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第66話:託された神託と、『世界の聖女』の誕生

「どうだったのオトハ?サクラは何を言ってきたの?」


 ドラゴンとの戦いを終え、デニッシュを食べていたところを

サクラに呼び出されて、再び奥院の間の扉に入っていったオトハ。


 5分ほどで扉の外に戻ると、

食べかけのデニッシュをパクパク食べ始めた。


 そんなオトハに、キキョウが心配そうに声をかけた。

さっきから何度もタオルで顔を念入りに拭きながら、

未だに怒りで青筋を立てているが、オトハは気にせずに答える。



「私、『光の音』という所に行くらしいです」


「それ、サクラが言ったの?」


「はぐはぐ、、そうみたいれす」


 かじりかけのデニッシュを口に運びながら、

オトハが忙しそうに答える。


「あれ?でも、『光の音』の話をしたのって、

サクラさんじゃなくて、他の天子さんだったかな?」


 2つ目のデニッシュに手を伸ばしながら発した

オトハの言葉に法王が素早く反応した。

 

「「 オトハさん、サクラ様という天使以外にも会われたのですか? 」」


「はい、法王様。

他にいたのはカンナさん、ユヅキさん、や、ヤヨイさんだっけ」


「な、なんと。天界の守護者たる天子様が、そんなに!」


 法王が『奥院の間』の扉に跪き、神に祈りをささげる。


「でも、なんで師匠が一人で、その『光の音』に行くんですか?」


「一人じゃないよ、リサさん」


「えっ、じゃあ私がついていきます」


「いえ、私とシバさんの2人だよ」



「「 なんでやねん!ワイは危ないところには行かへんで 」」


 意外な名前の主がオトハの背中越しにクレームの声を挙げた。


 それまでシバは、帝国大聖堂のホールで、

商品になりそうな貴重品を物色していたが、突然の指名で、

思わず逆切れ気味に反応した。


「でも、サクラさん達には逆らえませんよー。どうしよー。」


 あまりのシバの剣幕に押されて尻込みするオトハを見かねて、

キキョウが助け船を出した。


「あのずる賢い年増女のことだから、他にも何か言ってたでしょ?」


「あ、忘れていました。『光の音』は人間が誕生する前からあって、

とてつもない神の財宝が転がっているらしいです。

シバさんなら、少し持って行っても良いそうですよ」


「なるほど、オトハはん!

ワイ、荷物の準備をしてくるさかい、ここで失礼しますわ。

出発日時は後で教えてや!」


 そういうと、商人の顔に戻ったシバが大聖堂の外へ駆けて行った。



「オトハさんと、シバくんか……。ちょっと不思議な組合せね」


 アドリアが首をかしげると、

デニッシュを食べ終えたオトハが立ち上がり、天使達の伝言を伝えた。


「天使さん達から、みなさんへも伝言があります」


「もう、それを先に言いなさいよ」


 キキョウがオトハに突っ込みを入れる。

その横で、法王とロンドラの皇太子ケインが、頭を下げて神託を待つ。

仕方なく、アドレア、キキョウ、リサも、それに従った。

 

「えっと。これから神々同士の戦いになる。

人間を決して巻き込まないつもりだが、万が一に備え、

各国の聖堂や教会に避難し、神に祈るようにすること」


「な、なんで、そんな大切なことを言い忘れるのよ!」


「まぁまぁ、キキョウさん、抑えてください。

さぁ、オトハ様、他にも信託はございますか?」


「はい、法王様。あとは……。

異世界の人間が入り込んだら、協力して対応するように、だそうです」


「オトハ様、異世界とは?なんでしょう」


 ケインが少しだけ頭を挙げてオトハを見た。


「私にも分からないんですよ。ただ、黒神の世界から

天使だけではなく、人間や竜族が攻め込んでくるらしいです」



「黒神の世界?」


(異世界……人間の侵略……?)


 オトハの口から出たその言葉に、

キキョウは胸の奥を突かれたような衝撃を覚え、一瞬だけ言葉を失った。

だが、すぐに頭を振って思考を戻す。



「詳しくは分かりませんが、私たちの神様とは違う世界の神様で、

その天使たちが、こちらの世界に攻め込んでくるのだそうですよ」


「な、なんと!?

神々の戦いとは、そのような壮大なものだったのですか!」


 法王が思わず姿勢を崩し、キキョウに倒れ込んだ。

高貴なロザリオがその手から零れ落ち、リサが急いで拾い上げる。



「神の神託、承りました。さっそく国に帰り準備いたします」


 ケイン皇太子が立ち上がり、側近に帰国の指令を出した。

続いて、法王も法衣を直しながら、立ち上がる。


「私も各国の聖堂を通じて、国王たちに通達します」


「師匠、私も帝国軍に伝えていきます」


 その場にいた者が、聖戦の準備をするために

帰国路を急ごうとした、その瞬間……。



「「 ちょっと待ってください 」」



「どうしたのですか、キキョウさん」


「皆さんが、そのように立ち振る舞うと、世界中がパニックになりませんか?」


「た、たしかに、ではどうしろと?」


 ケインが焦燥感あふれる表情で、聖女キキョウの言葉を待った。


「私たちに神や天使の相手はできません。

私たちは異世界の人間の侵入を防げばよいのでしょう?」


「たしかに、我が軍、いや世界中の軍隊が束になっても天使1人も敵いません」


「そこで、私たちは敵が出てくる場所、つまり『光の音』を抑えれば良いのです。

各国の軍隊で取り囲めば、どうにかなるのではないでしょうか?

サクラは何か言ってなかったの?」


「確かに異世界とつながっているのは『光の音』らしいです」


「面倒なことになったわね。

サトルを復活させるには『光の音』に行かなくちゃならないし。

でも、そこは異世界とつながる危険な場所なんでしょ」


「カオル様がまた復活されたら、こちらも世界の脅威です」



「それでは、こうしませんか?

オトハ様が『光の音』に突入する日を、神の復活祭としましょう。

そして、オトハ様は『世界の聖女』として、神に挨拶に行くことにします」


「なるほど……! 表向きは『おめでたいお祭り』。

だけどその実態は、異世界の侵略者を迎え撃つ、全人類の総力戦というわけですね」


 ケインが拳を握り、法王の老獪な作戦に目を輝かせた。


「法王様、それはいいですね。

その日はオトハさんを守護するという名目で、

各国の精鋭部隊を『光の音』周辺に待機させ、包囲網を敷きます」


 当のオトハは「はえー」とマヌケな声を漏らしているが、

人間の国々は、魔力ゼロの少女を神輿みこしに担ぎ上げ、

天界をも巻き込む「聖戦」の準備へと一斉に舵を切ったのだった。

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