第97話:決死の奇襲策と、謎のトラブル
その頃、第3小隊の待機幕舎。
「だから言ったじゃないですかー!
ソトさん、そのボタンは押しちゃダメですよー!」
「す、すまないオトハちゃん!
転びそうになって、ハズミで押してしまって……
でも、まさかあんなモノが飛び出すとは思わなくて……!」
「『最後の手段』って言ったじゃないですかー!
これ、一度出したら仕舞うのが大変なんですよー!」
「分かった、すまんすまん!」
大慌てで謎の装置と格闘しているソトたちの元へ、
漆黒の翼を羽ばたかせたキルアが舞い降りてきた。
「何かトラブルか?」
「い、いえ! 大丈夫であります!」
「あれ? たいちょーさん、こんにちはー!」
「オトハさん……ここにいると危険ですから、
少し離れていてくださいね。……ソト、小隊全員を集めなさい」
「はっ!」
ソトの号令で、50人の第3小隊が速やかに整列した。
2連敗の後だけに、司令官が雷を落としに来たのだと
全員がビクビクと身体を強張らせている。
「……さて。ここまで我が軍は全敗である」
「はっ……誠に不甲斐なく、申し訳ございません!」
全員が深く頭を下げた。
「だが――諸君らのこの一戦で、
すべての敗北を帳消しにすることができる」
「え……?」
「敵は間違いなく、この3戦目に全力を傾けてくる。
そこで、私から策を授けに来た」
キルアは真剣な眼差しで兵士たちを見渡した。
「まず、今回は前衛・後衛の概念を捨てよ。
開始と同時に、全員で敵の魔法士を狙うのだ!」
「しかしキルア様、あの重騎士の壁をどうやって突破するのですか?」
「魔導士諸君、君たちはレベル4の『炎』と『氷』の魔法が使えるな?
2チームに分かれ、同時に発動させなさい!」
「そんなことをすれば……凄まじい上昇気流と突風が巻き起こり、
まともに攻撃などできなくなりますが!?」
「そうだ。その突風に乗り、
アサシンと剣士部隊を敵の後衛まで一気に吹き飛ばすのだ!」
「「「なっ……!?」」」
「敵の精神的支柱は、あの絶大な攻撃力を持つ魔導士だ。
奴さえ潰せば必ず隙ができる!
我が軍には優れた装備も実戦経験もない。
勝利するには、敵の裏を掻く奇襲しかないのだ!」
キルアの熱い言葉と斬新な策に、兵士たちの瞳に一斉に炎が宿る。
「……なお、諸君らは我が軍で最も優秀な小隊だ。
もし君たちが負けるようなら、私は司令官の座を退く」
「「「ええええっ!? ダメです! 私たちはキルア様を心から尊敬しております!」」」
「ならば――私が辞めずに済むよう、全力を尽くしてくれたまえ!」
「「「ははーーっ!!!!」」」
士気が最高潮に達した第3小隊。
……彼らが身につけている「オトハの謎装備」と、
ソトが「誤って押してしまった謎のボタン」のことを、まだキルアは知らない。
いや、それどころか、この後シリアの生中継魔法も巻き込んで、
さらなる大波乱を引き起こすことを、
その場の者たちは、まだ知る由もなかった――。




