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第78話:天才か?バケモノか?魔道具師少女の弟子入り

「ロク爺も焼きが回ったわねぇ。

あの子がバケモノの訳がないじゃないの、

あんなに素直で可愛いお嬢ちゃんが……」


 小間物屋の女将が呆れたように言うと、

ロク爺は激しく首を横に振った。


「いや、間違いねぇ!

間違いなく、あいつはバケモノじゃ!!」



「ちょっと、それ以上言うと本気で怒るよ?

アンタのすぐ隣には、オトハちゃんのお兄さんがいるんだからね!」


 女将が顎で示すと、ロク爺はハッとしてシバを見た。


「あ、アンタが、あの子の兄貴か……?」


「へえ、そうでんねん。うちのオトハが何かやらかしましたか?」


 シバが、のほほんと尋ねると、ロク爺はガシガシと頭を掻きむしった。


「まぁ、聞いてくれや……!」



 ――それは、ほんの1時間ほど前のことじゃった。


『親方! できましたーー!』


『なんじゃ、その「親方」っていうのは?』


『何となく雰囲気です! それより親方、

言われていた留め具のバリ取りと加工、全部終わりました!』


『……いや待て。留め具は、全部で300個あったじゃろ?

ワシら熟練した職人でも、1つ加工するのに半日はかかる

骨の折れる作業じゃぞ? まだ、預けてから2時間しか経ってないじゃないか』


 ロク爺は半信半疑で、

オトハの後ろに山積みにされた留め具の箱を覗き込んだ。


 これは軍からの正式な注文だ。

もし失敗でもしていれば、後から何を言われるか分からない。


ロク爺は厳しい目で、仕上がった留め具を1つ1つ丁寧に確認していった。


 だが、見れば見るほど老職人の目は見開かれていく。


『か、完璧だ……っ。娘、お前……これは本当に一人でやったのか?

誰かに手伝ってもらったんじゃないか!?

――とはいえ、ここにはワシとお前しかおらんかったが……』


『えへへ、合格ですか?』


『合格どころか、これほどの精密な品質は、

ワシらでも簡単には出せんよ……!』


『良かったです! ほかに、何かお手伝いできることはありますか?』



『うむ……。お主の名前を、もう一度教えてくれ』


『オトハでーす!』


『よし、オトハ。次はバケツを300個、頼む』


『あいあいさー!』


『これは、軍の連中が野営で使うものじゃから、取っ手を頑丈にな。

それから、水を汲んだときに持ちやすいよう、

重心のバランスを少しだけ上にしてくれ』


『あいあいさー、親方!』


 それにしても、不思議な娘じゃ。


 これだけの神がかった技術を持ちながら、鼻にかけるどころか、

ワシのことを「親方」なんて呼んであんなに慕ってくれて。うふふ、

ワシにもついに可愛い弟子ができたわい……。


『おーやーかーたー!』


『お、どうしたオトハ? 早くも材料が足りなくなったか?』


『いえ! 「水を汲みやすく」って親方が言ってたので、

ちょっとバケツを改良してみたんです。見てもらえますか? 』


『よし、こっちに持ってこい』


『アタシ、力がないからバケツを持つ時って、

重くてちょっとずつしか水を入れられないんですよ。

だから、ここをこうして、水が入っても重くないようにしました!』


『へ?』


『だから、ここにちょこっと魔法陣を書いて、

浮遊魔法を付与してみました!』


『いや……オトハ。

それはただ、バケツの側面に子象の絵が書いてあるだけじゃろ?』


『普通の魔法陣じゃ可愛くないじゃないですかー。

まぁ、ちょっと持ってみてくださいよ、親方!』


『うむ……。なんじゃ、持ってみたが普通の軽い鉄バケツじゃが……』


『じゃあ、これから水を入れますよー。それーーーっ!』


 オトハが水槽からバケツになみなみと水を注ぐ。


『オトハ、水を早く入れなさい』


『親方、これ以上は入りませんよ。バケツはもういっぱいです』


『な、なにーーーー!?』


 ロク爺は腰を抜かさんばかりに驚いた。

バケツには確かに水が溢れんばかりに入っている。


 それなのに、手元に感じる重量は『空のバケツ』の時と全く同じ、

いや、むしろさらに軽くなっているような気さえする。


『オトハ、お前……なんというものを作るんじゃ……っ!』


『え? 名前ですか? そうですね、子象のオハナさんです!』


『いや、名前を聞いとるんじゃない!

