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それはひとつの絵画ようで



「本当に、君は、君って人はおかしな人だねぇ」


くすくす、と耳元で誰かの声がした。

その誰かが、伊澄にはすぐ分かった。一度しか聞いたことがないのに、すぐ分かったのは、ずっと会いたくて仕方がなかった相手だったからだろう。


恋とか愛ではない、憎悪の相手として。


「セリオス……!」


炎に巻かれながら、伊澄は叫んだ。

肺に煙と熱が入り込むのを厭わず、天を仰ぐ。


視線をあげた空中で、強い光を背に浴びその神は悠々と浮いていた。

人々を見下ろすかのごとく、優雅に存在する姿に誰も外気を飲んだ。


伊澄を除いて。


「あらら、大変な状況だなぁ。よし、神の気まぐれとして、伊澄を助けてあげるよ」


無邪気かつ楽しそうに、セリオスはその場で右手を掲げた。

開いた手で何かを混ぜるかのように、ゆっくりと回す。


すると、辺りにわずかばかりに風が吹いた。初めは何ともないささやかなものが、段々と強く吹き始める。


そのせいで炎の勢いが増した。

伊澄はげほげほと、むせながら涙の滲む目でセリオスを睨みつける。


(助けに来たのか、そうじゃないのかハッキリしなさいよね!?)


薄い酸素のせいで、それは声になることは無かった。

ただ、セリオスには伝わったらしく、伊澄を見下げたままバツが悪そうに頬を掻いた。


「あー……ごめん。直ぐに、その火を消すからさちょっと待って」


ほら、と言うセリオスの言葉が合図のようだった。

ぽつり、と伊澄の頬に何かが伝った。


徐々に青空は失われ、灰色の雲に覆われた空から雨粒が落ちてきたのだと伊澄は気づいた。

雨足は次第に強くなり、これでもかと言わんばかりに雷が轟き始めた。

音をかき消すほどの轟音と、雷の光に人間は圧倒されるしか無かった。


あっという間に伊澄とアルスを燃やそうとしていた炎は消え去る。


「もういいかなー?」


と同時に、あれだけの豪雨と雷はセリオスの気の抜けた声を待っていたかのように霧散した。

途端に空には綺麗な虹が架かった。


人には出来ない所業を、セリオスはその右手だけで巻き起こしたようだった。

信じられないのは伊澄も一緒だったが、それは今はどうでもいい。


ここで会えたなら、伊澄のたった一つの願いが叶う。

その為には、ここに降りて来てもらわなければならない。


(本当、手が届かないのが腹が立つ)


もし空が飛べたなら、セリオスの近くに行けたなら、一発ぐらい、いやそれ以上にお見舞い出来ただろうに。


あまりの悔しさに、両手を握りしめる。

だが、伊澄はそれを隠してセリオスを見上げた。悟られてはいけない。


相手は神だ。どんな手を持っているか分からない。

ここは慎重に、相手の出方を伺うべきだろう。


「大丈夫かい、伊澄。久しぶりだね」


神であるセリオスは、初めて出会った時と変わらず幼い姿をしていた。

相変わらず人をおちょくるような、余裕のある表情で伊澄の前に降りてきた。


(まだ、だめだ。もう少し……)


手が届きそうな届かなそうな絶妙な位置。

焦るな、焦るな、と伊澄は自分自身の心に言い聞かせながら、前髪から滴る雫を払うように顔を手で拭いた。


よく見えなければ、成功するものも成功しない。

ぐ、と生唾を泉は飲み込みながらセリオスと対峙していた。


そんな伊澄を知ってか知らずか、セリオスは口元にほほえみを称えて、未だ意識を失ったままのアルスに目を向けた。


「ふーん……。彼、なんだかんだ言って毒を失ってるみたいだね」


へぇ、とセリオスは感心したように頷き、アルスの元に舞い降りる。

それは、天使が地上にやってきたみたいだった。どこかで見た、絵画のように。



なかなか更新出来ずすみません。


大晦日には絶対更新する! と決めてなんとか更新できました。

本日、2025年の書き納めをしました。

2025年に出会ったたくさんの方、読んでくださった全ての方に感謝致しております。


2026年もどうぞよろしくお願いします!

では良いお年を!

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