14
ザアッと風が吹いた。
じっとりと湿気を帯びた暑さには心地良い風のはずなのに、やけに空虚に感じる。
乾いた咥内がなにか言おうとして開き、しかし話す言葉が見つからずに、口ごもる。
「ヤタエ医師によると、老衰でしょう、とのことです。ロベルから、手紙を預かっていました」
ここで紙は貴重だ。
地面で読み書きを教えるし、紙を使う場合はよっぽど書き記さなければならないものが基本だ。例えばヤタエ医師による薬品精製や研究資料などである。
それなのに、手紙を書くということは、……ロベルのオッチャンは自らの死期を悟ったのだろう。
「どうぞ」
ロベルの遺書は、豪快なオッチャンらしくなく流麗な文字で綴られていた。
そういえば超弩級のエリート貴族だったな、と思い、ぼた、と涙が溢れた。ただでさえ俺からはフィルターが二重になるように見えるから読みにくいのに、泣いてしまっては余計読めない。
袖で餓鬼みたいに涙をぬぐった。
鼻水を啜りながら、オッチャンの手紙が汚れないように何度も目を擦ったが、簡単には止まってくれなかった。
泣くなよとか、ありがとうな、とか、そんな、あったかい言葉ばかりだった。どうしてか、息子みたいに思ってたとも書いていて、俺は堪らなく胸が熱くなった。
俺だって、ロベルのオッチャンを親父みたいに思ってた。
「墓を案内しますね。……うちで初めての墓所です」
「……うん」
ロベルのオッチャンの墓は、村の端に位置した。果樹園に囲まれた土地で、火葬の後に埋葬されたらしい。
この辺でも珍しい、白い石に、ロベル・ロッケンタイガーと刻まれていて、これがロベルのオッチャンの墓碑なのだとわかった。
どうしても胸が痛む。
見ない振りをしていた獣人たちとの時間のズレが、俺の胸を締め付けては息を吸いにくくしていった。
土なのも気にする余裕もなく、その場に座り込んだ。内蔵からひねり出すように嗚咽が漏れ、しゃくりあげる。鼻がツンと傷み、どうしようもないほどの悲しさに溺れる。
苦しくて苦しくて、オッチャンの墓碑に踞りながらワンワン泣いた。
子どもみたいに泣きじゃくっていると、ドスッとすぐ近くに矢が刺さった。
もう一度記そう。近くに、矢が、刺さった。
「え」
……ええええええ! 矢!? 矢!? なんで矢!?
「あ、え……?」
矢になにか巻き付いている。映画かなにかで見たような、伝令的なやつが。
「…………」
マイクは空気を読んで家に帰ってしまったので、いまここにいるのは俺1人である。
いやどうしよ、と考えあぐねていたが、ジリッと近づき、矢に触れた。
ちょいちょい、とつついてから紙に触れ、その紙に既視感を覚えて眉をひそめた。
あれ……?
この紙、いつだったか、俺がハマンの街で売った千代紙だ。
「……えええ~?」
泣かないでほしい。愛している。ーーアラン。
開いた千代紙に書かれた文字に、俺はロベルのオッチャンへの想いとか悲しみとかなんかいろいろなものが一気にブッ飛んだ。
バッと顔を上げて恐る恐る塀の向こうを覗き込む。そんなに目が良いわけではないので分かりにくいが、アランたちが籠城戦のときに建造したらしい高い棟の上に、青い頭髪が小さく小さく見えた。
手をブンブンと振られ、ビビりすぎた俺は縦にピョンと飛んだ。
「マ、ママママ、マイクゥ~~~!」
三十六計逃げるに如かずとばかりに俺は情けない声をあげてマイクの元に走った。
マイクには見覚えの無いものに触らないようにと叱られ、手紙に毒があるかもしれないからと取り上げられて燃やされた。ぴえん。




