第96話:圧倒的な格差と、シリアの罠
初戦が圧倒的な結果に終わり、会場は静まり返っている。
聞こえてくるのは、第89軍の心臓の鼓動だけだ。
そして、2回目のドラが鳴り響いた。
今回、第48軍の重騎士部隊は動かない。
それを見て、
第89軍が重騎士を前線に並べ、ゆっくりと前進する。
後方ではアサシンを警戒し、剣士を展開している。
第1小隊の敗因を「守りの甘さ」と分析した第2小隊は、
徹底的な防御重視の戦法をとったのだ。
「「 いいか!相手も同じ人間だ、
守りを固めて耐え抜けば必ず隙ができる! 」」
前衛に並んだ重騎士の中から激が飛んだ。
第2小隊には、鉄壁の防御力を誇る重騎士トマスがいる。
彼らは、トマスを中心に美しい『鶴翼の陣』を敷いた。
「よし、槍部隊! 遅れずに俺たちの後ろをついて来い!」
「はっ! この槍で第48軍の鼻っ柱を折ってやります!」
「その意気だ!」
その勇敢な姿を見て、
観覧席のシリアが、いかにも哀れむような溜め息をついた。
「キルア、あなたの軍はよく鍛えられていますね。
……ですが、残念です。如何せん、実力差がありすぎます」
模擬戦会場の一方、
まだ出番のない第48軍の兵士たちも、後方で嘲笑っていた。
「おいおい、あいつらアレで俺たちの攻撃を防ぐ気だぞ?」
「何の冗談だ? 身体強化魔法が使えるのは、
中央にいるトマスとかいう重騎士だけじゃないか」
「後方の護衛も剣士だけだしな。
物理攻撃には対応できても、魔法を撃ち込まれたらイチコロだろ。
これだから実戦経験のない奴らは困る」
笑いが起こる第48軍の陣営。
その中、長剣を腰に差した5人組の剣士が前に歩み出た。
「では……そろそろ相手をすることとしよう」
「おう、切り込み隊か。お前らの獲物は前衛の重騎士だけだぞ。
後方まで狩り尽くすと、魔導士隊のローザ様がヘソを曲げるからな」
「分かっている。
あの御仁がヘソを曲げると厄介だからな。……では、参る」
第89軍の重騎士トマスは、ミスリル製の巨大な盾を構え、
身体強化の魔法を極限まで引き上げている。
目の前に現れた剣士を見て、怒りの感情が爆発した。
「最強の48軍とはいえ、我ら重騎士に剣士をぶつけてくるとはな!
思い上がりも甚だしい! 槍隊、準備しろ!」
トマスの身体強化が、更にパワーアップし、重騎士隊全体を覆った。
「準備はそれでよろしゅうござるな? ……では」
先頭の剣士がトマスの前に立ち、静かに剣を抜く。
次の瞬間――
<< ズバァンッ!! >>
「なっ……!?」
トマスのミスリル大盾が、まるで紙のように真っ二つに叩き斬られた!
衝撃波で周囲の重騎士たちが左右に吹き飛ばされる。
開いた破口へ4人の剣士が雪崩れ込む。
あっという間に前衛部隊を壊滅させてしまった。
――そして、直後。
<< ドドドドドドカンッ!!!! >>
演習場全体を揺るがす、ド派手な大爆発と轟音が巻き起こった!
後方に控えていた第48軍のド派手な魔導士・ローザが、
一閃のもとに極大攻撃魔法を打ち込んだのだ。
あまりの威影に、吹き飛んだ泥と爆風が観覧席にまで押し寄せる。
「ふふふん! まあ、こんなものね!」
高笑いするローザに、手下の兵士が顔を青くして駆け寄る。
「ロ、ローザ様……大丈夫でしょうか!?
さすがにやりすぎでは……相手が全員死んでしまいます!」
「わたくしに手加減をしろという方が間違っているのよ!
お姉様方だったらこんなものじゃ済みませんわ! 」
ローザが爆風で乱れた髪を整え直す。
ピンクの髪にピンクのドレス。
「「 あれが爆炎のローザ…… 」」
どこからともなく会場から、どよめきが起こる。
「……おや? あちらでシリア様が手を振っていらっしゃるわ!
わたくしを労ってくださっているのね!
シリアさまーー! ありがとうございますーー!」
観覧席のヒスが、額に青筋を立ててシリアに耳打ちした。
「シリア様……ローザの奴、
自分が何をしたか分かっているのでしょうか」
「……後で、あのバカをたっぷり叱っておけ」
シリアは白々しく肩をすくめ、キルアに向き直った。
「キルア、何と言っていいか
……君の兵士を殺してしまったようだね。すまない」
「……いや、大丈夫だ。死んではいない」
「な……なに?」
「あの魔導士が詠唱を始めた瞬間、
先回りして広域防御結界を張らせてもらった」
「……ッ!? あの一瞬で……か?」
シリアの顔から余裕の笑みが消えた。
「だから気にするな、シリア。
……とはいえ、火傷や怪我は負っているはずだ。
すぐに治癒魔法士に向かわせろ!」
「は、ははっ!」
傍らの副官は、キルアがいつ結界魔法を詠唱し発動させたのか、
全く感知できていなかった。
恐るべき隠密詠唱と魔力量――
副官は羨望と恐怖の混ざった眼差しで自分の上司を見つめた。
「ふぅ……ちょっとしたアクシデントはあったが、いよいよ王手だな。
このままでは味気ない。どうだ? 最後は、君の小隊の数を増やすか?」
「うむ、そうしたいのは山々だが……それでは示しがつかん。遠慮しておこう」
「そうか。なら、兵士たちの士気を上げるためにこうしようじゃないか!」
シリアはニヤリと不快な笑みを浮かべた。
「もし……万が一、次の小隊が1回でも勝てたなら、
我が第48軍が持つ『最新式武器一式』を、
その小隊にそのまま献上してあげようじゃないか!」
「なっ……!? それは本当か!?」
キルアの目が鋭く光った。
第48軍の最新式武器――それは喉から手が出るほど欲しい代物だ。
(もし実物を入手できれば、あのオトハさんなら解析して
量産してくれるかもしれない!)
「シリア、それは願ってもない申し出だ!」
「ほう、やる気になったようだねぇ、キルア」
「では、すぐに小隊に喝を入れてくる。模擬戦の続きは30分後に頼む!」
キルアは背中に漆黒の翼を広げると、観覧席から一気に飛び立っていった。
「くくく、……キルアの奴、見事にかかったな。
ヒス、この隙に『広域映像転移魔法』の準備を整えろ」
「はっ! ということは、次の試合の映像を本国へ生中継するのですね?」
「本国だけではない! 全並行太陽系に生中継してばら撒いてやるのだ!
最弱軍が叩きのめされる無様な姿を見せれば、
未だに現場で高いキルアの評価も地に落ちる! フフフ……!」




