3話 後悔
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ルシアは―――後悔していた。
つい先ほどまで、ただ静かな夜の森を歩いていただけだったのに。
魔族と人族の争いから逃れ、孤独に生きることを選び、ようやく手に入れた静寂。
それが今、腕の中で粉々に砕け散っている。
「うっっ…うわああああぁぁぁぁぁあん」
ルシアに抱きかかえられた赤ちゃんは、まるで世界の終わりを告げる鐘かのように泣き叫んでいた。
少しでも力を加えれば、潰れてしまいそうなほど小さな体。
いったいこの体のどこに、こんなエネルギーがあるというのか。
(…なぜ私がこんなこんなことを……?)
拾ったのは、ただの気まぐれだった。
両親を魔物に殺され、一人生き残った赤ちゃんを気の毒に思い、抱きあげた。
最初は良かった、ルシアの顔を不思議そうに覗き込み、ローブを袖をぎゅっと掴む小さな手。
その姿は、魔王の長きにわたる苦悩を癒してくれる存在だと感じた。
――だが、違った。
「…アーサーよ。どうすれば泣き止むのだ……?」
ルシアは、腕の中で泣き続ける赤ちゃんの名前を呼びながら、この子を見つけた直後のことを思い出す。
血の匂いが漂う馬車の中で、ルシアに抱きかかえられた赤ちゃん。
せめて、街の孤児院までは送り届けてやろうと思い、なにか持っていくべきものはないかと、馬車の中の荷を軽く探ってみた。
その中には、この子のものであろう衣類やおもちゃがあった。
そしてそのひとつに“アーサー”という名が刻まれていた。
「……そなた、アーサーと言うのだな」
ルシアがそう腕の中の赤ちゃんに優しく語りかけると、自身の名を呼ばれたことに反応し、アーサーは、にこりと微笑み返してくれた。
――しかし今は違う。
「うわああああああああああああああああああああああ」
ルシアの声など、泣き叫ぶ声にかき消されてしまい、アーサーには届かない。
(…ど、どうすればよいのだ……。)
史上最強の魔王であっても、赤ん坊の扱いなど知らなかった。
泣き声に釣られて近づいてくる魔物をひと睨みで追い払いながらルシアは考える。
そんな時に、ふと過去の記憶が脳裏をよぎった。
かつて自身の部下が産まれたばかりの赤ん坊を連れて来た時にやっていた仕草。
それを見て、赤ん坊は楽しそうに笑っていたことを思い出す。
(…私があれを、やるのか……?)
その仕草は数百年、魔王の座に君臨し続けたルシアのプライドを刺激する。
だが、やらねば腕の中にいるアーサーは、泣き止まない。
(…ふぅ、仕方あるまい…。)
魔王ルシアは、大きく息を吐き、決意を固め、アーサーの顔を覗き込む。
そして、手のひらを広げ、自身の顔を隠すようにかざし、こう呟いた。
「…い、いない、いない、ばあ…」
手のひらを左右に動かし、アーサーとルシアの顔の間を何度も往復させる。
「いない、いない、ばあ」
「いない、いない、ばあ」
「いない、いない、ばあ」
(たのむ、泣き止んでくれ…)
ルシアは心の中で、そう願いながら何度も何度も繰り返しーー
ついに、アーサーが泣き声を止め、ルシアの方を見た。
(っっっ、やっと、やっと泣き止んでくれたっ……)
ルシアは内心で安堵しつつ、もう一度同じ動作を繰り返す。
「いな~い、いない、ばあっ」
最初のぎこちなさはどこにもなく、その声には、少し嬉しさがにじみ出ていた。
アーサーは、ルシアのその姿をじっとみつめ、
そしてーーーー
「っうっうぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
先程までとはくらべものにならないくらい大きな声で泣き出してしまった。
「…えっ、なっ、なんでぇ……」
魔王の呟きは、うっすら目に浮かびあがった涙とともに、夜の森に鳴り響く声にかき消されるのであった。
あぁ、魔王様がちょっとかわいそう、
3話にしてすでにキャラ崩壊気味……
ふたりとも、強く生きてほしいと願う作者です。
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