05 孤児院への道中
あぁもうすぐGWが終わってしまう……
夜の門をくぐり、冒険者の男に案内されて孤児院を目指して歩いていた。
街の中は、夜ということもあり、半数ほどの建物にしか明かりがついていない。
通路の脇には、飲食店であろう建物が並び、それ以外の店はしまっているようだ。
「……」
ルシアは胸の奥に残る緊張をそっと吐き出した。
腕の中のアーサーは、さっきまでの泣き声が嘘のように、すやすやと気持ちよさそうに眠っている。
「……まったく、泣くか寝るか、極端な子だな」
ルシアは、アーサーの寝顔を見つめながらそんなことを呟く。
その声にはようやく眠ってくれたことへの安堵と、それとは違う愛情のような感情が入り混じっていた。
「あ…あのぅ、大丈夫でしたかい…?」
不意に声をかけられ、ルシアは声をかけてきた男の方を見る。
背中に大剣を背負った冒険者の男、さきほどまではルシアの少し前を歩いていたが、いつのまにか横まで来ていたようだ。
「……あぁ、問題ない」
ルシアは男に軽く返答して会話を終わらせる。
魔王であるルシアには、あまり人族とは関わりを持ちたくない理由があった。
かつて、魔族と人族の共存を訴えてきた勇者がいた。
ルシアの能吏にあの時の記憶が蘇る。
「……魔王ルシア殿、我らと協定を結び、争いの無い世を作りましょう」
ルシアも争いは好まない、ただ人族から魔族を守るために戦っていたにすぎない。
ルシアは勇者の言葉を聞き、その望みをかけ部下を説得した。
――しかし、裏切られた。
共存を唱っていた勇者は、ただ魔王の隙を狙っていただけだったのだ。
男との会話を早々に終わらせたルシアは、胸の奥に沈んだ古い記憶を思い出していた。
「そ、その、可愛い寝顔ですね……名前はなんていうんですかい?」
魔王のそんな過去を知らない男は、もう一度ルシアに話しかける。
ルシアは一瞬だけ言葉を詰まらせながら、視線をそらした。
「……ル、ルーシーだ」
魔王の名前は人族にも知れ渡っている、ここで『ルシア・スカーレット』と名乗ることもできずとっさ思いついた名を口にする。
「…ルーシーちゃんですかい、可愛い名前ですねぇ」
男はルシアの返答を聞いた後、腕の中で眠るアーサーに優しく話しかける。
「……い、いや、ルーシーは私の名前だ、この子はアーサーという」
ここで初めて自分の名ではなく赤子の名前を聞かれたことに気がつき、ルシアは少し顔を赤くしながら答えた。
「……へっ、す、すいやせん、ルーシーちゃんだなんて……」
男も思ってもみなかったルシアの言葉を聞いて戸惑いを隠せない。
「……」
「……」
(……どうしたものか)
(……気まずいでさぁ)
ルシアと男はお互いにそんなことを思いながら、前を向いて歩いていく。
魔王と冒険者、種族も育った環境もまったく違うはずなのに、今この瞬間だけは少し似た姿をしていた。
「こ、ここが孤児院でさぁ……」
男が指さした先には、古びた石造りの建物が佇んでいた。
孤児院というよりは神を祀る教会に近いだろうか。
ルシアは扉の前まで進み、そっとアーサーを抱え直した。
赤子は相変わらず穏やかな寝息を立てている。
(……ここで、この子とはお別れか)
胸の奥がほんの少しだけ痛んだ。
その理由は分からない。
ただ襲われていた馬車から助け出し、ここまで連れてきた。
時間にすれば半日も経っていないはずなのにーーー
腕の中の温もりが、思っていた以上に重く感じられた。
そのときーー
「おや……こんな時間にどうされました?」
横から柔らかい声がした。
振り向くと、そこには白髪をきちんとまとめた年老いた女性が、灯りを手に、静かにこちらを見つめていたーー
ルシア様、実はちょっとおやめなのです
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