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やっぱり、嫌いだ


「君たちに忠告するよ? 伊澄とセリオスを殺してはならない。殺してしまったら、あれはもう誰にも止められないよ」


セリオスが口にした、あれとは恐らくこの町を襲った黒い球体のことだろうと伊澄は察した。

伊澄も薄々気づいている。あの存在は、どこか自分となんらかの繋がりがあるのでは無いか、と。


「また襲われたくなかったら、この二人、特に彼女には手を貸してあげて」


(やっぱりな)


それはセリオスの言葉で、確信に変わる。

あれは何なのかを知ることは、怖かった。

怖いけど、怖がってるばかりでは何も解決しないことは分かっていた。


暗に、関係が深いと言われたようなものだと伊澄は直感する。


(私が、何とかしなければいけないもの)


伊澄はセリオスを真っ直ぐ見据えた。

その視線を感じたのか、セリオスも伊澄を真っ直ぐ見つめる。


終始、何を考えているのか全くわからなかった。

でも、そんなことはどうでもいい。


セリオス、と伊澄は神様に呼びかける。

この世界の、ルールに。


「あれは、私にどうにか出来るものなのよね?」


「そうだよ、むしろイスミにしか扱えない代物だよ?」


それがどうかしたのか、と言いたげにセリオスは首を傾げる。

わざとらしくて、白々しいのが憎い。


(それに……)


「あれを、私にどうしてほしいの」


セリオスの目が、珍しく雄弁に語っている気がしたのだ。

逸らされることが無い目が、伊澄に対しては柔らかいような、冷たいような、何かを感じ取ってくれ、とでも言っている気がした。


所謂、女の勘と言うやつかもしれない。

セリオスは、伊澄にあの黒いものをどうにかして欲しい、のだと。


「……ふふふ、あはは! そうだね、あれは君にしかどうにか出来ない。その意味を考えるといい」


さも伊澄の言葉に嬉しそうに笑うセリオスが、初めて本当に笑っている気がした。

心底嬉しい、とでも言うように声を上げて笑っている。


ぱちぱち、と拍手をしながら宙を滑るように伊澄に近づき耳元に唇を寄せた。


(まさか……き…………)


伊澄は反射的に目をつぶる。

ふわり、と花のようなセリオスの匂いが鼻を擽る。


それくらいに近くて、伊澄はただ身を縮こませた。


「君は、気づくべきだよ。君の、君自身の欲に、ね」


「えっ…………?」


「やだな、キスでもすると思った? もしかして、期待した?」


「なっ………………!」


一瞬にしてからかわれたのだと気づいた。人をおちょくって、心をかき乱すのが好きな神様だったのを伊澄は忘れていた。


水が一瞬で沸くように、伊澄の顔に熱が集まる。そんな想像をしていただなんて、思われたくないし、そんな自分が嫌になる。


あるはずない、そんなこと、あるはずない!!

奥歯をぎりり、と噛み締めて赤くなっているであろう顔を見られたくなくて俯く。


「あれー? どうしたのかな」


顔を覗かれる、と伊澄はセリオスから顔を背けた。


──その時だった。


「…………そこまでに、してくれますか」


「あらま……」


視界が急に暗くなって、静かな夜みたいに静かな声が降ってくる。

何が起こっているのか分からなくて、身を固くするしかなくて、伊澄はじっとしていた。


ばくばく、と心臓の音がうるさくて、仕方がなかった。







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