第98話:電撃の奇襲作戦
「キルア、何か良いアドバイスができたかい? 」
キルアが観戦席に戻ると、
シリアがニヤニヤしながら声をかけてきた。
「まぁな。付け焼き刃だが軽い作戦を与えた。
……それはそうとして、なぜ映像録画と送信魔法が展開されている?」
キルアが模擬戦会場を眺めなると、僅かだが魔力の流れが変わっていた。
どうやら隠しカメラのような魔道具を設置しているようだ。
(……やはり、こいつ気づいたか)
シリアの顔が一瞬引きつった。
「いや……せっかくの模擬戦だからね。
今後の研究のためと、故郷の世界に我が兵の元気な姿を
見せてあげたくて魔道具を設置したのだ。……ヒス、ちょっと来なさい」
「はっ」
「あれほど隠密に魔法を隠蔽しろと言っただろ」
「は、3重に隠密魔法を重ねて隠蔽いたしました。
普通ならば見破られるはずがないのですが……」
「あのキルアの魔力は化け物なのだ。
だからあれほど念を押したというのに!」
シリアが観覧席の脇でヒスを問い詰めていると、
キルアが不審そうな顔を2人に向けた。
「おい、シリア。何か問題があったか?」
「いや、すまんすまん。私も断ったのだがね。
部下たちにヒスが頼まれたらしく、強引に魔法を展開してしまったようだ」
「そういう事情なら仕方がない。
これからは私にも事前に知らせてくれると助かる」
「ははっ、申し訳ございません。キルア様」
ヒスが冷や汗を流しながら頭を下げた。
「ではキルア! 気を取り直して、そろそろ3戦目を始めよう」
「わかった。合図をしてくれたまえ」
キルアの指示に、副官が立ち上がる。
<< バーーーン! >>
「開始の合図が鳴りましたね。
シバさん、私たちはどこに行きましょうか?」
「せやな。オトハちゃんとウチは部外者やから、
会場の外におった方がえーで。……あそこなんかどうや?」
シバが指をさしたのは、演習場脇にある城壁の、高い塔のてっぺんだった。
「たしかに、あそこなら全体が見やすいですね。それに……いざとなれば」
オトハの目が怪しく光った。
「オトハちゃん、穏便に頼むで? サクラはんにウチが叱られるからな」
「はーーい!」
ふたりは城壁を目指して、トコトコと歩き出した。
◇◆ ◇◆ ◇◆
一方、会場のソトの部隊。
ドラの音が聞こえた瞬間、全員に鋭い緊張が走った。
「お、開始の合図だ! 風と氷の魔法を展開しろ!」
「「 炎よ、天から降り注ぎ大地を焼き尽くせ!
ファイヤーウォール! 」」
「「 風を、大地を、海を凍らせよ!
グレートブリザード! 」」
開始直後、第89軍の陣営に巨大な炎と氷の雨が降り注ぐ。
「なんだあれ? あいつらやけくそになって、
自分たちの陣営を焼き払ってるぞ! あははは! 最弱の軍隊は仕方ないな!」
第48軍から嘲笑が巻き起こる。観覧席でもヒスが笑いをこらえていた。
「何か手違いでもあったのでしょうか?」
「ふふ、敵を笑っては失礼だよ、
ヒス。彼らも一生懸命なのだから、温かく見守ってあげよう」
シリアも不快な笑みを浮かべる。
だが、キルアだけはわずかに口元を緩め、じっと戦況を見つめていた。
巨大な炎に氷の雨が降り注ぐ。
直後、極端な寒暖差によって、陣営に猛烈な上昇気流と暴風が発生した!
キルアの指示通りだ。
「今だ! 剣士とアサシン隊は、風に乗って敵陣営へ移動しろ!」
「よし、いくぜ!」
部隊は風に乗るというより、強風で上空へ吹き飛ばされた。
3キロ先の敵陣まで飛ばされる。着地を誤れば全員大怪我だ。
そのためキルアは事前に、隊長たちへ『森のリング』を授けていた。
植物を瞬時に成長させる魔道具だ。
「行けぇぇっ!」
隊長たちが指輪を発動させる。
地面から勢いよく伸びた草が、何層もの巨大なクッションとなった。
「全員無事か!? 行くぞ!」
開始からわずか20秒。
3キロの距離を、彼らは一瞬で飛び越えたのだった。
第48軍の後衛陣営。ここではまだ戦闘陣形すら取られていなかった。
「いよいよ最後の模擬戦ね。この一戦は本国に生中継されるらしいわね」
魔導士ローザが優雅に衣装を整えていた。
「そのようです。ローザ様の美貌を故郷にお見せするチャンスです」
「お姉様方に叱られない程度にアピールしましょうか。おほほほ!」
「敵だーーーッ!?」
突然の悲鳴にローザが眉をひそめた。
「何の騒ぎ? また剣士が治癒魔法士に絡んでいるのかしら?」
「いいや残念。敵の襲来でした!」
「なっ……!? あなたは!?」
「第89軍の剣士です」
「そして、アタシはアサシンだよ」
次の瞬間、後衛の魔法士部隊があっけなく倒された。
「おのれ! 私の魔法で――」
「おっと、詠唱はなしだよ」
アサシンが音もなくローザの懐へ潜り込む。
お腹へ渾身の一突きを叩き込んだ。
「あ……が……っ」
力なく倒れ込むローザ。
「よし、合図を出せ!」
高く舞い上がる煙幕。
それを見た第89軍から、地鳴りのような歓声が上がった!
「何が起こった!?」
「なぜ敵が騒いでいる!?」
第48軍の前衛部隊が動揺し、陣形が崩れる。
そこへ第89軍の魔導士たちが一斉に攻撃を撃ち込んだ!
「突撃ーーーっ!」
ソトも槍を構えて突っ込む。
虚を突かれた第48軍はパニックに陥り、次々と倒れていった。
まさかの、第89軍の大勝利である。
「うぉーーーーっ! やったーーーー!」
「俺たちもやればできるんだ!」
歓喜に沸く第89軍。
見つめていたキルアの目に、今日初めて温かい笑みが宿った。




