第57話:キキョウ VS 赤竜 ~ 聖女+デニッシュ=竜の丸焼き
「あらあら、あなたたちの相手はボクだよ、
ボクから逃げたいなら見逃してあげてもいいけど、ふふふ」
キキョウの挑発的を耳にした二匹の赤竜は、煮えくり返るような怒りを見せた。
『 まずはお前から食ってやる!パンはその次だ 』
『 人間め、死ね! 』
二匹の竜が同時にキキョウへ襲いかかる。
今度は本気だ。
前衛の竜がその爪を真っ赤に燃え上がらせて斬りかかり、
後衛の竜がその隙間を縫うように連続してファイヤーブレスを吐き続ける。
「危ない!!
キキョウさんに、なにか援護を……!」
ケインが加勢しようと立ち上がる。
しかし、リサが小さな身体をはってケインを制した。
「だめです。私たちが戦いに入ったら、
かえって足を引っ張ってしまいます。今は見守るしかないんです」
「……私としたことが冷静さを失ってしまいました。
リサさん、ありがとう」
「私は、神に祈ることにしよう……」
場外の仲間たちが緊迫した雰囲気で、キキョウを見守る中、
オトハはオーブンを触りながらニヤニヤしていた。
「キキョウさーん、焼き上がりましたーー!」
オトハが焼きたてのパンをキキョウの顔めがけて投げつける。
「ば、ばか! すぐによこしたら熱いじゃないの!」
「ばふばふ」と熱さに悶えながらも、キキョウはパンを口にした。
その瞬間、彼女の全身から溢れ出す魔力量が、爆発的に跳ね上がる。
「ああ、これで勝負は決まったわね」
生徒会長のアドリアが遠い目をした。
「キキョウさんがあの表情をするとき、無敵モードなのよ」
「会長はんも経験ありますもんなぁー」
「シバくん、余計なことはいいの。あれは忘れたい思い出なんだから」
◇◆◇◆◇◆
『なんだ? あの人間、急に魔力が増えたぞ』
『大丈夫よ、栄養補給したからと言って人間は所詮人間よ!
このまま押し切りましょ!』
竜たちがギアを上げる。
攻撃スピードは2倍、3倍へと加速し、鋭い爪が空気を切り裂く。
だが、そのすべてがキキョウをかすりもしない。
「……おかしいな。俺たち、調子が悪いのかな?」
竜が戸惑いを見せた瞬間、
キキョウが静かに剣を構え、左手で杖を天に掲げた。
「そろそろ終わりにしましょう」
呼び寄せられた巨大な雷雲から、
幾条もの稲妻がキキョウの剣へと吸い込まれていく。
刹那、彼女が剣を一閃させると、
世界が真っ白に染まるほどの爆音が鳴り響いた。
<< バババドカーーーン!! >>
視界が戻ったとき、
そこには黒焦げになって横たわる二匹の竜の姿があった。
「今の技……見えた?」
「魔力を込めたところまでは見えたんですが、後は光しか……会長はんは?」
「私もよ。味方でも引いてしまうわね、あの剣技は」
誰もが勝利を確信した。
だが、オトハだけは無表情に、冷ややかに呟いた。
「……次、来ます。もっと大きい竜です」
「えぇ!? まだ来るの……?」
キキョウはすでに肩で息をしていた。
いくらパンで補給したとはいえ、今の雷撃は体力を奪う。
「ちょっと……私、疲れたから、オトハが代わってよ」
「えーーー。私、パンを焼くのが仕事ですから」
「いつからパン屋になったのよ! 魔道具士としてサポートしなさいよ」
「ししょーーー! いいところを見せてくださいよ!」
リサの応援(?)を受け、
オトハは「もう、仕方ないですね」とけだるそうに前に出た。
法王とアドリアが心配そうにシバへ尋ねる。
「大丈夫なのですか? あの子は魔道具士でしょう?」
「ワイも一度しか見たことないけど、なかなか強いんでっせ。
キキョウはんが任せるんやから大丈夫やろ」
しかし、その楽観的な空気は、
扉の奥から現れた「ソレ」によって一瞬で吹き飛んだ。
広間を埋め尽くすほどの神々しい輝き。
現れたのは、災厄の象徴――ゴールドドラゴンだった。
赤竜が「師団で挑んで五分五分」なら、
ゴールドドラゴンは「全人類が逃げるしかない」絶望の化身。
かつて連合軍を文字通り一瞬で葬り去り、
周辺諸国を未だに癒えぬ砂漠に変えた伝説の存在だ。
ケイン皇太子と法王は、
その圧倒的なプレッシャーを前に、なすすべもなく気絶した。
「師匠……私もすぐ後を追います。これまでありがとうございました……」
リサまでもが、死を覚悟して遺言を口にする。
だが、この場には、その絶望を全く理解していない者が二名いた。
「リサさん……『すぐに終わらせろ』だなんて、せっかちなんだからー。
なるべく急ぐから、待っててね」
「い、いえ、私が言ったのは、そういう意味では……」
「リサさん、ドントマインドや」
シバがリサの肩をポンと叩いて、遠くを見る。
「ここにいる、みーんな、オトハはんの空気読めない攻撃で
やられてきたメンバーや」
そういいながらシバが会長に視線を送る。
「わ、私は違うわよ、オトハさんとは面識ないし」
「またー、そないな事いいはって」
「だから、私は……」
かつてない世界の大ピンチ。
緊張感のかけらもなくなった場外席では、
もはや、3人はオトハの事なんて忘れて騒いでいる。
その中、オトハが露骨に嫌そうな、
けだるい顔をして、伝説の竜の前に立った。
最後までお読みいただきありがとうございます。
いよいよ次回は、乗り気じゃないオトハの出番。
ゴールドドラゴン相手に、どんな戦いになるのでしょう。
まぁ、普通じゃないです(笑)。どうぞ、お楽しみに!




