第60話:強欲の天使と、あの日からの因果
< ふふふ、あのサクラちゃんが、私の前に立ちふさがるなんて。
これも、あの時からの因果だったのでしょうね >
カンナは、遠い過去に思いを馳せていた。
かつてカンナは最強の天使として、神のすぐ傍に侍っていた。
彼女の仕事は、部下の天使たちからの報告を受けることか始まる。
ある日、報告の中に聞き捨てならぬ言葉が紛れていた。
『黒神』いわゆる邪神である。
『黒神』とは神に唯一、対抗できる絶対的力を持つ存在。
その『黒神』は500万年前に、神と戦い傷つき、隠れている。
「カンナ様、『黒神』の手下らしき者を捕まえました。
どうやら、敵は天界23号地に巣くっているようです」
報告を受けてカンナが到着するころ、
決まってアジトは、もぬけの殻だった。
( これは天使の中に裏切者がいるに違いない。しかし…… )
カンナの勘は、全く別の形で現れることになる。
神界の政治を司る館から、ある声明が出された。
それはカンナの耳を疑う内容だった。
『神は「人類庇護」のため竜界を滅ぼすこととなった』
カンナは館に駆け込み、館長のルシフェルを問い詰めた。
< アンタの妹が竜界を守っていると知っていて、
あんな無謀な声明を出したの?本当に神の意志なの? >
< カンナ、実は俺もさっき初めて知ったんだ >
< それじゃ、一体だれが? >
あとで判明したのだが、
その首謀者はルシフェルの副官、サクヤだった。
カンナはサクヤを問い詰めようとしたが、謎の力に阻まれた。
その力は自分より強い存在のものだった。
神界でカンナを上回る魔力の持ち主はいない。
つまり天使より上位の存在が関与している。
そこで初めて、カンナは一連の騒動が黒神の仕業だと気が付いた。
そんな中、カンナは黒神の手下を捕縛し、思いもよらぬ計画が
進められていることを知る。
黒神の狙いは、ルシフェルの妹「サクラ」だったのだ。
黒神は、サクヤを通じて竜界を滅ぼし、サクラを激怒させる計画を練った。
そして最期には、サクラを神界から追放させるという。
( サクラは妹ヤヨイのの幼馴染。何とか?守れないものか? )
計画が現実になる前に、首謀者のサクヤを捕縛したい。
しかし、いつも追い詰めるのだが、ギリギリのところで、
黒神の精神干渉に侵された他の天使たちに邪魔をされてしまう。
この時点で、カンナは全てを察した。
人間を生み出したのは神ではなく黒神ではないのか?
人間はサクラをつぶす道具として生み出したに過ぎない。
サクラが消えたら、用済みで消し去るつもりだ。
数日後、カンナの予想通り、サクラは天界から追放されてしまう。
間に合わなかった……。
今、カンナにできることは、自分がサクラを守ることだけだ。
彼女は行き所がなくなったサクラを囲い、サクラに敵意を見せる者を
片っ端から吊るし上げていった。
カンナがサクラを守っていることは神界に広がった。
しかし、神界でカンナに逆らえる天使はいない。
そのため、黒神は手を変え品を変え、サクラを追い詰めていく。
次に刺客として黒神が送り込んだのは、ユヅキだ。
ユヅキは黒神に生み出され、ヤヨイに近づき親友となった。
彼女の役割は、サクラに近づき、隙を見てサクラを消すことだ。
ユヅキはとんとん拍子でヤヨイに近づき、
得意の精神干渉術で親友にまで関係を発展させた。
そのスピードは、あまりにも順調すぎた。
そのため、ユヅキの心に油断が生まれた。
< お姉さま、この子がユヅキさん。私の新しいお友達ですの >
ヤヨイが神界の政務室を訪れ、友達を紹介してきた。
ヤヨイがカンナに、友達を紹介するなんて初めてのことだ。
嬉しさ半分、怪しさ半分で、カンナは挨拶を受けた。
< カンナ様、はじめまして >
ユヅキがぺこりと頭を下げる。
その仕草にカンナが違和感を覚えた。
ユヅキの身体に普通の天使にはない、黒い魔力が流れていたのだ。
< なるほど、今度は妹からサクラちゃんを狙うってことね? >
< え?お姉さま、どういうことですか? >
< 説明はあとよ >
ユヅキが半身で逃げかけた瞬間、カンナの捕縛魔法が彼女を縛る。
< この子は私が預かるわ。アンタは帰りなさい >
< お姉さま、ユヅキは私の親友よ。離して! >
< うるさい、帰りなさい >
カンナの風属性魔法が顕現したかと思うと、
ヤヨイはそのまま部屋から建物の外へ吹きとばされた。
< さて、アンタ、どうしましょうか?
黒神のことでも、話してもらおうかしらね >
< 誰が、ご主人様の事を話すものか?
お前など、すぐにご主人様が消し滅ぼしてくれようぞ >
<ふーーん、楽しみね。じゃあ、その前にアンタが消えましょうか? >
カンナは、ユヅキを消し去る呪文を詠唱し始める
しかし、その矢先、妹ヤヨイの悲しがる顔が目に浮かんだ。
妹が初めて作った親友……。
こんな形で、優しいヤヨイの気持ちを傷つける訳にはいかない。
< しかたない。アンタの記憶を奪わせてもらうわ >
カンナが、精神清浄魔法を唱える。
聖なる水流がユヅキを巻き込み、黒神の記憶を全て抹消し、
代りにヤヨイを明るく照らす、コテコテの人格を植え付けていく。
この時、ユヅキは全くの別人として生まれ変わった。
その代償として、彼女の魔力は全て消えてしまったのである。
爆音を轟かせる聖なる水流。
政務室の外には、天使たちの人だかりができていた。
扉の向こうで起こっていることを、皆が噂した。
噂は独り歩きし、カンナがユヅキから魔力を奪ったという物語ができた。
これが「強欲の天使」真相であった。
( 私が守ったサクラが、今、私に刃を向けている…… )
因縁のサクラが、今、人間のために私と戦うと言う。
しかもそれは、自分を潰すために作られた道具たちのため……。
カンナの頭は混乱した。しかし、1つだけ言えることがあった。
『愛すべきサクラと戦える幸せも一興』
( やはり、私は強い相手と戦うことが好きらしい )
ふふ、と笑うカンナ。
その向こうでは、サクラが、ゆっくりと魔剣「第六天魔」を抜く。
カンナも、合わせるようにして魔剣「ティルヴィング 」を抜いた。
二人の剣が抜かれたところで、カンナが結界を展開。
転移魔法であたり一面が見覚えのある景色に転送された。
その地は、神界の闘技場「フラウィウス」。
< さぁ、サクラちゃん、ここならお互いに本気でぶつかり合えるわ >
< ふふふ、負けたからって言い訳しないでよね >
< うわーーー、しもたーーー >
二人から遠く離れた闘技場の観覧席でユヅキが頭を抱えた。
< 会場が分かってれば、チケットがバカ売れやし、
転写魔法で各地の天使たちからも観戦料取れたで。
このカードなら、入れ食いやったわ。しもたーー >
当初、ヤヨイもサクラ側で参戦するつもりだった。
しかし、今はこうして観覧席で酒を煽っている。
世紀の対決を前に、ヤヨイの視線は二人より遠くを見ていた。
その目には、対決の邪魔者を絶対に阻止する強い意志が込められていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
徐々に明かされていく天使たちの秘密。
最後の最後でヤヨイがフラグを立てていましたが、
対決に水を差すのは、一体誰か?次回もお楽しみに!




