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私はあなたを纏いたい! ~魔剣と始めるダンジョン攻略~  作者: 悦田半次


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ラスボスを倒せ

 ダンジョンによる侵食が始まったことで、街は大混乱に陥った。

 侵食は間も無く街の中心部に及び、住民は自分達の家や街が、カタチを変えていく様に恐怖を覚えた。

 さらにダンジョン化した街から産み落とされたモンスター達が、次々と彼らに襲いかかる。

 建物が燃え、怒号と悲鳴が飛び交う。

 しかし人間達もただ蹂躙されるばかりではない。

 たまたまその場に居合わせた、もしくは結界に飛び込んできた冒険者がモンスターに立ち向かったことでこの街は戦場と化した。


「こんなところかしら……」


 街で一番高いビルの屋上で、アリアは燃える世界を睥睨していた。

 己を起点とした、ダンジョンによる世界の侵食。

 それが、蘇ったアリアにダンジョンが与えた『クエスト』だった。この世界が勝つか、ダンジョンが勝つか――そう言うゲームだ。もっとも、勝負の行方はアリアにとってどうでもいい。しかし仕事は仕事だ。


「与えられた以上、しっかりはこなさないといけないものね」


 ブラッドムーンを振るい、魔力で形成された刃がビルを数棟薙ぎ払い、崩壊させた。


「さて、これで何人死んだかしら……ねえディア、見てる?」


 アリアは、身に纏っている鎧に呼びかけた。


「街が燃えているわ。人が死んでいるわ……聞こえる? 人々の悲鳴、モンスターの叫び……ふふっ、私が燃やしたのよ。私が殺したのよ。ねえ、ディア。どう思う?」


 返事は無い。あの薄汚い泥棒猫をアリアが食ってから、ずっとこの調子だ。


「面白くないなぁ……羽衣璃がそれだけ大きな存在だったって事になるんだもの。でも、絶望したディアも悪くないわ」


 アリアはディアを愛している。

 ディアが発する感情ならばどんなものでも美しく、心地よい。彼女は飄々としているようで、責任感は強いのだ。

 だからこそ、アリアは晴瑠野羽衣璃という存在がムカ付いて仕方がない。

 五年間一緒だった自分と約半月の羽衣璃で態度があまり変わらないというのは腹立たしい。

 ムカ付いたので、再び斬撃を跳ばした。今度は民間人と彼らを護衛する冒険者が固まっているエリアだ。

 つんざくような悲鳴が、刃の到達と共に途切れる。このコントラストがたまらない。その時だった。


「……見つけた」


 ここ半月で大分聞き慣れた声が、アリアの耳をくすぐった。


「生きてたのね、キル」





 キルは変質しつつある建物の階段を上り、屋上へと到達した。


「足はある、わね。てっきりモンスターにグチャグチャにされてたものだと思ったわ」


 おどけたジェスチャーで喋る黒鎧。

 同じ外見でも、中身が違えば抱く印象はまるで違う。

 寝間着代わりのTシャツには返り血が付いているが、その殆どはモンスター由来のものだ。


「あのモンスター達は、全て殺した」

「ふぅん……それにしても、よくここが分かったね」

「勘。あと、あの砂時計の近くにいるかもと思ったから」


 ビルの頂上には、巨大な砂時計が浮遊し街を睥睨している。

 中の砂はそこまで落ちていないが、全て落ちきった時に碌でもない事が起こるのは想像に難くない。


「やっぱり目立つ? そうよね……これ絶対無い方がいいのに、ダンジョンの奴も妙に律儀よね。薄々気付いてるかもしれないけど、砂時計の砂が落ちきる前になんとかしないとゲームオーバー。それ以降はこのダンジョンを攻略しても、侵食によってもたらされた惨劇は現実として定着するわ。十年前みたいにね」

「……!」

「ちなみに人類側の勝利条件は制限時間内にダンジョンマスターであるのボスの撃破。さて誰かしら? 勿論、私なのだわ!」


 鎧を震わせケラケラと笑う。十年前――ダンジョン災害。忘れられる筈も無い、あまりにも苦い記憶。


「……ならば、殺す」


 アリアは言った。

 制限時間内に倒せなければ目の前の惨劇は現実となると。

 それは逆に制限時間内に倒せれば惨劇を覆し、否定することができるということでもある。


「ふぅん。でも、私を殺しても羽衣璃は帰ってこないわ。もう食べちゃったもの」

「羽衣璃は強い。人間だった頃から、私なんかよりずっと強かった」


 十年前の苦い記憶。しかしその中で、決して忘れえぬ輝きがあった。泣いているキルにお菓子をくれた。震えるばかりのキルを守ろうと、モンスターに立ち向かった。

 ヒーローは、ずっとキルの隣にいた。


「だから、今度は私が助ける。その腹掻っ捌いて、羽衣璃を引きずり出す……変身!」


 キルはデバイスを起動し、アバターに変身。全神経に針を通したような激痛がキルを襲い、思わず膝を突いた。


「やっぱりそうなるわよね。アバター破壊直後に再変身すると……ん?」


 キルは立ち上がる。

 痛みが何だ、肉体への負荷が何だ、データの崩壊が何だ。羽衣璃の命よりも優先すべき事か? 否。否である。

 最愛の幼馴染を取り戻し、鬱陶しくも優しかった先輩の敵を取る。それだけの理由があって、戦わないなんてできるものか――!


「おまえを、殺す――!」


 肉薄し、抜刀。弾丸じみた勢いで抜き放たれた一撃を、ブラッドムーンが阻む。

 その衝突に、大気が震えた。


「いい殺気ね……それじゃあ始めましょうか。ラスボス戦!」


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