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第95話:最弱軍の憂鬱と、怪しい新装備

 次の日の朝、

 キルアは重い足取りで軍の演習場へと足を運んだ。


 その表情はどこまでも憂鬱だ。


 演習場では、

 既に模擬戦に向けた準備が淡々と進められている。


 司令官であるキルアの登場に一瞬空気が張り詰めた。


 しかし、集まった兵士たちの顔色はどれも暗い。



 その理由は今日の模擬戦の相手である。


 太陽系侵攻軍で史上最強と謳われる第48軍なのだ。


 模擬戦未勝利の89軍にとって、元気を出せと言う方が無理だろう。



 模擬戦は3つの小隊による勝ち抜き総当たり戦。


 その第3小隊の中には、昨夜第48軍の兵士から

不当な暴力を受けたソトたち3人の姿もあった。


 事件の顛末は、食堂の店員や客が、第48軍の報復を恐れて

固く口を閉ざしていたため、公にはなっていない。



 模擬戦開始まで、あと1時間。


 89軍の兵士たちはウオーミングアップを終え、準備万端だが、

相手の第48軍の姿は、まだ演習場のどこにもなかった。



「シリアがまだ来ていないようだな」


「はっ。シリア様は現在、

庁舎にてティータイムを楽しまれているとのことです」


「……第89軍などいつでも捻り潰せるということか……」



「あ……キルア様! オトハさんが、あんなところに!」


 副官が演習場の隅を指さした。


 見れば、オトハとシバ(ユヅキ)が、

出陣を控えた兵士たちの間をチョロチョロと走り回っている。


「オトハさんたちは、一体何をしているのだ?」


「いえ……ここからはよく見えません」



 その頃、演習場の端の方では、第3小隊のソトたちが、

オトハに押し付けられた見慣れぬ装備に困惑していた。


「な、何なんだ……? この謎のプロテクターみたいな装備は……?」


「いいからいいから! ソトさん、とにかく着てみてくださいなー!」


「オトハちゃんには昨日助けてもらったから着てみるけど……

慣れない装備は怪我の元だから、模擬戦が始まるまでだからね?」


「はーーい! でも気に入ったら、これで戦ってくださいねー!」


「もう、オトハちゃんは相変わらず強引だなあ。あはは!」



 苦笑しながら装備を装着したソト――、だが次の瞬間、目を見開いた。


「……あれ? これ、案外すごくいいかも……!?」


「関節がめちゃくちゃ動きやすいぞ!?」


「身体が……軽い!!」


 ソトの小隊のあちこちから、次々と驚きの声が上がる。


「これなら、このまま戦っても全然大丈夫だよ!

ありがとう、オトハちゃん!」


「いいえー! 怪我をしないように頑張ってくださいねー!」



「ところでオトハちゃん。

この装備、色んなところに謎のボタンがついているけど……

どんな効果があるんだい?」


「それはー、押してのお楽しみです!」


「気にかかるなあ……。

よし、本当のピンチの時に使わせてもらうよ!」



 ソトは昨晩、オトハの魔道具デニッシュ

もたらした奇跡を身をもって知っている。


 何か秘密の武器であろうと想像した彼は

小隊の仲間に「このボタンは最後の手段として使うように」

と固く指示して回ったのだった。



( サクラちゃんからは「目立つな」と言われとるけど、

この程度の装備なら大丈夫やろ。

せいぜい攻撃から怪我のリスクを減らすだけやしな )


