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第80話:聖女キキョウ、なし崩し的に世界の救世主になる

 オトハたちが『光の音』を目指して旅立ってから、

早くも一週間が過ぎていた。


 その間も、キキョウ、リサ、そしてケインたちは、

引き続きカオルの動向を警戒し、監視を続けていた。


 一時的に魔力が枯渇しているとはいえ、

カオルが持つ力は文字通り災害級だ。


 冷静に分析すればするほど、自分たちの戦力だけでは、

到底カオルを討ち果たすことはできないという残酷な現実が突きつけられていた。



「今日も今後の対応をどうするか、だな……」


 ロンドラ連合王国のケイン皇太子が重々しく口を開く。


 円卓を囲むのは、サンブルグ共和国の法王、

そしてシルバーランドの聖女であるキキョウだ。


 さらに今日は、かつて帝国軍でカオルの部下だったリサ少尉も、

貴重な情報筋としてこの最高機密会議に参加していた。


「――まずは共有すべき情報があります。

我が弟、カイルの消息が分かりました」


「ケイン殿下! それは喜ばしいことです。

王子はご無事だったのですか?」


 法王が身を乗り出すが、ケインは苦渋の表情でかぶりを振った。


「いや……。弟の最後の足取りが掴めたのですが、

やはり例の少女と一緒にいたそうです。

どうも、帝国領土にある『光の音』の方へ向かっていたようです」


「え? オトハたちがそこに向かったことを、

カイル様はご存じだったのでしょうか?」


 キキョウが瞬きをすると、ケインは溜息をついた。


「いや、恐らくは偶然だろう。

その少女というのは……伝わってきた容姿から察するに、

メディーナのギルド長の娘、ミアだと思われる」


「やっぱり……。ミアさんが一緒なら、

なんとか上手くやっているとは思うんですが、

やはりカイル様が心配ですね」


「今は、そのようなことを言っている場合ではありません。

弟も一国の王族の端くれだ、命を捨てるような無茶な行動はしないはず。

……さあ、本題を始めましょう。リサ殿、宜しく頼みます」



「はい、殿下」


 リサ少尉はキリッと表情を引き締めると、

一つの魔力結晶を手に取った。


 彼女が左手の手のひらを壁に向けると、

なんと結晶から淡い光が放たれ、壁面に鮮明な映像が映し出された。


「……帝国では、このような『映写魔法』まで実用化されているのか」


 ケインが感心したように呟く。


「はい、殿下。

――ここに映っているのが、カオル様が帯びている【黄金の剣】です。

我々帝国軍の調査と分析の結果、この剣は人類の技術で作れる

代物ではないと判明しました」


「それは、オトハも言っていたわ」


 キキョウが腕を組んで記憶をたどる。


「確か、正体不明の天使がカオルに授けたものだって。

しかも、カオルの側にはサクラの兄が付いている。

正直、こちらとしてはかなり分が悪いわね」


「天の御使い様がお二人も、カオル側に……。

いったい天使様方は、我々人類をどのようにされようとしているのでしょう……」


 絶望的な戦力差に、法王がガクリと膝をつき、うなだれてしまった。



「いいえ、絶望するのは早いですわ、法王様」


 キキョウがまっすぐな目で法王を見つめた。


「ボクたちを支援してくれている天使だってちゃんといるのです。

ボクが知る限り、サクラをはじめ、すでに3人は味方に就いてくれています。

オトハの周りを見ていればわかるじゃないですか。

それに……私も先日、ある天使様から『加護』を告げられましたし」


「キ、キキョウ様……! そうでした、

あなた様も大いなる御使い様に選ばれた聖なるお方でしたな!」


 法王がハッとして顔を上げる。


「コホン。法王様、宜しいでしょうか? 話を戻します」


「おっと、すまない、リサ殿。失礼した、続けてくれ」


 リサは壁の映像を切り替えた。


「この黄金の剣のせいで、各国に甚大な被害が出ました。

私の計算によると、この剣は持つ者の魔力を増幅させ――

