第53話:効率の師弟と「極限」のパン。~最悪の天使を打ち破る、秘密のバフ~
「デニッシュが……ホワイトホール?
サクラさん、なんですか、その『何とかホール』って?」
オトハが小首を傾げると、サクラがやれやれと首を振った。
< あぁ、この世界の子にホワイトホールは難しかったわね。
ちょっと説明するわ。いい? オトハ、ちゃんとキキョウに伝えてね >
「はーい。任せてください!」
オトハはサクラの言葉を、
その場でキキョウたちに同時通訳し始めた。
「これからみんなが向かおうとしている場所、
ロマリア帝国の大神殿の『奥の間』にはね、昔から最悪な天使が住み着いているんだって」
「天使って、サクラみたいな人?」
キキョウの問いに、サクラは苦々しく頷く。
< えぇ、そうよ。そして、アタシ達の中で一番強いわ。
アタシは小さい頃から、あいつには泣かされていたの >
「サクラさんを泣かせるほど……相当やばそうですね」
< 機嫌が悪いと、アンタ達を襲ってくる可能性もあるわ。
直接攻撃はしなくても、魔族や竜をけしかけてくるはずよ >
『襲ってくる』という言葉を聞いて、キキョウ達に緊張が走る。
< 今のキキョウなら普通の竜には勝てるでしょうけど、
あいつ……カンナの『加護』を纏った竜が出てきたら、おそらくは瞬殺ね >
オトハがその言葉を伝えると、キキョウは自分の掌を見つめた。
「加護……。確かに、サクラの姿を見るようになってから、
ボクの魔力が不思議と溢れる感じがするわ。この前、竜に勝てたのもその力だったと思う」
< それは、アンタがオトハを通じて、間接的にアタシの加護を受けているからよ >
「サクラのおかげで魔力が上がったのは嬉しいけど、
もっと強い天使がバックについた竜が相手なら、人間が挑むなんて無謀ね……」
「なるほど、それって私たちのバフ魔法に似てますね!
でもサクラさん、それとデニッシュがどう繋がるんですか?」
< カンナの魔力の源は、すべての力を奪う『ブラックホール』なの。
力を吸い取る反動で、絶対的な魔力を生み出しているわ。
その力を相殺するために、強制的に魔力を溢れさせる力――『ホワイトホール』が必要なのよ >
「なるほど、デニッシュなら相殺できそうですね!」
< ただ、今のデニッシュだと、まだパワーが足りないわね…… >
「サクラさん、デニッシュのパワーなら、まだまだ上がりますよ」
< ……嘘でしょ? そんな簡単に魔力を生み出せるなら、天使なんて必要ないわよ >
「でも、この前の『コゲコゲデニッシュ』が強烈な魔力を産んだのが面白くて、
研究していたら、一定の法則で魔力制御ができちゃったんです!」
< あぁ、オトハ。アンタって子は、どこまでこの世界を壊せば気が済むの…… >
サクラが呆れるのを余所に、オトハは腕を組んでうなった。
「でも、あと一息なんです。パワーの収束がうまくいかなくて。もっと『効率化』が進めばいいんですが……」
「それなら、リサに頼んだらどうだ?」
キキョウの提案に、オトハの目が輝いた。
「グッドアイデアです、キキョウさん!」
オトハはさっそく、部屋に引きこもっていたリサの元へ向かう。
「リサさん、ちょっと私の仕事を手伝ってほしいんですが」
「……どうしました? 師匠」
憔悴していたリサだったが、オトハの顔を見て居住まいを正した。
「このパン、食べると魔力が増す特性があるんだけど、
生み出す魔力をもっと効率的に上げたいの」
「これが……あの奇跡のデニッシュですか!?
あぁ、なんという神々しさ。さすがは師匠です!
ぜひ、その仕組みを伝授してください!」
「実は、オーブンを適当に修理していたら偶然できちゃったんです。
熱量と注入する魔力量の加減で、生み出せる魔力が変わるみたい。あとはチューニング次第かな」
「ぐ……偶然ですか……。――手伝わせてください! 私のすべてを捧げます!」
リサは悲しみを忘れて立ち上がった。
技術者としてのオタクの血が再び蘇る。
その日から、オトハとリサは実験室に籠りきりになった。
扉の向こうからは、連日連夜、怪しげな会話が漏れてくる。
「うっひゃー! 見てリサさん、波形が安定しましたよ!」
「うへへへ……さすが師匠、この魔力回路の配置は天才の所業です!」
「ここをもっとギュッとして、効率化しちゃいましょう!」
「うひひ、最高です師匠!」
「な、何よあの会話は。当分、この部屋には近づかないでおきましょう」
廊下を通るキキョウたちは、その狂気じみた笑い声に顔をひきつらせた。
……そして四日目の朝。
「やったぁぁぁ! リサさん、ありがとうございます!」
「……成し遂げましたね、師匠……」
ボロボロになった二人が、ふらふらと部屋から出てきた。
煤で顔を汚し、髪はボサボサ。だがその表情は、達成感に満ちた満面の笑顔だった。
「……その表情、うまくいったのね?」
待ち構えていたキキョウが尋ねると、オトハは誇らしげに胸を張った。
「はい、キキョウさん、お待たせしました!
それにしても、リサさん凄かったんですよ。
計算速度が速くて、チューニングが完璧です!」
オトハが振り返ると、リサは限界を迎えたのか、
机に顔を埋めたまま、幸せそうな顔でスースーと寝息を立てていた。
その手元には、これまでとは比較にならないほど眩い光を放つ、究極のデニッシュが並んでいた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ついに最終決戦に向けた準備の一歩目が整いました。
自話は、帝国の大神殿・奥の間に挑みます。
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