嵐の中
一人セントロへ続く道を歩いていた。
振り返らなくても、アルスの気配はとっくになくただ独りなんだと気づいていた。
それに比例するように、痣が強く痛む。
ふと視線を下ろした胸元は、真っ黒に染まっていた。
もし、これが全身に広がったらどうなるのだろう。
想像して、震えた。
伊澄の望む終わりが来ないことを意味していたから。
「それだけは絶対に嫌。私は、アルスに終わらせてもらいたい」
死んだ自分が、どう消えるかなんて分からないが未練が無くなったらいいのだろう。
だったら、アルスにきっぱりお前が憎い、とでも面と言われたらそれでいい気がした。
結局のところ、自分は誰かに選んで貰えないのだと突きつけられればそれでいい。
それなら全ての未練を断ち切れる。
自分を捨て去るくらいに。
伊澄の中で確信めいたものが生まれる。
自分自身が嫌になるが、ここまで来て自分を消す方法は思いつかない。
自分が存在することに縋り付いているような、死してなおと言う醜くいまでもあり続ける自分が嫌になる。
「アルスに頼らざるを得ないけど…………お願い、約束守ってくれるって信じてるから…………」
ぽつり、とアルスに届かない声で伊澄は呟いた。
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土の道と石畳の境界線の前で伊澄は立ち止まる。
目の前には白亜の街が広がる。
広大な大地と街を隔てる門は、爆破されたように破壊され木っ端微塵と化していた。
門を護る兵が居たのだろうか、研ぎ澄まされた矢が付いている槍が無造作に落ちている。
しかし、それも二つに折られていた。
人っ子一人いない、気配のしない街。
まるでホラー映画のワンシーンのようだ。
死中に赴くとはこういうことなのかもしれない。
「覚悟の上……だよ」
誰に言うでもなく、伊澄は口にすると一歩踏み出した。
びゅっ、と刃のような風が吹き荒れる。
さっきまでは吹いていなかったのに、と伊澄は思った。
「まさか、この境目で世界が変わってる……?」
後ろを振り返ると、さっき伊澄が立っていた大地は驚くほど静かだった。
穏やかな陽だまりさえ見える。
「本当、どうなってるのよ」
聞こえるのは暴風が切る音だけ。
自分の鼓動さえよく聞こえない、まさに嵐の渦中だった。




