第一章・二十二 「二本目」
レイヴンハウンドが咆哮した。
血走った目。
牙。
唸り声。
傷を負っているのに、
まるで怯んでいない。
【レイヴンハウンド HP:18%】
なのに。
まだ倒れない。
「くそっ……!」
ユウマは息を切らしながら後退した。
呼吸が苦しい。
脇腹が痛い。
脚も重い。
【ユウマ HP:17%】
赤ゲージ。
あと何発受けられるのか。
考えたくも無かった。
だが。
もっとまずい事がある。
火力が足りない。
当てられる。
避けられる。
動きも見える。
なのに。
倒し切れない。
レイヴンハウンドが低く姿勢を落とす。
来る。
ユウマの感覚が反応した。
踏み込み。
重心。
飛ぶ角度。
全部見える。
だが。
もう一体も横から回り込んでいる。
挟まれる。
「っ!!」
ユウマは石柱側へ動いた。
逃がさない。
位置を限定する。
その瞬間。
二体同時に飛び掛かって来た。
「ユウマ!!」
ケイが叫ぶ。
ユウマは一体目の噛み付きへ短剣を合わせた。
ガギィィン!!
火花。
牙と刃がぶつかる。
だが。
重い。
「ぐっ……!!」
押し切られる。
そこへ。
二体目が横から迫る。
避け切れない。
その瞬間だった。
「これ使え!!」
ケイが叫ぶ。
何かが飛んでくる。
短剣。
ケイの武器だった。
ユウマは反射的に左手で掴む。
「っ!?」
その直後。
二体目の牙が迫った。
ユウマは咄嗟に左手の短剣を振る。
ガギィッ!!
火花。
牙が弾かれる。
衝撃で左腕が痺れた。
だが。
防げた。
ユウマの呼吸が僅かに変わる。
視界。
間合い。
敵の位置。
さっきまでより、
少しだけ余裕が出来ていた。
一体目が再び飛び掛かる。
ユウマは右で牙を逸らす。
そのまま。
左手の刃を首横へ滑らせた。
ザシュッ!!
【レイヴンハウンド HP:11%】
「っ……!」
浅い。
まだ足りない。
レイヴンハウンドが怒り狂ったように暴れる。
もう一体が横から飛び込む。
ユウマは反射的に身体を沈めた。
頭上を牙が通過する。
そのまま。
石柱へ激突。
轟音。
石片が飛び散る。
「今だ……!」
ユウマの感覚が反応する。
崩れた。
重心。
隙。
踏み込み。
全部が見える。
【スキル補助起動】
【《空閃》】
一瞬だけ。
身体が軽くなる。
ユウマは踏み込んだ。
最短距離。
右手で喉元を裂く。
その勢いのまま。
左手を返す。
追撃。
首筋へ。
その瞬間。
視界端へ、
新しい文字が浮かんだ。
【スキル補助起動】
【《連牙》】
「……っ!?」
ユウマの目が見開かれる。
だが。
考える暇は無い。
身体が自然に動く。
右。
左。
連続。
まるで。
次の一撃へ、
軌道が引っ張られるみたいだった。
「はぁぁぁっ!!」
ザシュッ!!
左手の刃が深く入る。
【レイヴンハウンド HP:0%】
ギャァァァァッ!!
断末魔。
レイヴンハウンドが地面へ転がる。
痙攣。
そして。
その身体が黒い粒子へ崩れ始めた。
消滅。
粒子化。
風へ溶けるように散っていく。
その場へ残ったのは。
赤黒い魔晶石。
そして。
鋭い牙素材だった。
「倒した……?」
ケイが呆然と呟く。
ユウマも息を呑む。
本当に。
今。
倒した。
だが。
安心する暇は無かった。
もう一体がいる。
レイヴンハウンドが怒り狂ったように飛び掛かる。
「っ!!」
ユウマは咄嗟に身構えた。
呼吸は限界。
身体も痛い。
左手もまだ完全には馴染まない。
なのに。
さっきまでより、
少しだけ動きが繋がる感覚があった。
後方で、
グラヴォルフの咆哮が響く。
直後。
巨大な氷壁が砕け散った。
銀髪の女性が、
単独でグラヴォルフを抑えている。
その姿を見た瞬間。
ユウマは歯を食い縛った。
早く。
もっと早く。
倒さないと。
じゃないと、
間に合わない。
レイヴンハウンドが再び地面を蹴る。
ユウマも踏み込んだ。
恐怖を押し込めるように。




