最後の願い
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「……どう言う意味で言っているのか、分かってるのか」
アルスの声が強ばったのがすぐに分かった。
けれど、伊澄の心は随分と凪いでいて、穏やかそのものだった。
分かっている、と頷きながら伊澄は口にする。
「アルスが、私のことなんとも思ってないんだって知ってる」
は? とアルスの口から漏れ出た声に、伊澄は微笑みで返す。
あの時、盗み聞きではあったけれどアルスの本心を知ってしまった。
自分を、なんとも思っていないこと。
人間とすら、思いたくもないと言う言葉。
それはアルスの憎むべき対象ですら無いということに他ならない。
眼中にすら入れてもらいないならば、伊澄の存在とはなんだろう。
そう考えてひとつ導き出したのは、約束の為だけに伊澄の隣にいるただそれだけなのだろうと思ったのだ。
騎士であり、それこそ人間より律儀で礼儀正しいアルスは一度交わした約束を反故にするなんて真似はしないだろう。
伊澄は短い付き合いの中でそう感じていた。
だからこそ、今一緒にいるのは伊澄を思っている訳ではなく、約束を破らないためだと思ったのだ。
(だから、早く解放してあげなければいけない)
こんな、欠陥だらけの人間以下の伊澄の傍ではなくもっとふさわしい場所があるから。
約束を果たし、アルスが望むべき場所へ行けるように。
「…………本気で、本気で言ってるのか! 俺が、何を思っているのかなんて…………!」
「知ってるよ、人間だって思ってないんでしょ」
声を荒らげるアルスに相反するように、伊澄はどこまでも冷静だった。
冷たくも聞こえる伊澄の声に、アルスは逆にたじろいだようだった。
「……それ、聞いてたのか…………!」
唖然としたように、アルスは唇をかみしめて俯く。
真っ直ぐ見つめられていたアルスの瞳が、初めて伊澄から逸らされた気がした。
これでいい、と伊澄は内心安心してしまった。
このままアルスに真っ直ぐに見つめられたら、何か期待してしまいそうだったのだ。
逸らされたということは、何かやましい気持ちがあったに違いないと伊澄は確信を得たように自分に言い聞かせる。
(これでいい。これでいいんだ)
これも未練かもしれない、と伊澄はアルスに背を向けて歩き出した。
背後にアルスの気配を置き去りにしたまま。
「一人でも、大丈夫……」
きっと全て終わったあと、最期にアルスに───。
終わらせてもらえる、そう信じて。




