やっと来てくれた
全て伊澄の、伊澄が生み出した未練の力なのだろう。
余りの強大さに、伊澄は深いため息をついた。
「これから行くから……待ってなさいね……」
廃墟とかしているセントロの街の中を、伊澄は走り出した。
どうやら街の中心にある建物に近づけば近づくほど、風は強くなり目を開けていられなくなる。
それに、身体中が猛烈に痛かった。
黒いアザはほぼ全身に広がりを見せる。
(時間が…………ない)
あとどれ位、この痛みに耐えられるだろう。
残された時間がそう多くはないことは分かっていた。
だから、この体が、心が耐えられなくなるその時が来る前に、たどり着かなくてはならない。
耳の奥で、心臓がうるさいほどに脈打っている。耳鳴りなのか暴風の音なのか、判別がつかなくなってきた頃、伊澄はセントロの街の中心にたどり着いた。
一際大きな建物は古いの聖堂だ。
白かったであろう壁は、長い年月を過ごした証として黄白色に変わっている。
細かな細工が施された荘厳な佇まいは、見るものを圧倒した。
「これが、セリオスが待つ場所……?」
見上げた聖堂は、かなり大きく威圧的に見えた。
(足がすくむなんて…………)
この先は、終わりしかない。
望んでいた終わりのために……ここまで来た。
「ちゃんと来て、くれるかな」
今更、アルスに会って交わす言葉なんてありはしない。あるのは約束だけだ。
それだけを胸に、伊澄は聖堂の重厚な扉に両手をかけた。
開くと、嵐は嘘のように静寂に包まれていた。
陽の光が差し込んだように、あたりに眩い光が溢れている。
しかし、違和感は確かにあった。
聖堂の一番奥、神父が立ち人々に語りかけるであろうその場所にそれはいた。
黒い霧をまとったかのような、今この惨状を作り出している元凶。
「待たせたわね……」
大理石なのだろうか、一片の埃もなく磨き上げられた床を歩く。
一歩一歩、ゆっくりと。
「………………」
それは何も言わず、伊澄を見つめているような気がした。
深淵をのぞく時、また深淵もこちらを覗いている、そんな言葉を思い出した。
確かに、と伊澄は思う。
これは私で、私はこれなのだ。鏡合わせのように二人でひとつ。
とうとう伊澄はそれの目の前に立ち、対峙した。
覚悟を決めて、震える手を無理やり抑えながらそれに触れる。
「やっと、来てくれた。私のこと、思い出してくれた?」
その声はどこまでも幼くて、どこまでも無邪気だった。