 心の中で高をくくるシバ。


 ……だが、その予想は、後で大きく裏切られることになる。



 模擬戦開始のわずか10分前。

 ようやく第48軍の兵士たちが、だるそうに姿を現した。


 しかも、やってきたのは3小隊のうち『たった1小隊』だけである。


 彼らは最初の1小隊だけで第89軍の3小隊すべてを

全滅させられると本気で高をくくっているのだ。


 それもそのはず、

 彼らの体格、身のこなし、放つ威圧感、そして最新鋭の装備は――

どれをとっても桁違いだった。


 その証拠に、彼らが軽く準備運動を始めただけで、

第89軍の第1小隊は完全に気圧され、意気消沈してしまった。



「へへへ、隊長。あいつら、もうガタガタ震えてますぜ」


「当たり前だ。俺たち第48軍は全軍で一、二を争う強者だぞ。

最弱の第89軍から見れば、天使の軍勢に見えてるんだろうよ」


「ガハハ! 違げえねえや!」


「私語を慎め。シリア様がお見えになったぞ」



 それまでダラダラとしていた第48軍の空気が、一瞬で引き締まる。


 模擬戦開始のわずか1分前。司令官シリアが優雅に姿を現したのだ。


「フフフ。キルア、

今日は互いに実りある、良い勉強になる模擬戦になるといいね」


「あぁ、そうだな。よろしく頼む」



 シリアの副官ヒスが、兵士たちの前に立った。


「シリア様に敬礼!」


 一糸乱れぬ完璧な動きを見せる第48軍。


 いくら相手が格下の最弱軍であっても、シリアの前で失態を見せれば、

それは即座に処刑を意味するのだ。


 シリアが満足そうに手を挙げると、兵士たちは速やかに敬礼を解いた。



「よろしい。今日は最弱と噂される第89軍との模擬戦だ。

万が一にも敗北など許されんぞ」


「ははっ!」


「明日には前線へ戻るのだ。

大した準備運動にもならんだろうが、せいぜい善処するように」


「ははっ!」


 第48軍の第1小隊が、完璧な陣形で配置についた。


「キルア、こちらはいつでもいいぞ」


「うむ……では、始めよう。ドラを鳴らせ!」


 キルアの合図とともに、演習場に重々しいドラの音が鳴り響いた!



<< バーーーーン! >>



 第48軍の重騎士部隊が、

重圧感を放ちながらゆっくりと前進を開始する。


 その圧倒的威圧に推されたのか、第89軍側から、

慌ただしく詠唱が起こり、複数のファイヤーボールが放たれた!


 大きな火の玉は、重騎士の掲げる巨大な盾にあっけなく阻まれ、

虚しく弾け飛ぶ。


 続いて長槍を構えた第89軍の兵士たちが突進するが、

まるで鉄壁の岩山にぶつかったかのように、いとも簡単に跳ね返されてしまった。



 第48軍は、まだ攻撃らしい攻撃を一切していない。


 ただ重騎士が歩を進めているだけで、完全にその場を支配した。



 その空気を一蹴しようと、

第89軍で最強を誇る騎馬隊が起死回生の突撃を開始した!


 これには、第48軍の重騎士たちも陣形を変えた。


 瞬時に円陣を組み、その中心に空間を作る。



 異様な陣形に、騎馬隊の勢いが弱まった。


 その一瞬である。


 陣形の中央からぬっと現れた3名の弓兵が、頭上へ向けて一斉に矢を放った。



 空を埋め尽くす矢の雨。

 またたく間に、第89軍の兵馬が次々と崩れ落ちていく!


「あ、圧倒的……すぎる……!」


 キルアが後方に目をやると、

いつの間にか後衛の魔法士、回復兵、長剣部隊が全滅している。


 第48軍のアサシン部隊が、音もなく忍び寄り、

一瞬で気絶させてしまったのだ。



 ――第1試合。わずか5分。


 第48軍の圧倒的完勝で幕を閉じた。



「まあまあですね」


 シリアは満足そうに頷くと、

運ばれてきたティーカップに優雅に手を伸びした。


「け、怪我人は!?」


 キルアが自分の副官に尋ねる。


 確認に走った副官が、冷や汗を流しながら報告した。


「50名中……重傷者30名! その他、全員怪我を負っております!」


「すぐに治癒魔法士を向かわせなさい!」


「ははっ!」



「ふふ、これでは準備運動にもなりませんねぇ。

キルア、続けましょうか?」


「……うむ。そうしよう。ドラを鳴らしたまえ」


<< バーーーーン! >>


 シンと静まり返り、暗く絶望の目をした第89軍の控え席。


 その横で、48軍の最新鋭の魔道具を悔いるように見つめる

2つの燃えるような、いや、萌えるような、変態的な視線があった。


「ねぇねぇ、ソトさん、あの武器、一度でいいから触りたいんですが」


「いや、ダメだよ。俺達だって、触らせてもらえないもの」


「触りたいなー、欲しいなー、バラバラにしたいなー」

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