約束を果たすとき
伊澄は、そのまま腕を彼女の背中に回した。
触れれば思い出されるのは、子供の頃の辛い記憶ばかりだった。
流れ込む、と言った方が正しいかもしれない。
まるで、一本の映画を観るように思い出を再生していく。
まるで走馬灯みたいだ、と伊澄はただ流れていく映像を見ていた。
「ねぇ、全部覚えてる? ………………私たち、すごい頑張ったよね」
「…………そうだね」
そう、頑張った。誰に認められるずとも、自分なりに頑張って……壊れてしまった。
そう答えると、彼女も少しだけ顔を歪めた。
「だから、もういいよね」
ね? と首をかしげて可愛らしく問いかけてくる姿に、伊澄もうなづきで答えた。
「これでおしまい」
伊澄が強く抱きしめると、小さな手が答えるように一層強く締まる。
その瞬間、足元から湧き出たのは黒い霧。それがだんだんと形を成し、伊澄を覆い隠す。
まるで、内側に引きこもるように。
(ああ、これは私を守る殻だったのか)
「イスミッ……………………!」
覆い尽くされていく視界を見ていた伊澄に、聞きたかった声がした。
それは、伊澄たちを終わらせてくれる存在だ。
「アルス…………」
「イスミ、こんな所で終わるつもりか!!」
叫んだアルスは肩を大きく震わせながらこちらへやってきた。
どうやら、走ってきたらしく息が乱れている。
「俺との約束はどうした、セリオスのことはいいのか!」
厳かな雰囲気の聖堂に似つかわしくない、アルスの怒号が響いた。
その声に、ふるりと伊澄の体は震えた。
「気づいちゃった、から。セリオスに何かをしたとしても……静かに眠れないって……。だけど今、子のこと一緒にいるから……静かに眠れるよ……」
伊澄の未練は、死んでなお意識があることじゃない。
本当にあったのは、愛されたかった、それだけだ。
でも、それは叶わない。もう、戻れないから。その未練を断ち切るには、誰にも愛されないともう一度思い知って諦めるしかない。
それが出来る唯一の人が、アルスなのだ。
伊澄が好きになった、アルスにしか出来ない。
「だからさ、ここで終わりにしてよ。約束を、果たして」
いつも読んでくださりありがとうございます!
ブックマーク等嬉しいです!
今までで一番ブックマークを多く貰える作品になりました。
本当にありがたいです。
もう少しでこの物語は終わります。
引き続きよろしくお願いします。




