別に、そんなんじゃない
「そうだな、それなら、君を僕は起こさないといけないね」
造作もない、と言いたげに地上に舞い降りたセリオスはアルスを見下すように顔を覗き込む。
先程の豪雨のせいで、全身濡れているアルスの頬にそっと触れる。
同じようにびしょ濡れの伊澄は、セリオスを守ろうと手を伸ばす。
セリオスは信用出来ない。
起こすって、何をするつもりなのだと嫌な予感がしたのだ。
「僕に触れると、アルスはずっとこのままだよ?」
まるで伊澄の行動を予想していたかのように、セリオスは言い放つ。
一切、伊澄に目もくれずアルスを見たまま。
(私のこと、眼中に無いみたい)
興味ない、と言ったほうが正しいだろうか。
自分のしたいことを邪魔された、それだけがセリオスにとって不都合だ、と不快感を顕にされたのだと思い知らされる。
(ここに連れてきたのは、セリオスでしょ)
下唇をぐっと噛み締める。
ここに居るのは伊澄の望みじゃない。セリオスの望みだと思っている伊澄は、心の中の怒りに火がついた。
「何よ、その態度。不愉快だわ」
伊澄だって、不愉快だとセリオスにぶつけると、やっとセリオスは伊澄を見た。
燃えるように怒る伊澄とは正反対に、セリオスは涼しい顔をしていた。
自分は神様だから、高を括っているのだろうか。人間、小娘ごときに、何ができる、と。
(本当にムカつくわ)
人のことをなんだと思ってるんだろう。
人間だって、私だって一矢報いてやる事は出来ると伊澄は決意する。
(今ここで……!)
伊澄は平静を装って、セリオスを見つめる。
ただ、セリオスは幼い顔で口角だけを上げた笑みを称えていた。
神様の余裕、というやつだろうか。
「君はダメだねぇ、どんどん毒が溜まってる。このままだと破滅するよ」
セリオスは伊澄にそう告げた。
言葉の内容を理解するのに、伊澄は少し時間がかかった。
(毒? 破滅?)
よく分からない。セリオスの言っていることが、理解できない。
言葉の意味は理解できても、真意が読み取れない。
まるで伊澄には理解出来ているのが前提かのような言葉を吐くから。
「だけど、彼は違うね。全部、振り切ったみたいだ」
ほら起きなよ、とセリオスはアルスの肩をとん、と叩いた。
何気ないその動作では、アルスは起きないと伊澄は思ったのに。
ふるりとアルスの長いまつ毛が揺れて、金色の瞳が姿を表す。
何が起こったのか分からなかった。
アルスも同じようで、ここがどこなのか、まるで分かっていないように困惑の表情を浮かべている。
少し呆けたアルスは辺りを見回すと、ぎょっとしたように目を見開く。
それもそうだろう。自分がずぶ濡れで、辺りには民衆が群がり、足元には燃えかすとはいえ炭になった木々が散らばっているのだから。
何かを悟ったらしいアルスは、がばりと体を起こして近寄ってきた。
「怪我、してないか」
ほかのことも気になるだろうに、眼中に無いと言いたげに詰め寄ってくる。
「怪我してるのは、自分でしょ……!?」
思わず伊澄は、言わずには居られなかった。
怪我をして、意識を失って今まで目を覚まさなかったのに、目覚めて開口一番が他人の心配?
「あのねぇ、もっと自分を大切にしてよ!」
アルスの厚い胸板を伊澄は叩く。ひ弱な伊澄の力ではうんともすんとも言わない鍛えられた体が、ぴくりと震えた。
「ごめん、心配してくれたんだな」
すまない、とアルスは胸板を叩き続ける伊澄の頭を撫でた。
それで絆されるほど甘くは無いとは思ったが、存外安心してしまう自分に伊澄は驚いた。
「別に、そんなんじゃない」
冷たい言葉で引き離しながら、伊澄はアルスから離れる。
明けましておめでとうございます。
やっとこさ、今年初めての更新です。日常がだんだん動き出してますね。
私も気合い入れて頑張ります。




