想いと拳と
拳の応酬が続く。
決闘は、ディアを装着したことで勝負の体裁を取り戻していた。
羽衣璃の拳がキルの鳩尾に沈む。
「……ッ」
キルは表情を歪めるが、羽衣璃の腕を掴み、自分の体ごとその腕を360度捻った。
「ガッ――!」
鎧の隙間から血が噴き出すが、腕が千切れる前にキルの頭部を掴むと、腕から引き剥がし、瓦礫にキルの顔面を何度も叩き付けた。
キルは叩き付けられる一瞬の隙を突いて、再び腕を取り一本背負いで羽衣璃を投げつける。
起き上がろうとする羽衣璃に馬乗りになり、キルはその首を両手で締め上げた。
「どうして……そこまで鎧の魔剣を守ろうとするの。私のこと、嫌いなの……?」
「嫌いになるわけ、ないじゃ、ないですか……! キルのこと、大好き、です!」
「羽衣璃……」
キルの拘束が僅かに緩んだ
「ディアと同じくらいに!」
ゴキリ。
首の骨が折れる音と共に、羽衣璃の腕から力が抜けた。
羽衣璃の意識が僅かに断絶し、すぐに浮上。
首を修復しながら体勢を入れ替え、マウントポジションで拳の雨を降らせた。
「なんで! そこで! 首折るんです!?」
「それは、こっちの台詞……! なんで、私と魔剣が同じレベルの好感度なの……!?」
次々と上下を入れ替えながら、二人は言葉と拳で殴り合った。
「両方高いんですよ!」
「全然良くない! 私には羽衣璃だけなのに……! どうして鎧の魔剣に……!」
「命の恩人だからです!」
「だからって、納得できない……!」
「ディアが来てくれてから、寂しくなくなったんです! 家で一人でいることはとってもとっても……寂しかったんですよ! それをディアが癒やしてくれたんです!」
「寂しいなら、私に言ってくれれば……!」
「言えるわけないでしょう!? 家族が仕事でいなくて寂しいって!? キルに!? どんなイヤミですかそれは!」
「私は気にしなかったのに……! 羽衣璃はいつも、変な遠慮ばかり……!」
「遠慮して悪いか!」
「悪い! なら、私がいつも側にいる……そうすれば、鎧の魔剣はいらなくなる!」
「もう手遅れですよ! ディア放り出してハイ元通りなんて、納得できるはずないです!」
「羽衣璃は、私より鎧の魔剣を選ぶの!?」
「選ぶとか選ばないとかそう言うんじゃないんですよ! 私はディアとキル、二人がいるのがいいんです! 三人で仲良くやってけばいいじゃないですか!」
「そんなこと、出来るわけない……!」
「いいじゃないですか! あの家で三人で過ごすか二人で過ごすか、そんなの誤差の範囲内でしょ! 四捨五入すりゃ両方ゼロです!」
「私は……私は羽衣璃だけいればいいのに……!」
「私は色々欲しいんですよ! 何一つ取りこぼしたくないんです!」
たった一つのものを全力で守り抜くなんて、そんな殊勝なことはできない。だからこそ、全て守る。強欲だろうと絵空事だろうと、関係無い。
「それを邪魔するって言うのなら……相手が誰であろうとぶっ潰します!」
世界に宣戦布告するように叫び、羽衣璃は覆い被さるキルを殴り飛ばした。
距離を取り、両者は互いを睨む。互いに満身創痍であった。
キルのアバターが纏うアーマーは所々破損し、体にも無数の傷ができている。
羽衣璃も同様で、鎧は所々へこみ、内部の羽衣璃の体は再生こそしているが、人間であれ軽く十回は死んでいただろう。
両者は、拳を握り締めた。これが最後の一撃となるかは分からない。
だが、今の自分に出せる渾身の力を拳に込めた。
打撃音と言葉が乱舞した後の僅かな静寂。その後、両者共に地面を蹴った。
自分の思いを拳に乗せて、相手に叩き付けんとした。
羽衣璃はキルを見ていた。
キルは羽衣璃を見ていた。
極限の集中――だからこそ、気が付かなかった。
「――!? 二人とも、今すぐ戦いを――」
ディアがいち早く気付いたが、遅かった。
背後から飛来した杭が、キルの胸を貫く。
突如姿を現した冒険者が、フルスイングしたハンマーで羽衣璃を吹き飛ばす。
さらに魔法使いと覚しき冒険者が杖をかざし、無数の瓦礫が羽衣璃の体に纏わり付き、拘束していく。
「キル……!」
手を伸ばそうとするが、次々と集まる瓦礫の重さに、羽衣璃は起き上がれない。
視界が塞がる瞬間、生身の人間に戻ったキルが倒れるのが見えた。




