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第一章・四十二 「夜の依頼」



 医務区画の空気は、

 相変わらず慌ただしかった。


 白い魔法光。


 怒鳴り声。


 運ばれる負傷者。


 回復術師達は休む暇も無く動き続けている。


 その中で。


 ユウマ達だけが、

 少し落ち着きを取り戻し始めていた。


【ユウマ HP:31%】

【ケイ HP:34%】

【ミナ HP:58%】


 応急処置。


 休息。


 簡易治療。


 それだけでも、

 HPは少しずつ戻っている。


 とはいえ。


 全快には程遠い。


 肩の傷はまだ痛むし、

 全身の疲労も消えていなかった。


 ケイが椅子へ深く座り込みながら息を吐く。


「……やっと、

 ちょっと生き返った気がする」


「さっきまで死にそうだったもんね」


 ミナが苦笑する。


「お前もだろ……」


 ユウマも小さく息を吐いた。


 医師の話を聞いた後だと、

 HP表示の見え方が変わる。


 ただのゲーム数値じゃない。


 本当に、

 命へ直結している数字だ。


 その時。


 医務区画入口側で、

 小さな騒ぎが起きる。


「隊長!!

 北側倉庫区画でまた騒ぎです!!」


 兵士が駆け込んで来た。


 リュードが眉を寄せる。


「魔物か?」


「いえ……

 避難民同士の揉め事が……」


 リュードが舌打ちする。


「こんな時に……」


 港町はまだ混乱している。


 被害が大き過ぎた。


 住民達の不安も限界なのだろう。


 その時だった。


 セレナが窓の外を見ながら、

 小さく呟く。


「……結界が落ちた影響ですね」


 ユウマ達が反応する。


「結界?」


 セレナは静かに頷いた。


「セイル沿岸には、

 本来大型魔物避けの結界があります」


「じゃあ、

 なんでグランゼルが……」


 ケイが顔をしかめる。


 セレナは少しだけ黙った。


「停止していました」


「停止?」


「はい。

 昨夜から」


 その言葉で、

 空気が少し変わる。


 偶然じゃない。


 ユウマはそう感じた。


 大型魔物。


 結界停止。


 タイミングが出来過ぎている。


 だが。


 今はまだ、

 そこを深く追う余裕が無い。


 その時だった。


 医務区画奥側から、

 別の兵士が現れる。


「リュード隊長」


「なんだ」


「ギルド側から要請です。

 港倉庫区画の警戒人員が足りません」


 リュードが眉を寄せた。


「今?」


「はい。

 混乱に乗じて、

 盗難も増えているらしく……」


 港町セイルは交易都市。


 物資が多い。


 そして今は、

 街全体が混乱している。


 リュードは深く息を吐いた。


「人手不足か……」


 その瞬間。


 ケイが嫌な予感をした顔になる。


「……まさか」


 リュードの視線が、

 ゆっくりこちらを向いた。


「動けるか?」


「いやいやいや!!

 無理無理無理!!」


 ケイが即答した。


「俺ら瀕死だったんだけど!?」


 ミナも慌てて頷く。


「そ、そうですよ!」


 だが。


 リュードは真面目だった。


「魔物討伐ではない」


「え?」


「避難民誘導と警戒補助だ」


 ユウマは少し考える。


 確かに。


 街側も限界なのだろう。


 負傷者多数。


 巡回兵も消耗。


 人手が足りない。


 その時。


 セレナが静かに言う。


「無理はさせません」


 青い瞳が、

 ユウマ達を見る。


「ですが、

 今のセイルは人が足りません」


 その声には、

 現実感があった。


 ゲームイベントみたいな軽さじゃない。


 本当に街が回っていない。


 その時だった。


 ユウマの視界端へ、

 UIが浮かぶ。


【緊急支援依頼】


【港倉庫区画警戒補助】


【推奨危険度:低】


【報酬:

 経験値

 セイルギルド仮登録権】


「……っ」


 ユウマが目を見開く。


 ケイも同じだった。


「また出た……」


 ミナも不安そうにUIを見る。


 セレナはその反応を見て、

 小さく息を吐いた。


「ロストには、

 時々そういう依頼が出ます」


「依頼……」


「世界側が認識した役割行動です」


 その言い方が、

 また少し不気味だった。


 まるで。


 世界そのものが、

 必要な役割を割り振っているみたいで。


 ユウマは窓の外を見る。


 夕暮れが、

 少しずつ夜へ変わり始めていた。


 港町セイル。


 戦いは終わった。


 だが。


 この街はまだ、

 傷だらけのままだった。

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