第59話:天使の遊戯と、黄金の記憶
『 ほほう。あの娘の代わりに、お前が相手をしてくれるのか?
ワシの燃え上がった気分を満足させてくれるなら、誰でもいいぞ 』
黄金の巨体を揺らし、竜王ルークが吠える。
対するサクラは、退屈そうに髪を弄りながら鼻で笑った。
< ふーん、言うじゃない。大丈夫、殺しはしないから遊んであげるわね >
ルークの金色の尾が赤く光る。
それは、竜王が最大魔力を放出する前の合図だった。
『 竜王の本当の力を見せてやる! ぬおぉぉぉーーーっ! 』
極大魔法『ボルケーノ』がさく裂した。
数千度の熱がドラゴンの尾から撃ち出され、稲妻を帯びた紅蓮の炎がサクラに襲いかかる。
だが、サクラは避ける気配を見せない。
< またサクラちゃん、けったいな遊びをしてはるな >
< まったく、恥ずかしいくらい陰険なイジメです。
自分は竜族を守るために神に逆らったくせに、
堂々とイジメるなんて。どれだけ自分本位なのよ >
ユヅキとヤヨイが呆れ顔でディスる中、炎がサクラを完全に呑み込んだ。
『 わーはははは! おかげですっきりしたぞ。所詮は人間ごときが! 』
「……アンタ、本当に私が人間に見えるの?」
炎の中から、煤一つ付いていないサクラが悠然と歩み出た。
『 な……何故だ!? ワシの一撃をまともに喰らって生きているだと!? 』
< なるほどね。カンナの精神干渉にやられているから、
アタシの正体にも気づかないわけか。……いいわ、もう少し遊びに付き合ってあげる >
サクラが右手の人差し指を天に掲げ、静かに囁いた。
< ……ボルケーノ。これが本当のボルケーノよ >
指先から放たれたのは、得体の知れない密度を持った魔力。
それは巨大な火の玉となり、音もなく、まわりの空気を飲み込みながら
ドラゴンへと吸い込まれていった。
『うぎゃあああああーーーっ!!』
一瞬で魔炎に包まれたゴールドドラゴンは、断末魔を上げてそのまま気絶した。
< サクラさん、やりすぎよ >
< そや。さすがのウチも、あの竜に同情したわ >
< 手加減したわよ。
でも、カンナの呪縛を解くには、ある程度のパワーが必要だったのよ >
――ゴールドドラゴンは、夢を見ていた。
懐かしい声が聞こえる。
それは、何万年も前の記憶。一族が絶滅の危機に瀕した時、
その身を挺して神に歯向かい、自分たちを守ってくれた御方の声。
目を開けると、そこには三人の天使が揉めていた。
その一人を見た瞬間、ルークの黄金の瞳が大きく見開かれた。
『 ……あ、あなた様は! サクラ様!? 』
< どうやら、カンナの呪縛が解けたわね >
『 私は……ワシは、何という失礼を……! 』
< いいのよ。私たち天使でも、カンナの精神干渉には逆らえないわ。
それだけ彼女の力は飛び抜けているの >
その時、奥院の扉が開き冷ややかな魔力が入ってきた。
同時に竜王ルークはしっぽを丸めて、縮まってしまう。
< ……あら、サクラちゃん、久しぶりね……。
我が妹ヤヨイに、それと……ユヅキちゃんかぁ >
闇の中から現れたのは、美しくも冷酷な光を放つ天使——カンナ。
< 仲良し三人組が、私のペットをイジメてまで、何をしに来たのかしら? >
< ここの奥院の間で、アタシの人間に『ある魔法』を使わせようと思って、来てみたのよ >
< ふーん。サクラちゃんが人間を加護しているなんて、時代も変わったものね >
驚いたような表情でおどけてみせるカンナ。
< 私は人間が嫌いなの。だから、だーめ!
そもそも、サクラちゃんがあんな目に遭ったのも人間のせいよ。
だからあの時、私は、サクラちゃんを守ったの >
カンナの言葉に、サクラは苦笑した。
< あの時のことは感謝している。だけど、今回だけは譲れないの >
< 何故そこまで人間に尽くすの? >
< 今加護をしている子が、面白い子なの >
カンナの瞳に興味の色が浮かぶ。
< サクラちゃんにそこまで言わせるなんて。……わかったわ。
じゃあ、アナタが私に勝ったら、使わせてあげる。
サクラちゃんなら分かるでしょ? 私たちは同じ種類の天使なんだから >
カンナが手を振ると、神殿一帯に強力な結界が張られた。
<ユヅキちゃんはそこで見ていなさい。……あっ、ヤヨイは加勢してもいいわよ?>
天界でNo1の武闘派と言われるカンナ。
そして、天界を焼き尽くした規格外の魔力を持つサクラ。
かつて天界を揺るがした天使同士の因縁の対決が、
静まり返った大神殿の奥底で幕を開ける。
「シバくん、そのデニッシュ私のよ」
「会長はん、早いもん勝ちですわ」
「じゃ、法王様、私にそのパンをお恵み下さい」
「いいえ。こればかりはいけません。
このパンは神からのいただきものです」
「アドレアさん、私のも譲れません」
「オトハ!早く焼かないと、ゴールドドラゴンと戦う前に
デニッシュの争奪戦でけが人が出るわよ」
「はいはい。もう少し待ってくださいね。
オーブンちゃんをフルパワーで動かします、それっ!」
「師匠!その操作!完璧です!」
死闘が始まる奥院の間の前では、空腹に襲われた
人間たちの熾烈なデニッシュ争奪戦が繰り広げられていた。
そして、彼らを追いかけているミアとカイル王子。
いまだに追いつけず、帝国の国境でさまよっているのであった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
いよいよ最強天使同士の戦いに突入です。
明日も続きを投稿予定です。どうぞお楽しみに!




