残された時間
教会の扉は静かに重く閉じられた。
伊澄が見上げた空は青く澄んでいた。雲ひとつない、空。
その時だった。
瓦礫の山の向こうから、血相を変えて走ってくる一人の青年がいた。
瓦礫を片付けていたせいか、所々泥汚れが着いており額には玉のような汗をかいている。
青年は伊澄たちには見向きもせず、教会の扉を開け放った。
「し、司祭様、大変です! セ、セントロが襲撃されました…………!」
「な、に!?!?」
慌てふためく二人を、伊澄は外からぼんやりも見つめていた。
要約すると、どうやら襲いかかったのはあの黒い者と言うことらしい。
「どうする、イスミ」
「行くわ、セントロに。全部の決着をつけに行きましょう」
踵を返し、伊澄は歩き出した。
セントロが襲撃されていると言う噂は、住民の間に衝撃をもたらしたようだった。
町の復旧が止まってしまうくらいには。
確かにみんなが信じているセリオスのいる場所が、破壊されていると知ったら戸惑うのも仕方の無いことのように思えた。
右往左往と動揺する住民たちを横目に、伊澄たちは町を後にした。
セントロへは真っ直ぐ一本道が伸びているから迷わない。
それに今は……行く先の空は黒い雲が広がっていた。
嵐のような空がセントロ方向にだけ広がっている。文字通り、嵐の中のようだった。
「あれは、なんだ……」
独り言のように呟いたアルスは、足を止めて空を見ていた。
伊澄もゆっくりと足を止め、行くべき道の空を見つめる。
「恐らく…………私の、未練があそこにいるの」
セントロに近づくにつれて、腕が痛みを訴えていた。
まるで心臓が呼応するように、こちらへ来いと言うようだった。
「イスミ、その腕…………!」
隠さずだらりと下ろしていた腕を、アルスは驚いたように手に取る。
伊澄の腕の痣は、どんどん広がりを見せ肩口まで広がっていた。
「何時からだ…………!」
「少し前から、かな……街を出る前はこんなんじゃなかったんだけど」
「なんで……なんで早く言わなかったんだ!」
しれっと答える伊澄に、アルスは怒ったように言う。
けれど何故アルスが怒っているのか、まるで伊澄には検討がつかなかった。
「別に問題ないから」
そう、問題なかった。
痛かろうと、なんだろうともう少し体が持てばいい。