恐らくは【1000倍】の力を発揮させる媒介となります」



「「「 せ、1000倍……!? 」」」



「つまり、カオル様に本来の魔力が完全に底突いて戻ってしまえば、

もう誰にも手が付けられなくなります」


「じゃあ、魔力が枯渇している『今』しかチャンスはないってわけ?」


 キキョウの問いに、リサは神妙に頷いた。


「先ほども言いましたが、潜伏先には強力な結界が張られている

可能性が高く、うかつに手を出せば返り討ちです」


「そこで、私から提案があります」


 リサが不敵に微笑んだ。


「リサ殿、我々人類の力だけでも、何かできることがあるのですか?」


「はい、殿下。私の計算によると、魔力には『信仰心』を活用する

【聖魔法】というジャンルが存在します。

これは文字通り、人々の『信仰心』が集まれば集まるほど、

出力が乗算で強くなる性質を持っています」


「その通りです! だからこそ、我々は世界中に教会を建て、

祈りを捧げて信仰を集めているのです!」


 専門分野の話になり、法王が誇らしげに胸を張る。



「それです、法王様。その世界中の『信仰心』を、

一箇所に強制的に集束・増幅させる装置を、私は今、開発しているのです」


「な……そんな神をも恐れぬ芸当が、本当に可能なのですか!?」


 驚愕する法王の前で、リサはふふんと鼻を鳴らした。


「えっへん! 何せ私は、あのオトハ様の『一番弟子』ですからね!

師匠の技術をもってすれば、不可能なことなどありません!」


 リサはオトハの真似をして、人差し指でメガネをくいっとずり上げた。


「あはは! 似てる似てる、オトハにそっくり!」


 キキョウが思わず吹き出す。


「それで、その装置はいつ頃完成するの?」


「来週にはプロトタイプの起動テストを開始します。

そこで法王様、お願いがあります!

私とキキョウさんを、サンブルグの大聖堂にお招きいただきたいのです」


「え? ちょっと待って、なんでボクも行くのよ?」


 素朴な疑問を呈するキキョウに、リサは冷徹なまでの事実を突きつけた。


「どうやらキキョウさん、あなたはとんでもない特異体質で、

体内に宿せる魔力の最大容量が、我々の【数万倍】もあるのです。

ご自身で気が付いていませんでした?」


「はあ!? 知らないわよそんなの!

っていうか、いつの間にそんなこと調べたのよ!」


 叫ぶキキョウに、リサは悪びれもせず「えっへん」と胸を張る。


「すべてはオトハ師匠から裏で共有された情報です。

師匠が、お友達の天使さん(サクラ)からコッソリ教えてもらったそうですよ」


「あのバカオトハ……!!

なんでそんな肝心なことを本人に一番に言わないのよ……っ!」


 キキョウが頭を抱えて激怒するが、周囲の反応は全く違うものだった。


 一般人の数万倍の魔力容量、そして天使の加護。

それが意味することを、その場の誰もが一瞬で理解したのだ。


「キ、キキョウ様……っ!

どうぞ我がサンブルグの総本山へお越しいただき、

その大いなる力で人類をお守りください!」


 法王がガタガタと震えながら、キキョウの前に大真面目に跪いた。


「キキョウ殿……いや、キキョウ様!

どうか、どうか我らを見捨てないでいただきたい!」


 ケイン皇太子までもが法王に続き、キキョウに向かって膝をつく。


 それを見た周りの文官や護衛兵たち全員が、まるで本物の女神を

拝むかのように、一斉にキキョウへ向かって手を合わせ、深く頭を垂れた。



「えーーーーーっ!? いや、もう、何でもいいわよ好きにして……!」



キキョウの半ば投げやりな許可(?)を得るや否や、

法王の迅速な指示により、瞬く間に世界中へ一つの『噂』が、

爆発的な勢いで拡散されていった。



――シルバーランドの聖女キキョウ様が、神の装置を携え、

人類を脅かす悪魔を成敗せんとしている。



世界中の人々が、まだ見ぬその圧倒的な輝きに、

祈りを捧げ始めるのであった。

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