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第77話:天才商人の爆売り店番と、鍛冶屋のロク爺の悲鳴

「わかったわ! おばちゃんたちに任せなさい!

――ねぇみんな、聞いたわね? この子たちが手伝える仕事はない?」



「そういえば、鍛冶屋のロク爺が

『手が足りなくて助手が出欲しい』ってボヤいてたわね!」


 洗濯物を干していた背の低い女性おばちゃんが、

空を眺めながらつぶやく。


「良いわね!この子はロク爺に任せましょ。

それでお兄さんのほうは、何ができるんだい?」


 最初のおばちゃんが、オトハに飴を渡しながらシバを振り返った。


「ボ、ボクは計算が得意デス!

特にお金の勘定が、三度の飯より大好きなんデス!」


「まぁ、変わったお兄さんだねぇ。

それじゃアンタは、ウチの小間物屋の店番を手伝いなさい。

二人分の宿代と食費くらいは出してあげるわよ!」


「ありがとうございます!」


 さっそくおばちゃん――小間物屋の女将に連れられて、

二人はそれぞれの仕事場へと案内された。


 まずは鍛冶屋のロク爺のところだ。



「ロク爺ーーー! ロク爺ってば!」


「なんじゃ、小間物屋の女将じゃないか。

どうしたんじゃ、そんな大声を出して」


 奥から、煤まみれの頑固そうな老人が顔を出した。


「アンタのところ、助手が足りなくて困ってるって言ってたわね」


「まぁな。昨日も宮殿の軍から『戦(他世界侵攻)』が始まるって、

荷物を運ぶ魔道具の留め具やら、スコップ、バケツ、ランプの

オーダーが大量に舞い込んだんじゃ。ワシ一人じゃ捌ききれん!」


「なんだい、鍛冶師に頼むにしちゃ、チンケな生活道具ばかりねぇ」


「当たり前じゃろ。

ここにいる【他世界侵攻軍】は、最弱の『第89軍』じゃが、

れっきとした正規軍じゃ。民間の鍛冶師が作った武器なんか使うもんか」


「そんなもんかい。私達、下々の者には分からないわよ」


「まぁな。そうじゃが、上の者も大変らしい。

『第89軍』には、もう5万年も武器の補充がないらしい。

『キルア様が可哀想だ』って、ローザ様もこぼしておったわい。

じゃから、せめて生活道具だけでも良くしてあげたいじゃないか」


「ふーん、天使様たちには天使様たちなりに悩みがあるんだねぇ」


 オトハはふむふむと興味深そうに話を聞いている。


「それで、そこにいる小娘はなんじゃ?」


「あ、そうそう。アンタのところでこの子を雇いなさい。

田舎で鍛冶の見習いをしていたらしいから、きっと役に立つわよ。

ほら、挨拶しなさい」


「オトハでーす! 宜しくお願いします!」


「ふん、まあ、いないよりはマシじゃな。

早速じゃが、この留め具のバリ取りと加工を手伝ってくれ」


「それじゃオトハちゃん、

後でお兄さんと一緒に迎えに来るからね。がんばってね!」


「女将さん、ありがとうございます!」



 オトハを鍛冶屋に預けた後、シバは小間物屋へと連れてこられた。


「それじゃお兄さん、ウチで店番をお願いね。

ウチは軍人さんたちの生活道具を売ってるの。

忙しい時には10人くらいまとめて買いにくるから、

テキパキとお金を計算して頂戴ね」


「はい! 分かりました、女将さん!」


「お兄さんは礼儀正しいし、物腰もなんだか商人向きねぇ」


「へへ、おおきに……あ、いえ、ありがとうございます!」


「それじゃ私は、村のみんなにアンタたちのことを

触れ回ってくるから、少しだけ店番をお願いね」


「かしこまりました。いってらっしゃいませ!」



 女将が店を出ていき、シバは一人、店番を始める。

元・天界の商人(自称)の血が騒がないわけがなかった。


 ――1時間後。


 女将が村の用事を終えて店に戻ろうとすると、

まだ遠く離れているはずの店の方から、何やらもの凄く

威勢の良い掛け声と、客たちのドッと湧く大笑い声が聞こえてきた。


「あら……? 今日は何かのお祭りだったかしら?

ウチの店の方がえらい賑やかねぇ……」


 女将が慌てて駆け戻ると、そこには軍服を着た天使や

下働きの男たちが店を取り囲み、大声で笑いながら硬貨を突き出していた。


「まいど! そっちのダンナにはバケツとランプのセットで銀貨3枚!

今なら特別にスコップも付けて銀貨4枚や! 買わな損損!」


「おい、俺にもそのセットくれ!」


「はいよ、毎度ありぃ!!」


 血相を変えた女将は、人混みをかき分けて中に飛び込み、

深々と客たちに頭を下げた。


「も、申し訳ありません皆様! この子は田舎から出てきたばかりで、

まだ店に慣れていないものですから! 何か粗相がありましたら申し訳ありません!」


 すると、客の軍人たちがガハハと笑った。


「いやー、女将さん! この兄ちゃん、最高におもしろいな!

買い物の計算がめちゃくちゃ早いし、おまけのトークが上手くて

ついつい買いすぎちまったよ!」


「また買いに来るからな、兄ちゃん!」


「おおきにー! またのお越しをー!」


 軍人たちは満足そうに荷物を抱えて去っていく。


「え……? あ、ありがとうございました……?」


 呆然として女将が店を見渡すと、棚という棚から商品が

綺麗さっぱり消え去り、完全に『売り切れ』状態になっていた。


「あ……あの、売り切ってしもたらアカンでしたか?」


 シバが申し訳なさそうに、パンパンに膨らんだレジの革袋を差し出す。


「い、いいえ! とんでもないわ、ありがとう!!

アンタ、私が見込んだだけあって、商売の天才ね!? 」


「そんなことはあらしまへん。

女将さんとこの商品が良かったんですよ」


 シバが両手を振りながら否定する。


「今月は売上が大ピンチだったから本当に助かったわ!

もう今日の仕事は終わりでいいから、奥でお茶にしましょう!」


 感動した女将がお茶の準備をするために

店の奥に入ろうとした、まさにその時。


 隣の鍛冶屋から、ロク爺が顔を真っ赤にし、

息を荒くして店に飛び込んできた。


「女将ーーーっ!! 女将はいるか!!」


「な、なんだいロク爺、血相を変えて!」


「アンタとんでもない小娘を拾ってきたぞ。ありゃバケモンだ!!」

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