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鼻をほじりながら自治区にしとけば勝手に滅ぶと思って放置していた国の予想に反し、長期の猛攻にも耐え抜き、とうとう向こうが白旗を上げたほどの堅牢さにさぞや驚いたことだろう。王宮では文官たちが蜂の巣をつついたかのような大騒ぎを起こしているのは間違いないと、かつて王宮の玉座に程近いところで政治に関わっていたロベルのオッチャンは薄く嗤った。
助けを求めた結果、国が自治区として認めた挙げ句、この周辺の領主たちにも通達したと手紙を寄越したのだ。今さら返上は無理がある。
しかも犬族を退けるほどの堅牢さは、皮肉なことにこの国のトップによって大々的に周辺諸国に喧伝されたのであった。
ロベルのオッチャンはこれを狙っていた。
十分に名声が高まった瞬間、閉ざしていた籠城を止めて橋を渡し、外交の扉を開けた。次世代を引き継ぐマイクを引き連れてわざわざ見せつけるように獣体で練り歩いた。虎とヒョウという、この国でも有力な獣人として大腕を振って歩く様は広く噂となった。
昔ならば身分を隠していた為に国に取り締まられる立場であったが、自治区と認められたロベルのオッチャンたちは捕らえる理由に当てはまらなくなった。
堂々と周辺の各領主と通称公約を結び、久しぶりの商人業務を再開したのだった。
「いやあ、儲かりましたね!」
「王宮の馬鹿どもに目にもの見せてやったわ! ざまーみろ! ガーーーッハッハッハッハ!」
ご機嫌な二人に、俺はちょっと引いた。
これじゃあ、まるっきり悪役だ。
***
何はともあれ、冬季休暇中に事が片付いて良かった。
どえらいストーカーに執着されたが、停戦したし、村が国の許可を得て自治区に繰り上がったというのは少なくとも進展したと考えられるだろう。
「それじゃあ、またね。またしばらく来れないから、家にある包丁と砥石を持ってきたけど……」
「平気だから、坊っちゃんはゆっくりしてな。本来は俺たちが頑張んなきゃいけねぇことをいままで坊っちゃんが助けてくれたんだ。坊っちゃんが居なくとも村は十分やっていけるさ。もちろん、坊っちゃんはいつ来ても良いがな!」
「うん! じゃあ、またな!」
明るく力強いロベルのオッチャンに、俺は手を振って島へ戻った。
冬季休暇を終えると、大学ではすでに卒業までの現実が怒涛のように押し寄せてきた。
俺は島の近くの市役所に就職が決定していたが、就活に疲れた大学の友人たちはヒリつくことが多かった。
結婚をこちらでしたいと思っていたが長期休暇は島で過ごし、就活でヒリつく学内ではどうも反りが合わなかったから、友達らしい友達はほんの数人しかいなかった。上昇思考が強い都内の大学生にとって、地方公務員への道を選択した俺はどうも違う人種に見えるらしい。
卒業を迎え、島に移り住むに当たって本格的に出会い系アプリなどで恋人探しをしたが、これも無しのつぶてで、イイ人止まりになってしまった。俺はどうにも下手で、不器用だった。
恋人探しは難航し、結婚相談所にも通ったが、こちらも中々難しく、俺はソロぼっちマスターとなる可能性にメソメソ泣いて枕を濡らした。惚れてくれたアランに申し訳ないくらいモテない。
悲しみにくれて荷物を纏め、とうとう俺は島に移った。
「久し振り、みんな!」
扉を開けた俺を見た皆がパァッと明るく出迎えてくれた。
これこれ! いいもん。彼女が出来なくても! 俺には皆が居るからな!
ニッコニコと皆にお菓子を配っていると、マイクが手を上げて挨拶してくれた。
「お久しぶりです」
「久し振り~! なんか大人になってんなぁ~」
「もうオジサンですよ」
苦笑するマイクが最近二人目の子供が産まれたと教えてくれた。
俺は恋人探しに難航しているというのに、と怨み節を言えば、マイクは笑いながら俺をひょいと持ち上げた。両脇に手を入れられてぶらんぶらん揺らされる。
なんだよこれ、と聞けば、子どもたちはこれで機嫌がなおると言われてイラッと来た。
「坊っちゃんに、伝えなきゃならないことがあるんです」
「……もしかして、アランのこと?」
「いいえ。今もまだ来てますが、それではありません」
来てるのかよ! こええええ! なんでそんなにしつこいんだよ!
ぞわぞわとしたものが腕を這い、ぶるりと身震いする。
腕を擦っていた俺に、マイクは一呼吸おいてから、口を開いた。
「……ロベルが、亡くなりました」
マイクの言葉に、すべての音が消えたような気がした。




