嫌な予感
町の中でも比較的被害が少なかった場所のようで、周りの建物もそのまま残っている場所に案内される。
伊澄がたどり着いたのは、破壊された町の中にぽつんと建つ小さな納屋だった。
中に入ると農機具や藁が所狭しと押し込められている。到底人が住めるような場所じゃなかった。
「ちょっと、これ…………!」
文句を言おうと振り返るが、無理矢理背中を押され押し込められる。
よろめく足を踏ん張る最中、ばたん、と扉が閉じられてすぐ、かちゃん、と鍵が掛かる音がした。
「閉じ込められたな。隔離、したかったんだろう」
息も絶え絶えに、アルスが言った。
確かに、と伊澄は思う。誰も彼もが伊澄たちを信じてない。町をうろつかれるのを嫌い、ならば隔離するしかないと決断したのだと想像するに固くない。
「だからって……こんな場所……」
「いや、これでいい。お互い干渉しないで済む。今は……休みたい」
もっと他にいい場所があったのでは、と伊澄は愚痴りそうになる。
けれど、その言葉を飲み込んだ。
それは、アルスの顔色が真っ青だったのだ。貧血、だろう。肩口の血は既に赤黒く、酸化しているのが分かった。
(自分の不満を言うより、今はアルスを寝かせてあげなきゃ)
ぐ、と唇をかみしめて改めて納屋を見回す。農耕具の他に、長年放置されていたであろう布団が放置されている。
これだ、と思いアルスを座らせ壁に寄りかからせてた。
「待ってて、横になれるようにするから」
贅沢は言っていられない。伊澄は辺りを見回すと農作業用の手袋を見つけ、すぐに手に嵌めた。
綺麗そうな布団を選んで、アルスの近くに敷く。
ほぼ力の入っていないアルスを横たわらせると、直ぐに目を閉じて寝息が聞こえていた。
あまりにも小さくて、伊澄は耳を寄せる。
(大丈夫、生きてる)
やっとの事で、伊澄も肩の力を抜くことが出来た。
ふぅと長い長い溜め息を吐くと天を仰ぎながら目を閉じる。
(そういえば、素手でアルスに触っても……大丈夫だったな)
目を開き、手袋を外す。ゆっくりと自分の手のひらを見つめる。常人とは何も変わらないその手に宿ったこの力は、アルスには効かなかった。
伊澄はその辺に散らばる藁を無造作に握りしめると、一瞬にして腐り朽ちていく。
力が無くなった訳ではないことは確かだった。
(アルスには、効かないってことなの…?)
なぜかは分からないし、検討もつかない。
けれど、伊澄の力はアルスには効かないことは確かだった。
(私が触っても大丈夫な人がいるんだ……)
また、触れてもいいだろうか。
深い眠りについているアルスの手に、ゆっくりと触れた。
アルスの手は当たり前だけど男の手だった。
自分の手よりも固く、大きい手。
何も変わらない、ただあるだけのその手が。
伊澄はそれがただ、単純に嬉しかった。
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耳を擽るような鳥の声で、伊澄は不意に身を覚ました。
まだ眠気に引きずり込まれそうな、重いまぶたを開き、はっとしてアルスの方を見た。
「顔色……良さそう」
眠る前より幾分、頬に赤みが差している。
そのことに、伊澄はホッと胸を撫で下ろした。
「ゆっくり、休んでてね」
アルスを起こさないように、そっと体を起こしひとつ伸びをする。
やっぱり、寝慣れないところで寝たからだろう、体の節々が痛い。
あちこち骨が鳴るのを感じながら、伊澄は何気なく納屋の窓を開けた。
恐らく、ここからは逃げられないだろう、と言う判断したのだろう。
人が一人通れない幅の小さな窓には鍵がかかってはいなかった。
それでも、外の様子を伺うには十分な窓から外を覗くとどこからともなく、呪文のような低く唸るような声が聞こえてくる。
そして、鼻につく焦げ臭い煙の匂い。
伊澄はなんだか嫌な予感がして、胸の奥がざわつき自分自身を抱きしめた。
いつも読んでくださりありがとうございます。
ノロノロ更新ですが、少しづつ書いていますのでよろしくお願いいたします!




