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7話、8話

「というわけで!」


数日後の放課後。


結衣がノートを広げて、元気よく言った。


「青春、全力でやります宣言!」


「……急にテンション高いな」


海里は呆れたように言いながらも、少し笑っていた。


あの日、病室で交わした約束。


——全部付き合う

——後悔させない


それを、ちゃんと守るために。


「まずはこれ!」


結衣が指差したのは——


“屋上で昼ごはん”


「今じゃねえか」


「いいのいいの、思い立ったが吉日!」


強引に腕を引かれ、屋上へ向かう。


春の空は、どこまでも青かった。


屋上には誰もいない。


風が少し強くて、結衣の髪が揺れる。


「はい、これ」


結衣が差し出したのは、お弁当。


「……作ったのか?」


「うん。頑張った」


少し照れたように笑う。


「いただきます」


二人で並んで座り、同時に手を合わせる。


「……うまい」


思わずこぼれた言葉に、結衣の顔がぱっと明るくなる。


「ほんと!?」


「ほんと」


「よかったぁ……」


ほっとしたように笑うその顔を見て、海里は胸が少し温かくなる。


「ねえ」


結衣が、ぽつりと言う。


「こういうの、夢だったんだ」


「夢?」


「好きな人と、普通に学校でご飯食べるの」


その言葉に、海里の手が止まる。


「……好きな人って」


「今は気にしないで」


くすっと笑う結衣。


でも、その頬は少しだけ赤かった。


(……なんなんだよ)


ドクドクと、心臓がうるさい。


でも——嫌じゃない。


「次はこれね!」


結衣はすぐに話を切り替える。


「文化祭で一番目立つ!」


「まだだいぶ先だろ」


「だから準備するの!」


その無邪気さに、海里は少しだけ笑った。


放課後。


二人は教室に残って、出し物の案を考えた。


笑って、ふざけて、真面目に悩んで。


何気ない時間。


でもそれは、確かに“青春”だった。


帰り道。


夕焼けに染まる道を並んで歩く。


「ねえ、海里くん」


「ん?」


「楽しいね」


その一言に、胸がぎゅっとなる。


「……ああ」


短く答える。


でも、その中にはたくさんの感情が詰まっていた。


(こんな時間が、ずっと続けばいいのに)


思ってしまった。


叶わないって、分かっているのに。


8話

それからの日々は、あっという間に過ぎていった。


放課後に寄り道して、

一緒に帰って、

笑い合って。


まるで、普通の恋人みたいに。


「ねえ、海里くん!」


ある日の放課後。


結衣が、少しだけはしゃいだ声で言う。


「今度、海行こ!」


「海?」


「うん!リストにもあるでしょ」


確かに書いてあった。


——海を見に行く


「……いいな」


海里は、少しだけ空を見上げる。


「行こうぜ」


「ほんと!?」


「その代わり、無理すんなよ」


少しだけ強い口調。


結衣は一瞬、きょとんとして。


それから、ふわっと笑った。


「うん、分かってる」


でも——


その約束は、すぐに影を落とした。


次の日の授業中。


ふと横を見ると、結衣が机に伏せていた。


「……結衣?」


小さく声をかける。


反応がない。


「先生」


思わず手を挙げる。


「白石、ちょっと具合悪そうなんで」


教室の空気が変わる。


保健室へ連れて行く途中。


結衣の体は、思ったより軽かった。


「……ごめん」


弱々しい声。


「また……」


「謝んな」


海里はすぐに言う。


保健室のベッドに寝かせると、結衣はすぐに眠ってしまった。


その寝顔は、とても静かで——


少し怖かった。


(……時間、減ってるのか)


ふと、そんな考えがよぎる。


何もしていなくても、確実に進んでいく時間。


止められない現実。


放課後。


目を覚ました結衣が、小さく笑った。


「……また倒れちゃったね」


「笑い事じゃねえだろ」


思わず強く言う。


「無理すんなって言っただろ」


「……してないよ」


「してる」


即答だった。


結衣は、少しだけ黙る。


そして、ゆっくり言った。


「だって……」


「時間、もったいないじゃん」


その言葉に、海里は何も言えなくなる。


「海里くんといる時間、全部大事なの」


「だから——」


「ちょっとくらい、無理してもいいかなって」


「よくない」


はっきりと言い切る。


「お前がいなくなったら、意味ないだろ」


その一言で、空気が止まった。


結衣は、驚いたように海里を見る。


そして——


少しだけ、泣きそうに笑った。


「……そっか」


その笑顔が、あまりにも優しくて。


でも、どこか悲しくて。


「じゃあ、約束する」


結衣が、小さく手を差し出す。


「無理しすぎない」


海里は、その手を見つめる。


そして、ゆっくりと握った。


「……ああ」


その温もりは、確かにそこにあった。


なのに——


どこか、消えてしまいそうで。


(絶対、守る)


海里は心の中で誓う。


この時間を。

この笑顔を。


最後まで——

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