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第81話:噂の凛々しい聖女様と、師匠の変態的プロファイリング

「ねぇ、あの噂、本当に本当なのかな?

シルバーランドの聖女様が勇者になって、

魔王を倒しに行くらしいって話」


「その話なら、私、昨日お父様から聞いたわ。

なんでも、その聖女様って私達と同じ十五歳なんですって!」


「ぜひ、お会いしてみたいわーー。

魔王と戦うくらいなんだから、きっと逞しくて、

凛々しいお顔立ちに違いないわ。うふふ」


 春の柔らかな日差しが優しく降り注ぐ、

お洒落なカフェテラス。


 ここはサンブルグの聖魔法学園の近所に位置するため、

客の殆どが学園の生徒達だ。


 今日も、おめかしした女生徒たちが、

色鮮やかなスイーツを楽しみながら、巷を席巻している噂の主

――シルバーランドの聖女の話題で大いに盛り上がっていた。


 そんな賑やかな声が届く席で、当の本人であるキキョウが、

あからさまに居心地が悪そうな顔で紅茶をすすっていた。


 対面に座るリサ少尉が、意地悪く口元をほころばせる。


「キキョウさん、あんなこと言われてますよ。

ここに師匠がいたら、『すごいですキキョウさん! 』って大喜びですね」


「いいえ、リサさん。

あの子はそんな噂なんてこれっぽっちも興味を持たないわ。

それよりもほら、あっちに夢中になるはずよ」


 キキョウが指差した方向では、バリスタが最新式の魔導焙煎機で、

香ばしいコーヒーを淹れているところだった。


 リサはその光景を見て、

想像がついてしまったらしく、ぷっと笑い出した。


「うふふ! 確かに……師匠がいたら、あの焙煎機にかぶりついて

『これ私に欲しーーい!』って物欲を爆発させるでしょうね」


「そうそう。そして、目を輝かせながらこう言うのよ。――

『えへへ、あの焙煎機ちゃんのボディを、

一枚ずつ優しくはぎとらせてくださいー!』ってね」


「あはははは! 容易に想像できます、それ!」


 二人は声を合わせて笑い合う。

リサは少しだけ羨ましそうな目をキキョウに向けた。


「キキョウさんは、本当に師匠のことに詳しくて羨ましいです」


「でもね、これだけ長く一緒にいても、未だに分からないことだらけよ。

特に才能に関しては、ボクじゃ到底推し量ることもできないわ」


「キキョウさんほどの方でも、分からないんですか?」


「ええ。だってあの子、魔力ゼロのくせに、

とんでもない魔法を打ち出したりするじゃない? 」


「それは、あらかじめ魔法を込めた魔道具によるものではないのですか?」


「それすら分からないの。

……たぶん、サクラっの加護を受けていることが関係していると思うけど」


「天使の加護といえば、キキョウさんも加護をお受けになったのよね?」


「それが、自分でもよく分からないの。

特別に魔力が上がった訳じゃないし、何かの特性が変わった訳でもないし……」


「ふーん、そんなものですか」


「ただね、オトハの場合、ボクと手を繋ぐと不思議な力が湧いていたの。

だから私の加護にも、発動するための何らかの『トリガー』があると思うわ」


「じゃあ、師匠の時のように、二人で手を繋いでみたらどうですか?」


「それ、もう試してみたけど、だめね。何も起きなかった」


 キキョウが肩をすくめると、リサは頼もしく胸を張った。


「まぁ、キキョウさんには、いざとなったら私の作った

『魔道具』がありますから! 明日のテストを楽しみにしていてください」



 そんな会話とは関係なく、徐々に、カフェ内にいる学生たちの

視線がキキョウの席へと集まり始めた。


 というのも、キキョウの中性的な魅力が、学生たちの目に止まり、

周囲の女生徒たちが「あの方、素敵……」と興味を持ち始めたのだ。


 それに気づいた瞬間、キキョウは居心地の悪そうな表情に変わり、

「……行こ、リサさん」と告げて、逃げるようにカフェを後にした。



 そんな二人の姿を、はるか上空の雲の上から見下ろながら、

サクラが不思議そうに口を開いた。


「ところでカンナ、キキョウへの加護のトリガーだけど、

あなた一体何で発動するように仕掛けたの?」


「ふふ、サクラちゃんと同じじゃ芸がないから、

ちょっと違うものにしたわ」


 カンナは悪戯っぽく微笑むだけで、

何度サクラが仕掛けを尋ねても、絶対に答えようとしなかった。


 そして、ごまかすように話題を変えた。


「それよりも……、

天界のユヅキちゃんたちは上手くやってるかしらね?」


「オトハの方はドジを踏まないか心配だけど、

ユヅキ(シバ)は何だかんだ言って優秀だから問題ないでしょ」


「そうねユヅキちゃんは賢いからね」


「……それよりも、アイツの頭に変にワルい商売の考えがよぎって

いなければいいんだけど……」


 サクラは遠くの空を眺めながら、重いため息をついた。


「悪知恵といえば、サクヤちゃんも負けてなかったわよね。

リサって娘はサクヤちゃんの加護が解除されたはずなのに、

なんだろ?あの子の加護を感じるわ」


「よほど急いでルシフェル兄様のところへ向かったのね。

確かに『知力の加護』を抜き忘れてるみたい。

あのサクヤのやりそうなミスだわ、ホント大馬鹿。

なんで兄様はあんなフェロモン女に……。」


「まぁまぁ、サクヤちゃんの乙女の純情ってやつじゃない?

ああ見えて、あの子も可愛いところがあるのよねぇ」


「可愛くないわよ!」


「ふふ、サクラちゃんは昔からずっとあの子の被害者だものね。うふふ」



 翌朝。


 人類の未来を賭けた、運命の起動テストの時間がやってきた。

サンブルグ法皇庁前の広場には、各国の首脳や軍関係者たちが

ズラリと顔を揃え、固唾を飲んで中央に立つキキョウの姿を見守っていた。


 厳かな鐘の音が響く中、法王が広場へとゆっくり歩みを進め、声を張り上げる。


「さて、各国の皆様。

これから、世界を救う聖女・キキョウ様への

『信仰心集束強化魔法』のテストを行います。


 ……すでに各国の聖堂、教会には、我が信者たち

【100万人】が集い、一斉に祈りを捧げております!」


「おぉ……! さすがは法王様だ。

テストの段階で、すでに100万の信徒を動かしていたのか!」


 周囲の国賓たちが感嘆の声を漏らす。


 法王の話では、カオルとの本番の日には、

世界中の【30億人】の信徒を動員して祈りを

捧げさせる手筈になっているらしい。


 トコトコと、

緊張した面持ちのキキョウの元へリサが近づいていく。


「大丈夫です、キキョウさん。きっと成功します。

なんと言っても、この装置の基礎設計をしたのは、

師匠オトハなのですから!」


「そうね……。オトハの設計に心配なんかしてないわ。

――ただ、リサさん。もしボクの魔力が暴走して、

あの時のカオルのようになってしまったら……

その時は、迷わずボクを撃ち殺してね」


 キキョウの覚悟の言葉に、リサは力強く首を振った。


「万が一にも、そんなことはありません。

大丈夫です。私達を信じてください」


 リサは懐中時計を確認し、

定刻になったのを見届けると、意を決して顔を上げた。


「それでは……始めましょう」


 リサの細い指が、手元にある魔道具のスイッチを、

静かにカチリと押し込んだ。

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