んーーーーー! しかしこれはスゴイ。凄すぎるぞ……っ!』


 ロク爺の職人魂が震えていた。


『オトハ、この驚異的な技術を、一体誰に教わったんじゃ!?』


『何となく、さっきバケツを見ながら考えたんです』


『……わかった。もう、ワシは何も聞かん。お前の好きにしろ。』


 ロク爺は自分の常識がことごとく壊され、思考が追い付かない。

指でこめかみを抑え、首を横に振ると、一呼吸ついて、オトハに向き直った。


『そのまま300個……いや待て、こんなトテツモナイ魔道具を

300個も一気に納品したら軍が大混乱するわ!

これはひとまず10個でいい! あとは普通のバケツにしなさい!』


『えーーー? オハナさん、可愛くないんですかーー?』


『うむ、

そうじゃ、今度しかるべき場所で正式にお披露目をしてあげよう!

その方がこのバケツ(オハナさん)も喜ぶじゃろう?』


『はい! そうですね! ありがとうございます、親方!』



 ……再び、小間物屋の店頭。

ロク爺は、ここでもこめかみを抑え首を振り続けた。


「それでロク爺、あんたはその『オハナさん』とやらを持って、

ここまで走ってきたのね」


 女将が呆れ顔で、

ロク爺が大事そうに抱えている子象の絵のバケツを見つめた。


「おい、少年」


 ロク爺が真剣な目でシバの肩を掴む。


「お前の妹のオトハは、いつもあんな感じなのか……!?」


「へえ。まぁ、うちではいつものことですわ。

普段から『あまり目立つな』とは言いきかせてるんですがねぇ。

……まぁ、売れるなら作らせまひょ。

親方はん、そのバケツ、1ついくらくらいの値がつきますやろ?」


「おい、女将。この少年も、どこか少しおかしくないか……?」


 シバの光速のソロバン勘定に、ロク爺が引き気味に囁く。


「そうねぇ。でも、仕事ができる男の子は、私すきよ?」


「おおきに、女将さん。見る目がありますな!」


 シバが調子よくウインクすると、女将はロク爺を小突いた。


「それでロク爺、

オトハちゃんのこと、ちゃんと雇ってくれるんだろうね?」


「もちろんじゃ! あんな恐ろしい……

いや、才能ある子を手放すはずがないじゃろ!

ワシの命に代えても、もっと立派に育ててあげたいくらいじゃわい!」



「「 おーーーやーーーかーーーたーーー!! 」」


 遠くの工房から、再びオトハの元気な声が響いてくる。


「親方はん、オトハが呼んでまっせ」


「な、何じゃ!? もう追加の分ができたっていうのか!?

……ま、あの子なら朝飯前なんじゃろうな。

それじゃ女将、また後でな。夜にでも美味い酒を飲もうや!」


「はいはい、早く行ってあげておくれよ」


 ロク爺が嬉しそうに工房へ走っていく。と、その数十秒後。


『なーーーーにーーーーーーー!?!?』


 早速、向こうの工房からロク爺の、本日一番の驚愕の絶叫がこだました。

今度は一体何を作ったのやら。


「ふふふ、ホント、アンタたちが来てくれたおかげで、

この退屈な村も一気に賑やかになりそうだよ。あははは!」


 女将さんは上機嫌で笑うと、エプロンのポケットを探った。


「ほら、お兄ちゃん。よく働いてくれたからね。飴ちゃん、食べな」

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