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君なら、そうすると思ったよ


「ふーん、まぁ、アルスならそうよね」


セリオスはどうってことは無い、というようにそう言った。

伊澄の近くにいた気配は、すっと遠ざかり、息ができる気がした。


徐々に自身の体から、力が抜けていくのが分かる。

何が、一発お見舞いするだ、こんなになったら、出来るはずがない。


(次は、無いんだから…………!)


精一杯、伊澄は心の中で悪態をつきながら長い息を吐いた。

恥ずかしいやら、自分が情けないやらでまだ顔をあげることが出来ない。


口を噤んだ伊澄に代わるように、アルスが口を開いた。


「当たり前だろう。イスミを守るためにな」


さらりとアルスは言ってのける。こう、恥ずかしさはないのか、と伊澄は思ったがきっとアルスにとって深い意味なんてないのだろう。

ただただ見ていられなかっだけだ、と考えを改める。


こんなに面倒くさく考えているのは自分だけ。

きっと、こんなことを考えているのは自分だけなのだ。


(ばっかじゃないの……)


そう思うと、伊澄の心に冷静さが帰ってくる。

誰が好き好んで私の事なんか──。


「そうよ、私なんか」


「…………? なんか言ったか?」


「いや、なんでもない。大丈夫、離れて」


アルスの顔が近くにあったことを忘れていた。セリオスに庇われたままだと言うことを思い出して、伊澄はゆっくり離れた。


名残惜しそうにアルスはその手を最後まで話そうとはしなかったが、やがて諦めたように腕を下ろした。


(そんな目で見ても、ダメだからね)


勘違いするな、と伊澄はアルスの目を見ることはなかった。

優しげに揺れるその目を見続けたら、そらせなくなる気がしたから。


「ねえ、セリオスはあれをどうにかして欲しいのよね」


「うーん、当たらずとも遠からずって感じかなぁ」


全てを振り払いながら、伊澄はセリオスと再び言葉を交わす。


「別にこのまま君がここに居てもいいんだよ? 行くべき所へ行くのも、留まるのも君次第」


に、と口元を歪めセリオスは笑う。

伊澄を試すように、品定めするように笑う彼はどこか楽しげて、どこか悲しそうだった。


「僕は、見守ることしか出来ないよ。手出しは無用だから。ただ──」


す、と視線横に移しセリオスはアルスを見た。伊澄を見ていた時に宿っていた感情とは別の、覚悟を持ったような真剣な眼差しだった。


「アルスは選ばなくては行けないよ。君は、もう……」


「それ以上は言うな」


珍しくアルスの硬い声が響いた。

神様であるセリオスに物怖じせず、バッサリと切り捨てるような佇まいにセリオスは肩をすくめる。


「そう怒らないでよ。君にチャンスをあげようとしただけじゃないか。君の世界に戻るチャンスをさ」


セリオスの言葉を、伊澄は聞き逃さなかった。


「世界に、戻る…………? まさか、戻れるの……? 待って、私もアルスも死んでここに来たのよね……?」


この世界に初めてきた時、セリオスにそう言われたのを思い出す。


──君は死んだんだよ、保証する。


──もう、戻れないよ。


今でも覚えている、セリオスの声。

あれは、嘘だったのか……?


「あー、あれね。嘘じゃないし、本当でも無いよ」


「はぁ!? 何言って……」


「君たちは確かに死んだ、死なないとここに来れないから。でも君たちは死んだ時、何かを抱えてここへ来る。でもそれじゃあ、君たちの世界に」


セリオスはそこまで言い終えて、ひとつ呼吸を置いた。

まるで、それを告げるのを惜しむように。


「重すぎて、かえれないし、かわれない」



悲しさも、愛おしさも、何より哀れみも含んでいるその声が。その言葉に、セリオスの全てが詰まっている気がした。



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