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第75話:アンタのせいで寿命が1万年縮まったわ!

『ヘイヘーイ!

アタイの走りを誰も邪魔させないわよー! 夜露死苦ゥ!!』


〈〈 どかどか! バコーンッ!! 〉〉


「……またかいな」


 シバがパッパカくんの上で後ろを振り返ると、

そこには特攻竹馬パッパコさんの無慈悲な突進(レディース暴走)の

餌食になった魔獣たちが、白目を剥いていくつも転がっていた。


 「こうなると逆に魔獣たちが気の毒になってくるな……。

あの竹馬、暴走族いうより完全に連続ひき逃げ犯の暴走シーンやんけ」


『……それがまっことキュートで、ええがぜよ!

アンタにはこの硬派な走りの美学が分からんがやな!』


 目をハートにしながら嬉々としてパッパコさんの後を追う、

現金な彼氏のパッパカくん。


 そんな世紀末のような爆音チェイスを繰り広げていると、

前方の空間から、鋭い声が響いた。



「――そこの暴走者たち! 止まりなさい!」


「ほら、見てみぃ! 取り締まりに捕まったで!……って、

うわあああ! 遺跡の天使に見つかってしもたわ! しもたーーーっ!!」


 シバが頭を抱えて絶叫する。


『あぁん? アタイの走りを止めたきゃ、戦車でも持ってきな!』


「止まらないと、敵対行為とみなして上層部から一斉攻撃を行いまーす!」


「オトハちゃーーーん、これマジでヤバいで! 一旦、一回止まっとこや!」


「はい、分かりました。パッパコさん、止まってください」



『……チッ、なんや。アネゴ――いや、総長が言うなら仕方ないわ。

野郎ども、ブレーキングよ!』


「うわー、めんどくさい設定やなー……。

ほら、アンタ(パッパカくん)も彼女と一緒に止まりいや」


 二台の竹馬がキキィーッと土煙を上げて急停止する。


 シバが相手をよく見ると、それは確かに「天使」だった。


 だが、ユヅキたち天界の天使とは違い、背中から生えている

羽の色が不気味なほどに『真っ黒』だ。


 その天使はきっちりとした制服を着ており、

どうやらこの遺跡の警備をしているらしい。



「ちょっと!

ここはスピード禁止だし、爆音も禁止なのよ! 分かっているの?

キルア様に知られたら、お説教じゃ済まないんだからね!」


「はぁ、すみません……」


 シバがペコペコと頭を下げる。

と、黒羽の天使はフボッと顔を近づけて二人を凝視した。


「……って、あれ? あなたたち見ない顔ね。

それに、背中に羽がないわ。もしかして――!?」


(しもた、身元がバレたわ……!)


 最悪の事態を想定し、シバは密かに腰のボウガンに手を伸ばした。

一撃で仕留めなければ上空の宮殿に通報される。


「(オトハちゃん、ちょっと作戦を……)」


 シバがオトハに耳打ちをして、

先制攻撃を仕掛けようとした――その矢先。


「えーーー? アタシ達、羽なんて元からないですよー。

この『光の音』を調べに来たんですぅ」


「こ、ここにもアホがおった……っ!

いや、アホを通り越して、もっときっつい天然のドアホや!!」


 シバは白目を剥いた。


 自ら「人間です」と大声で暴露するようなものである。

これはもう、いよいよ戦って口を封じるしかない。


 シバがボウガンをギチギチと握り締めた、その時。


「あら、そうなの?」


 黒羽の天使は、ポンと手を叩いて納得した。


「きっと、田舎の方から最前線の私達の働きぶりを

見にやってきた人間(観光客)なのね!

だったらホント、スピードだけは出さないようにね。

それから爆音もやめて。私がキルア様から叱られるんだから!」


 言うだけ言うと、

天使は満足そうにパタパタと上空へ飛び去っていった。



「……ふぅ。怪しまれなくて助かりましたね、シバさん」


「あほかーーーっ!? アンタのせいで、ウチの寿命が1万年縮まったわ!!」


「もう、シバさんは面白いですねー。一万年も人間は生きられないですよ?」


「あ……せ、せやな。せやったな(ウチは天使やから生きられるけどな!)」


 冷や汗を拭いながら、オトハがパッパコから降りた。


「ここからはパッパカくんたちは使わない方が良さそうですね。

目立ちますし」


「ま、これだけ距離を稼いだら、あとは歩いても大丈夫やな。

せやけどオトハちゃん、リリーはんの話やと、目的の『光の音』は

上空10キロの宮殿にあるんやろ? そこからどうやって上に登るねん」


「そうですね。空を飛べる魔道具はリュックに入り切らなくて

置いてきちゃいましたから……ともかく、宮殿の真下まで行ってみましょう!」


 オトハが腕のアッポーウォッチに触れる。


『はーーい! ご主人様、お呼びですかにゃん?』


 ホログラムの猫耳メイド、リリーがポップに現れた。


「リリーさん、宮殿の真下まで行きたいんですが、

ここからまだまだ距離はありますか?」


『そうですにゃーー。

ご主人様の徒歩のスピードだと、あと丸一日ってところですにゃ!』


「オトハちゃん、そんなら気合い入れて歩こうか!」


「はい! ……でもシバさん、せっかくリリーさんを呼んだので、

ここで少し休憩がてらお食事にしましょう。

リリーさん、よろしくお願いします」



『分かりましたにゃん!』


 リリーが小さく尻尾を振ると、何もない空間にテーブルと

椅子のホログラムが映し出され――やがて、それが嘘のように

光を帯びて実体化していった。


「リリーはんの時も不思議やったが……

この時計、自由に物体を生み出したり消したりできるんやな。

まるで創造魔法みたいやわ」


『いいえ、正しく言うと、このアッポーウォッチの中にある

『ストレージ』から物質データを転送しているのだにゃ!』


「は? ストレスがどないしたんや?」


『ストレージですにゃん! そこでいったん素粒子プログラムを

組み立ててから、現実世界へ物質化デプロイしているにゃん!』


 シバは完全に眉間にシワを寄せた。


「オトハちゃん、コイツの言ってること分かる?」


「いいえ、さっぱりです。後でサトルくんから詳しく聞きましょう。

それより、美味しい料理が食べられるから良いじゃないですか。

ほら、食べましょう!」


 リリーが小難しい説明をしている間に、

実体化したテーブルの上には、出来立てのサンドウィッチ、

新鮮なサラダ、そしてお洒落なデザートが綺麗に並んでいた。


「……それもそうやな! 食べよ食べよ!」


 もともと、シバ(ユヅキ)は深く考えるタイプの天使ではない。


 それに、朝からパッパコさんの爆走に付き合わされたせいで、

お腹は完全にカラッポだったのだ。

二人は並んでサンドウィッチを頬張った。


 天才魔道具士と、商人根性丸出しの元・最弱天使。

魔力ゼロのデコボココンビの珍道中は、まだまだ続く。


 ――ちなみに。


 この日の夜も、しっかり21時から

『ビリビリ大佐の鬼のキャンプ教室』が開催され、

二人が深夜まで涙目で腕立て伏せをさせられたのは、言うまでもない。

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