第68話:神の復活祭と、人類の運命を背負った二人
ケインの声と同時に、荘厳なファンファーレが鳴り響き、
帝王の間の分厚いベルベットのカーテンが開かれた。
現れたのは、威厳と苦労をにじませた初老の男性。
彼こそがロマリア帝国皇帝ジークフリート・ロマリアである。
皇帝はケインの姿を見つけると、玉座の前で、親愛を込めて軽く会釈を交わした。
続いて、横に控えていた小太りの軍務大臣が、
今回の復活祭の趣旨を厳かに説明し、法王を玉座の横へと招き入れる。
そこには世界最大宗教の主にふさわしい、金箔の施された豪華な椅子が用意されていた。
オトハの横でシバがソロバンを静かにはじいてため息をついた。
「(オトハはん、あの椅子、かるく1億を超えるわ!
今回のクエストは報酬が期待できそうや、アンタも気張らんといかんで)」
オトハが返事をしようとするのを、キキョウが氷の視線で止めた。
シバも、それに気づき、ササッとオトハから離れた。
壇上では、法王が皇帝に軽く一礼し、その席へと腰を下ろす。
本日の主役が揃ったところで、大臣が朗々とした声を響かせた。
「これより、神々の復活を祈る使徒を任命する!
メディーナ出身、シバ殿!
そしてシルバーランド出身、オトハ・ブルーノ殿!
皇帝陛下と法王様の御前へ!」
「はーい!」
オトハは学校の出席確認のような気軽さで元気に手を挙げると、
トコトコと前に進み出た。
シバは「あちゃー」と額を抑えながら、静かにその後ろへと続く。
皇帝は、眼前に立つ小さな少女をじっと見つめた。
「そなたが、オトハ殿か。噂は軍務大臣から聞いておる。
我が帝国の至宝をも凌ぐ、とてつもない技術力を持つそうじゃな」
「えへへ、いいえー、そんなことはないですよー!」
「(あっ、あかんオトハはん! 言葉! 言葉遣いや!)」
後ろからシバが必死に小声で突っ込むが、
オトハのマイペースにブレーキはかからない。
「すみませーん。私、あまり偉い人と話したことがなくて……ねぇ、法王様?」
「ば、バカ、オトハ! 法王様も帝国の王様と同じくらい偉い人なのよ!?」
場外からキキョウの悲鳴のようなツッコミが飛ぶ。
しかし、法王は優しく微笑み、首を振った。
「良いのです。オトハ様、私は一向に気になさらないでください。
以前、普通に話しなさいと言ったのは私ですから」
「ふむ……噂通りの『天才』ですな、法王様」
皇帝が可笑しそうに目を細めると、法王も誇らしげに頷いた。
「皇帝陛下。陛下もきっと、彼女をお気に召されると思います」
「だが、今回は人類の運命を託す聖戦。
少しばかり、抜けているようにも見えるが……本当に大丈夫なのかね?」
「陛下!」
皇帝の言葉にケインが前に進み出た。
「彼女はああ見えて、我々凡人では思いもつかない奇跡を発明するのです。
現に、天界の天使が彼女を守護しているのが、その証拠です。
間違いなく、彼女こそが最高の適任者かと」
「ふむ。連合王国側でも、余程の信頼を得ているようだな」
皇帝が驚きの視線を、ケイン皇太子に送った。
「我が父、ロンドラ国王もオトハ殿には並々ならぬ執心なのです」
「ほう、あの堅物のロンドラ王がな。それは面白い。ふふふ……」
皇帝は愉快そうに声を立てて笑った。
「さて、法王様、もう一つ気になっていたのだが、
今回、シルバーランドの聖女は同行しないのですか?」
「はい。今回はオトハ様の守護天使様直々の指名により、
オトハ様とシバ殿の二人で行くようにと。人間を巻き込まないための配慮だそうです」
『人間を巻き込まない』……。
その言葉は、カオルの神がかった暴走劇の被害者、
帝国の皇帝にとっては、何よりも説得力があった。
皇帝が小さく頷く。
「この人選は、我々人間には計り知れぬ神意があるのでしょう。
……では、オトハ様、シバ殿、ここへ」
法王が二人を促し、皇帝と共に前へと進み出る。
皇帝は、宮殿のバルコニーの向こう、何万人という民衆に向けて、
伝説の剣『レオーネカリバー』を高く掲げた。
「皆の者! この二人はこれから神々を祝福し、
復活を祈るために、聖地『光の柱』へと向かう!
我々人類が未来永劫、神の祝福を得るか否かは、
すべて二人の双肩にかかっている!
どうか私と一緒に祈って欲しい!
勇気ある二人に、栄光と幸あれ!!」
「「「 栄光と幸あれぇぇぇぇぇ!!! 」」」
地を揺るがす大歓声の中、オトハはまだ少し眠そうに、
シバは金塊の詰まった遺跡の妄想に胸を膨らませながら、
人類の未来を背負って一歩を踏み出した。
(※なお、その頃、ミアとカイル王子は……
未だ帝国の国境近くの『芋煮会フェスティバル』で、完全に迷子になっていたのである)




