異能
「この感触久しぶり……私、またディアと一つになれたのね!」
「うわああああああああああああああ!」
分断されていた上半身と下半身を繋げ、羽衣璃はアリアに殴りかかった。
だが鎧は堅牢。拳が砕けた。
それでも構わず、羽衣璃は拳を振るい続ける。
「あらあら、そんなに取り乱しちゃってまぁ。みっともないわよ?」
アリアは羽衣璃の両腕を掴み、おもむろにて蹴りを繰り出した。
衝撃で両腕が引きちぎられ、羽衣璃は吹っ飛び瓦礫に叩き付けられた。
ぐしゃり、と身体の内側から異音が聞こえた。
弱い。
ディアのいない自分は、こんなにも弱かったのか。
いや、自分の不甲斐なさを責めるのは後だ。
先程アリアが放ったデバイスが、視界に映り込む。
「……!」
両腕を再生させた羽衣璃は、デバイスに飛びついた。
操作方法は、以前キルが教えてくれたから頭に入っている。
「あら、アバターが破壊されたばかりのデバイスは起動しない方がいいわよ?」
「変身ッ!」
アリアの忠告を聞かず、羽衣璃はリンネ・フィストオンのアバターを纏った――瞬間、激痛が羽衣璃の神経を蹂躙した。
「がああああああああああああああああ!」
「ほらそうなった。変身はできるけど、それ死ぬほど痛いの。スペックも下がるし」
「黙、れ……!」
痛みが何だ。
死ぬわけではあるまい。
膝を突いてる己を叱咤し、羽衣璃は弾かれたように立ち上がり、駆けた。
相棒を取り戻すために――!
「うおおおおおおお!」
羽衣璃は無我夢中で、拳の乱打をアリアに叩き込む。
型も何もあったものではない。羽衣璃は完全に冷静を欠いていた。
「愛されてるわね、ディア。ここまで必死に食らいつこうとするんだから」
羽衣璃の攻撃を捌きながら、アリアは口笛を吹かんばかりだった。
「やめろ羽衣璃……! 今の君では、アリアには勝てない。彼女の異能は『武具生成』だ! 生半可な力では蹂躙されるばかりだぞ!」
「む、そういうネタバレはいけないわ。拍子抜けしちゃうもの……せっかくいい感じに出そうと思ってたのに。仕方ない――おいで、ブラッドムーン!」
アリアは陰の中から姿を現した剣の柄を握り、引き抜いた勢いで羽衣璃の攻撃を弾いた。
深紅の刀身を持つその剣は、見ただけで全身の筋肉が硬直しかけない禍々しい威圧感を放っていた。
だが止まっては駄目だ。
スペック、技量――今の羽衣璃では全てが劣っている。その上勢いさえ挫かれれば、何も残らない。
地面を蹴り後退し、ナックルとナックルをかち合わせ、杭打ち機へと合体変形。
吸血鬼は本来心臓を打ち抜かれれば死ぬ。ディアの鎧をも貫いたこの杭ならば、あるいは――!
「はあああああああああああ!」
裂帛の声と共に撃ち出される杭。この距離ならば避けられまい――!
「ほいっ」
アリアはブラッドムーンを振るい、杭を真っ二つに切断。
なんと言うことか。杭は炎に包まれ消滅してしまった。
「この前のお返し? 実際、当たれば私にとっては致命的だけど、当たってないから意味ないわ――アイアンメイデン!」
瞬間、アリアの影が伸び、羽衣璃にまで達した。
「拘束技だ! 跳んで逃げろ!」
ディアの声に従うが、陰から伸びた杭が足を貫き、それを阻む。
さらに虚空から内側に棘を有した棺のパーツが出現。
逃げようと周囲を見渡すが、死角がない。
そもそも棘に足を拘束されている――!
「はい、おしまい」
羽衣璃を中心にパーツが殺到し、棺のカタチを成す。
「ぐあああああああ!?」
内側にいた羽衣璃の体に、次々と針が突き刺さる――!
耐えがたい激痛と共にアバターが破壊された。
棺が消滅し、落下した羽衣璃はろくに受身も取れず地面に叩き付けられた。
偽りの体を刺し貫かれた幻痛が、羽衣璃を苛む。
「まだです……まだ――私は……!」
「おしまいって言ったでしょう?」
ブラッドムーンが羽衣璃の心臓を貫く。肉体が発火し一瞬にして火達磨と化した!
「ぎゃあああああああ!」
それは、今まで経験したものの中で最上級に位置する痛みだった。
これに比べれば、先程のアイアンメイデンは児戯もいいところだ人間であれば、ただの吸血鬼であれば、この痛みも一瞬のものだっただろう。
むしろ、痛みを感じる前に死ねたかもしれない。
だが、羽衣璃にはそれが許されない。焼却修復焼却修復――地獄のサイクルを味わうことになる。
「ふぅん。やっぱり、心臓貫かれても死なないのね。再生特化の異能かしら。でも、それ以外の能力は平凡……むしろそれ以下ね。十把一絡げの雑魚吸血鬼。やっぱりあの時『調整』を受けなく正解だったわ。こんなんじゃあのクソカス真祖に勝てっこなかったろうし」
「もういいだろうアリア。お願いだから羽衣璃を解放してくれ……! 君の言う通りだ。彼女だけでは君の脅威になり得ない。殺す理由もないだろう!?」
「ダメ。ディアにそこまで言わせる相手なんて、いらない。私だってディアと距離詰めるのにかなり時間がかかったのに。半月でなんて早すぎるじゃない。ムカつくじゃない。殺すしかないじゃない――ん?」
その瞬間、アリアの喉元に、燃え盛る羽衣璃の掌が食らいついた。
「返せ……」
アリアの首を締め付けながら、羽衣璃は地獄の底から聞こえてくるような声で、言った。
「返せ……ディアを、返せ……!」
この状況でも尚、羽衣璃の戦意は衰えない! しかし現実は、あまりにも無情だった。
「嫌だって言ってるでしょう? それに――再生特化型と言っても、いくらでもやりようはあるんだから」
「……! やめろ! それだけはやめてくれ! お願いだアリア。君の言う事なら何でも聞く。だから、羽衣璃だけは……!」
「イヤ」
それだけ言うと、アリアはブラッドムーンを振り抜き、羽衣璃の体を上空に放った。
空中に投げ出された羽衣璃は、何もできないまま重力に従い落下する。
「第二拘束解除」
主の声を受け、鎧の胴体にある巨大な〈顎〉が展開。落下してくる獲物を待ち受ける。
「やめろ――!」
顎が閉じ、血が噴き出す。食われた。そう認識した瞬間、羽衣璃の意識は断絶した。




