感を拾う。


 視線。


 誰かが見ている。


 しかも。


 さっきと同じ。


 人混みの奥。


 黒い外套。


 一瞬だけ。


 本当に一瞬。


 倉庫陰からこちらを見ていた。


「……っ!」


 ユウマが目を向けた瞬間。


 そいつはまた消える。


 逃げるように。


 いや。


 最初から、

 見つかる前提で動いているみたいに。


「ユウマ!!」


 ケイの声。


 ユウマはハッとする。


「どうした!?」


「いや……

 今誰か……」


 だが。


 既に人混みで見えない。


 避難民。


 商人。


 船員。


 大量の人が動いている。


 追えない。


 その時だった。


 リュードが崩れた荷箱を見ながら眉を寄せる。


「……おかしいな」


「え?」


 ユウマが振り向く。


 リュードは木箱の残骸を調べていた。


 そして。


 一本の縄を拾い上げる。


 切れている。


 だが。


 自然に千切れた感じじゃない。


「切断跡だ」


 セレナの目が細くなる。


「……故意ですね」


 空気が少し変わる。


 ケイが顔をしかめた。


「いや待って。

 つまり誰かがわざと?」


「混乱を起こした可能性が高い」


 リュードの声は低かった。


 その時。


 周囲の避難民達がざわつき始める。


「また魔物か!?」


「街の中に居るのか!?」


「やめろ!!

 押すな!!」


 不安は伝染する。


 ただでさえ、

 皆グランゼル襲撃直後で怯えている。


 そこへ更なる混乱。


 完全に空気が悪化していた。


 その時だった。


 倉庫区画奥側から、

 別の兵士が走って来る。


「隊長!!

 北側倉庫で食料箱盗難です!!」


 リュードが舌打ちする。


「チッ……」


 セレナも表情を険しくした。


「同時……?」


 偶然じゃない。


 ユウマもそう感じた。


 さっきの黒外套。


 結界停止。


 タイミング。


 全部が繋がり始めている。


 その時。


 ユウマの視界端へ、

 再びUIが浮かぶ。


【緊急支援依頼更新】


【港倉庫区画警戒補助】


【追加条件確認】


【混乱誘発者を警戒してください】


「……!」


 ユウマが息を呑む。


 ケイも同じUIを見ていた。


「ちょっと待て……

 “誘発者”って何だよ」


 ミナも不安そうに周囲を見る。


「誰か居るって事……?」


 セレナが静かに言った。


「ロストかもしれません」


 三人が反応する。


「え?」


「混乱時に盗難や暴動を起こす者は珍しくありません」


 その青い瞳が、

 暗い港倉庫区画を見つめる。


「特に、

 長く壊れたロストは」


 その言葉が妙に重かった。


 長く壊れた。


 ユウマは無意識に、

 以前会った年配ロストを思い出す。


 UIが薄れ、

 現実感覚が消えていく。


 もし。


 その先で、

 完全に壊れたら。


 この世界でしか生きられなくなったら。


 ユウマの背筋へ、

 小さな寒気が走る。


 その時だった。


 港倉庫区画奥側。


 暗い路地裏で。


 一瞬だけ。


 赤い光が揺れた。


 まるで誰かが、

 こちらを観察しているみたいに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