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第76話:お上りさん丸出しの潜入作戦(※飴ちゃん付き)

「あれでしょうか?」


 宮殿の真下と思われるあたりに辿り着いたオトハが、

はるか上空を見上げて呟いた。


「いや、オトハちゃん。その、もうちょっと右のほうかもしれんで?」


「シバさん、小さな黒い点が見えます。あれじゃありませんか?」


「そうかもしれんな。まあ、ここからやと豆粒にしか見えんけどな……」


 二人がそんな会話をしながら途方に暮れていると、

パタパタと羽音がして、上空から一人の天使が舞い降りてきた。


 先ほどスピード違反(?)で注意してきた、あの黒い羽の天使だ。


「どうしたのですか? あら、またあなた達ですか。

本当にこの光の柱が好きなんですね」


「い、いえ、そういう訳じゃ……」


 シバが慌てて言い訳を探そうとするが、天使はフッと優しく微笑んだ。


「分かったわ、お姉さんに任せなさい。

でも、他の警備の人に言っちゃダメよ?

宮殿の入り口に行きたいんでしょ? 特別につれて行ってあげるわ」


「えっ、そんな、お仕事中に悪いですよ……!」


「いいのいいの。私も田舎の出身だから、

あなた達のようにお上りさん丸出しの姿を見てると、

なんだか放っておけなくて助けたくなるのよ」


 天使の親切すぎる勘違いに、シバはすかさずオトハの服の裾を引いた。


「オトハちゃん、ここはこの姉さんの親切に甘えよや」


「そうよ、年上の言うことは素直に聞いておくものよ」


「じゃあ、お願いしまーす!」


 その天使――ローザは、人間の姿をしているオトハたちに比べて

3倍近くある巨体だった。


 オトハとシバはローザの両肩にちょこんと乗せてもらう。

次の瞬間、ローザは力強く羽ばたき、上空へと飛び立った。


 そのスピードは、まるで超高速エレベーターの如くだった。

凄まじい速度で上昇しているはずなのに、風の抵抗は全くない。


 恐らくローザが魔力で障壁を作り、

二人を全身ごと包み込んでいるのだろう。


 一瞬にして、二人ははるか上空の宮殿の入り口まで送り届けられた。



「ほら、着いたわよ」


「は、早いですねー……さすがです!

いいなー、こんな能力、何か魔道具で再現できないかしら?」


 早くも目を輝かせるオトハに、ローザは笑った。


「ふふ、人間には無理よ。でもね、私の田舎には、

人間なのに私達天使よりも凄まじい魔力を持っていて、

侵攻軍の第一線に抜擢された凄い子もいたわ。

あの子、今頃どうしているかしらねぇ……」


「そんな人もいるんですね。なんていうお名前なんですか?」


「確か、名前はキキ――」


「おいローザ! 何をやっているんだ!」


 宮殿の奥から、別の厳つい天使の声が響いた。


「キルア様の食事が始まるぞ、全員集合だ!」


「あ、ごめんね、上司が来たわ。

私、行くね! 光の柱ツアー、最後まで楽しんでいってね!」


ローザは慌ててバタバタと宮殿の奥へ飛び去っていった。



「……あの天使はん、最後までウチらのこと、

こっちの世界の人間(観光客)と勘違いしてはったな。

おかげで一歩も歩かずにここまで来れたからラッキーやったわ」


 シバがホッと息をつく。


 しかし、オトハはまだ上空を見上げてブツブツと呟いていた。


「あのスピードと、風圧を感じさせない安定性……。

ただの天使の羽の力だけじゃない、何か別の術理を感じました。

ドローンのにゃーちゃんに使った浮力とも違うアプローチで……」


「オトハちゃん。オトハちゃん? ――おーーーい、オ・ト・ハ・ちゃん!」


「はっ! シバさん、すみません、つい考え事をしていました」


「そろそろ移動するで。いつまでも

こんな特等席(宮殿の入り口)にいたら、今度こそ怪しまれるわ」



 そういいながら、シバは周囲を見渡した。


「こっちの世界の人間も、服装を見る限りウチらの世界と大差なさそうや。

ひとまず人が大勢おる場所に紛れよか」


「はい、大勢の中に入っちゃえば分かりませんよね。

あ、あそこに村みたいなものが見えますよ!」


 宮殿の入り口から少し脇に逸れた崖の斜面に、

小さな村が形成されていた。


 宮殿で働く下働きや、出入りの商人たちが利用しているのだろう。


 近づいてみると、宿屋が一緒になった食堂、鍛冶屋、小間物屋が数軒、

そして村人が住む長屋が並んでいる。


 村の中心には小さな噴水があり、

そこでは数人の主婦たちが賑やかに洗濯をしていた。



「あら、珍しい。お客さんじゃないの」


 洗濯をしていたおばちゃんの一人が、二人を見つけて声をかけてきた。


「こんにちはー」


 オトハが愛想よく挨拶する。


「こんにちは。あんたたち見ない顔ね、どこから来たんだい?」


「シルバーランドという、遠い田舎町から出てきました」


「シルバーランド? 聞かない名前だねぇ。

そんなとんだ田舎から連れて来られたのかい、

まだこんなに小さいのに。可哀想に……」


「は、はい……」


「そっちはお兄さんかい?」


「そやねん! はい、そうデス! ボクはオトハの兄デス!」


「なんでまた、こんな最前線に連れて来られたんだい?」


「妹のオトハは、実は村で一番の腕利きの鍛冶師だったんデス。

でも、村が貧しくて税金が納められなくなってしもて……

軍にスカウトされたというか、何というか……」


 シバが涙ながらにデタラメな身の上話をでっち上げる。


「まぁ、それで無理やり連れて来られたのかい! 酷い話だねぇ!」


「だから、今日の宿代も、晩ご飯代も一銭もないんですぅ……」


 シバがシクシクと泣き真似をすると、

おばちゃんたちの母性本能が爆発した。


「「 わかったわ! おばちゃんたちに任せなさい! 」」


 どの世界でも、おばちゃんほど強い種族はいない。

シバ(ユヅキ)は軽く意味ありげな微笑みを浮かべると、

おばちゃんにもらった『飴ちゃん』を口に運ぶのであった。

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