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第55話:「奇跡のエビ」と天使の宴会

 ロマリア帝国の国境。

そこには、停戦中とはいえ一触即発の緊張感が漂う入国検査場があった。


 物々しい装備に身を包んだ兵士たちが鋭い視線を走らせ、

通行人の一人ひとりに厳しい検問を行っている。


 そこへ近づくオトハ一行。

二人の兵士が険しい表情で歩み寄ってきたが、

先頭に立つ人物の顔を認めた瞬間、その表情が劇的に和らいだ。


「リサ少尉! お久しぶりです。どちらへ行かれていたのですか?」


 兵士たちが駆け寄り、親しげに挨拶を交わす。

リサは一介の技術将校だが、現場の兵士からの人気は絶大だった。


 彼女は誰に対しても分け隔てなく接し、何より彼女が改良した武器が、

幾度となく最前線で彼らの命を救ってきたからだ。


「カオル様は戻られていますか?」


 リサの問いに、兵士たちは顔を見合わせた。


「いいえ、局長は少尉と同じく消息不明です。我々はご一緒だとばかり……。

ところで噂では、局長が帝国の兵を消し飛ばしたと聞きましたが、本当でしょうか?」


「わ、私は分かりません! それより、この方々を引率してきました。

既に連絡は入っているはずですが」


「はい。交換留学生の件ですね。キキョウ様にオトハ様、

ケイン様にシバ様、そして引率の先生……伺っております。案内は――」


「私がします。学生と年齢が近いので、私が適任だと指令を受けていますから」


 リサの機転により、一行は何の疑いも持たれることなく国境を抜けた。


「ありがとう、リサ殿。冷や冷やしましたが、

なかなかスリルがあって面白いですね。カイルも来たがっただろうな」


 ケインが笑うと、オトハが不思議そうに尋ねた。


「なぜカイルさんは来なかったんですか?」


「あいつは私の政務の代役ですよ。これも王族の修行ですから。慣れてもらわなくては」


「ふーん、カイルさん、キキョウさんと一緒にいられなくて可哀想ですねぇ」


 キキョウの顔を見ると、複雑そうな顔をして遠くを見ていた。



 ――その頃。


「は、は、はくしょんっ!」


 国境付近の険しい山道を、二つの影が猛スピードで移動していた。


「カイル様、大丈夫でっか? ほんまについてこれますの?」


 呆れた声を出すのは、竜族の末裔にして商業都市メディーナの

ギルド長の一人娘ミアだ。


「はぁ、はぁ……ミアさん、大丈夫……です。でも、もう少しスピードを下げて……!」


「無理やわ。なんせ不法侵入やさかいな、

見つからんスピードで飛び抜けるしかないんや。

王族が敵国に入ったなんてバレたら即、命狙われるで。ほな、いきまっせ!」


「うわあああ!」


 月明かりの下、悲鳴と共にカイルの体は夜空へと消えていった。


◆◇◆◇◆◇


 夕方、オトハ一行は帝国の首都へと到着した。

シバの案内で向かったのは、宿ではなく商業ギルドの建物だった。


「シバさん、ここギルドじゃないですか」


「せやで、リサはん。ギルドの方が自由が利くし、法王様やケインはんの安全も守りやすいんですわ」


 一行はシバが予約していた、

格式高いメディーナ風レストランへと足を運んだ。


 そこで待ち構えていたのは、見覚えのある銀髪の少女だった。


「お待ちしておりました、皆様」


「生徒会長!」


 シルバーランド魔法学園の生徒会長、侯爵家の娘、アドリア。

彼女は前線での魔力爆発の後、調査のために首都に残り、偵察を行っていたのだという。


「実は……大暴れしたカオル局長ですが、今はシルバーランドの温泉地、

ツサーク地方に入り浸って療養しているとの情報が入っています」


「温泉療養……。あの時、魔力が切れたと言っていたものね。

充電が完了すれば、また動き出すつもりかしら」


 キキョウの言葉に、アドリアが深刻そうに頷く。


「一日も早く、サトル様を復活させなければなりませんね」


 ――キキョウたちが真面目な話をしていた、その時だった。

店の厨房から甲高い声が響いた。


「う、うわーっ! お客さん、やめてください!」


「ほうほう、ここがこうなってるのね。じゃあ、こうしたらどうなるかしら?」


「さすが師匠です! 効率が跳ね上がりました!」


 厨房の方から、主人の悲鳴と助けを呼ぶ声が響く。


「うひひ、いいからいいから!」


「えへへ、怖がらなくていいんですよぉ」


「それ以上は壊れてしまいますよぉーっ!」


<< ドカーーーン!! >>


 凄まじい爆発音と共に、笑顔のオトハとリサが厨房から出てきた。

後ろでは、初老の店主が涙目で、皿いっぱいのエビのグリルを抱えて震えている。


「ご主人、どうしたんでっか?」


「お客さん! こんな子たちを連れてこられたら困ります!

あっという間にフライパンを壊して、自動調理器に作り変えてしまったんです。

こんな不気味な料理、捨てますよ!」


「ちょっと待って、ワイが食べてみるわ」


 シバがエビを一つ口に放り込む。


「……っ! めっちゃ、うまいでこれ!」


「本当ですか? では私も……」


 アドリアも一口食べると、とろけるような表情になった。


「これは高級レストランの味ですわ! 素晴らしい美味です!」


 ケインも法王も、次々とエビを口にし、満面の笑みを浮かべる。

慌てて主人が食べてみると、あまりの美味さに飛び上がって驚いた。


「ほらね、どうですか! 師匠にかかれば、魔道具は生まれ変わるんです!」


 リサが誇らしげに胸を張る。



< おまたせー、お酒と肴くすねてきたでー!>


 オトハたちがいるレストランが見下ろせる教会の屋根の上。

2つの影が宴会で盛り上がっている。


 そこへ、もう一つの影、ユヅキが上機嫌で瓶を抱えて戻ってきた。


< ユヅキ、遅いわよ、って、美味そうなエビ、でかしたわ! >


<うっま、このエビ! ヤヨイちゃんも食べてや >


< まったく、明日はカンナとの対決があるというのに……んぐっ!?>


 文句を言おうとしたヤヨイの口に、ユヅキがエビを無理やり詰め込む。


< あら……美味しいわね。これは飲まないといけないわ >


< ヤヨイ、いいわね! 今夜は前哨戦よ。ほらユヅキ、酒が足りないわよ!>


 大神殿での決戦を翌日に控え、帝国の一夜は、破壊神と聖女、

そして天才技術者たちによる賑やかな宴に染まっていった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

最後の決戦を前に、主役が集まりました。


この後、二日酔いの天使たちが、強敵カンナにどう立ち向かえるのか?

そして、無事にサトルは復活できるのか?

次話もどうぞお楽しみに。

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