第71話:一緒に歩こうパッパカくん
「オトハちゃん、待ってやー……。
ウチ、本来は頭脳派やから、歩いたり走ったりっちゅう
肉体労働はめっぽう苦手やねん……」
「シバさん、いつもより歩くのがずいぶん遅いですよ?
もしかして運動不足なんじゃないですか?」
( 違うねん、シバちゃんのこの足が短いからや!)
「オトハちゃん、……せや、なんかこう、
歩くのが劇的に楽になるような都合のええ魔道具とかあらへん?」
洞窟の奥へと進む中、シバの身体を借りたユヅキがハァハァと
情けない息を吐きながら訴えかける。
オトハは足を止めると、感心したようにポンと手を叩いた。
「うーん、歩行を補助する魔道具ですかー。
やっぱりシバさんは時々面白い発想をしますね!
よし、ちょっと作ってみます」
「えっ? 今からできるんかいな!? そら助かるわぁ」
「はい、ちょっとだけ、そこで待っていてくださいね」
「……もしかして、今、この場でゼロから作るんかいな!?」
ユヅキのツッコミを華麗にスルーし、オトハは作業机の代わりに
手頃な平らな岩を見つけると、リュックの中からゴソゴソと
木片や鉄くずを取り出して並べ始めた。
そして、愛用の工具を取り出すなり、
カンカン、トントンと猛烈な勢いで工作を開始する。
「はい、できましたー!」
「できましたーって、アンタ、まだ1分しか経ってへんで!?
……って、やっぱりまだただの木片と鉄くずのままやん!」
「いえいえ、ここでちょっとだけ魔力を込めるんです。
ここをこうして、えい!」
一瞬、淡い光がオトハの手元を包み込んだ。
光が収まった次の瞬間、岩の上にはなぜか、
精巧に装飾された一本の『竹馬』が直立していた。
「……これ、なんですのん?」
「一緒に歩こう『パッパカくん』です!」
「なんか、けったいな名前やな……。
ほんまにこれで楽に歩けるんかいな?」
「じゃあシバさん、ここに足を乗せて、ここを手で掴んでください」
シバ(ユヅキ)が半信半疑のまま竹馬に飛び乗り、
グッとレバーを握るポーズを決めた。
――刹那、どこからともなく、妙に渋い掠れた声が洞窟内に響き渡った。
『ヒヒーン。……いきなり二人乗りは、ちょっと定員オーバーぜよ』
「え? 乗ってるのはシバさん一人ですよ、
パッパカくん。おかしいですね……どこか回路が壊れたのかしら?
一度バラバラに分解して調整が必要ですね」
オトハが物騒な工具を取り出そうとした瞬間、
竹馬がガタガタと激しく震え出した。
『い、いや! わしが完全に勘違いしちょったぜよ!
やき、分解だけはまっこと勘弁してや!』
「なんや、えらい癖の強そうな魔道具やな……」
( って、ウチがシバちゃんの中に入っとる秘密がバレたかと思って
心臓止まるかと思ったわ……! )
冷や汗を流すユヅキを余所に、オトハは満足そうに微笑む。
「それではパッパカくん、出発進行、お願いね」
『わかったちや。真っ直ぐ進むぜよ!』
言うが早いか、竹馬が生き物のように自動でシャカシャカと前に歩き出した。
「うひゃー! これスゴイで、めちゃくちゃ楽ちんやんか!」
「良かったです。ではこの調子で先に進みましょう!」
パッパカくんのおかげで洞窟を順調に進んでいた二人だったが、
突然、前方がすっぱりと切り立つ崖に行き当たった。
崖の下は暗くて底が見えないが、落ちたら確実に即死する深さだ。
対岸の崖までは少なくとも十メートルは離れている。
「どうしましょう。どこかに橋がないかしら?
せめてロープがあればいいんですが……」
「オトハちゃん、それどころじゃないで! 後ろ、後ろ見てみぃ!
なんかヤバい魔獣が追っかけてきてるわ!」
背後の闇から、不気味な地鳴りが近づいてくる。
オトハは小さく息を吐いた。
「仕方ないですね。橋を探す前に、あの魔獣を先に狩っちゃいましょう」




