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第56話:大神殿の死闘と、焼き立てのパンの香り

 「さ、さすがは帝国の大神殿。素晴らしい装飾ですね……。

我が法国の神殿にも全く見劣りしません」


 足を踏み入れた法王が、感嘆の声を漏らした。

それに対し、オトハが素朴な疑問を口にする。


「法王様が信じている神様と、帝国の神様は同じなんですか?」


「オトハ様、神様は常におひとりです。

呼び名や解釈が違うだけで、実は同じ神様を敬っているのです」


「へぇー。じゃあ法王様が呼べば、ここの神様にも声が届くのかしら」


「さぁ……私はまだ、神の御声を直接拝聴したことはありませんので」


 苦笑する法王に、キキョウが横からツッコミを入れる。


「大体、天使の声が平然と聞こえるアンタがおかしいのよ、オトハ」



 和やかな空気は、キキョウがピタリと足を止めたことで霧散した。


「……待ってください!サクラさんが、この先から注意しろと言っています」


 それは大ホールの突き当たりにある小さな扉だった。

キキョウが手をかけると、微かな震えが伝わってくる。


「ものすごい魔力を感じます」


「はい、キキョウ殿。私も感じてきました」


 ケインが剣の柄に手をかける。生徒会長のアドリアが進み出た。


「キキョウさん、法王様、お下がりください」


 会長が呪文を唱えると、

一行を包むように魔力のバリア――多層防護結界が展開された。


 ギギギ、と重い音を立てて扉が開く。


「な、なるほど。これはすごい……」


 ケインがつぶやいた。

扉の向こうの広間には、数えきれないほどの魔獣が蠢き、徘徊していたのだ。



「どうせ戦いに来たんだから、やるしかないですね」


 不敵に笑い、リサが先頭に立った。

その手には、リサ自作の最新兵器『拡散式魔導砲』が握られている。


「師匠、お先に失礼しまーす!」


 リサの叫びとともに、バリバリバリッ! と、

ショットガンのような轟音が響いた。


 放たれた無数の魔弾は広範囲を薙ぎ払い、魔獣の群れを次々と沈めていく。

撃ち漏らした個体は、続くヤヨイの鋭いレイピアの餌食となった。


「あの娘達が味方で助かりましたな。

敵に回れば地に這うのは我々だったかもしれません」


 法王が感心すると、ケインも頷く。


「我が国にも、あのような鬼神のごとき兵が欲しいものです」


「確かに。ですが、ここで

少しくらい大人の魅力も見せなければなりませんね。ケイン様、援護を」


 法王が杖を掲げ、荘厳な呪文を唱えた。


「誇り高き精霊たちよ、今ここに我の力となり顕現せよ――

イカルスの翼をもつ空の王よ、眼前の敵を滅ぼしたまえ!」


 現れたのは、巨大な黄金のワシ。

空の王は鋭い爪で急降下を繰り返し、残っていた魔獣の群れを一掃した。


「さすがは法王様や。普段オトハはんの前ではニコニコなのに

ホンマは怒らせたらあかん、怖いお人やったんやな」


 扉の外で監視していたシバが肩をすくめる。



 前方からリサと会長アドレアが戻ってきた。


「キキョウさん、活躍の場を奪ってごめんなさいね」


 アドリアが勝ち誇ったように微笑むが、キキョウは首を振った。


「いえ、皆さんの実力を改めて見せていただきました。

……ですが、ここからが本番です」


「……ええ。いま、相手の天使の声が聞こえちゃいました。

次は『竜族』を送り込むって言っています」


 オトハの言葉に、その場の空気が凍りついた。



 竜族……。

人間がどれほどレベルを上げても決して敵わない、SSSランクを超越した存在。


「サクラさんが言うには、ただの竜じゃなくて、天使が加護するので、

天使そのものに匹敵する力を持つそうです」


 オトハの言葉に凍り付いた空気が絶望へと変わった。

キキョウが冷静に告げる。


「大丈夫。だから私とオトハがいるんです。そろそろ来ます!

皆さんは少し離れたところで休んでいてください」


<< ズシン! >>


 キキョウの声の途中で轟音が響く。

大神殿の天井に届かんばかりの巨体を揺らし、二匹の赤竜が姿を現したのだ。


『ふふふ、人間がたくさんいるわ。美味しそう』


『1000年前みたいに、俺たちだけで国を滅ぼしちまうか!』


 法王が顔を青くする。かつて隣国を滅ぼした伝説の魔竜そのものだった。


「二匹だけですか。ちょっと遊び足りないかもしれませんね」


 キキョウが不敵に笑う。竜たちが一斉に飛びかかってきた。


『一人目、いただきーーー!』


 赤竜の巨大な爪がオトハに迫る。だが、オトハは動かない。


<< バキバキッ! >>


 鈍い音と共に、竜の爪が宙を舞った。


『???』


 オトハを襲った赤竜が、

片足を上げたまま、動きを止められキョトンとしている。


「ねえ、あんた。爪が伸びすぎると女の子にモテないわよ」


 いつの間にか、赤竜の爪が短くなっている。

キキョウの剣が、電光石火の速さで刈り取っていたのだ。


『人間め!ふざけたことを!』


 もう一匹が猛烈なファイヤーブレスを吐きながら体当たりを仕掛ける。


「火遊びは大人になってからするものよ」


 キキョウが杖を振るうと、一瞬で巨大な氷山が出現し、竜の頭上へ叩きつけられた。


 伝説の竜を赤子扱いするキキョウの背後で、

オトハは戦場に似つかわしくない作業に没頭していた。


 魔法のオーブンをゴソゴソといじり、温度を確かめている。


「さぁ、そろそろ焼けますよーーー」


『戦いの最中に、あの小娘は何をやってるんだ……!?』


『この匂い……パンだと!? 舐め腐りやがって!』


 竜の咆哮が響く中、大神殿には香ばしく、

暴力的に美味しそうなパンの香りが立ち込め始めていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


いよいよ始まりましたラストバトル。

まだまだ熱い展開は続きます。お楽しみに!

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